真実の愛の末路〜オーガスト&アリス(因果応報2)
「さて。茶番は済みましたか?」
リリーの冷めた声が響く。
「お前たち。今日何故ここに呼ばれたか、理解しましたか?」
リリーはオーガストとアリスを睨め付ける。
オーガストは俯きアリスは泣きじゃくっている。
「いい加減に泣き止みなさい、鬱陶しい!」
リリーに怒鳴られ、アリスはビクリと身を震わせる。
「ふう…」
リリーは大きく溜め息を吐き
「お前たちのしでかした事でこちらのエメット侯爵家とベイカーズ男爵家、そしてシンプソン男爵家から苦情が寄せられたのです。」
そう言ってリリーは馬鹿二人を睨む。
「…え?」
オーガストとアリスは目を瞠る。
「お前たち…まさか自分たちがしでかした事の意味が分かっていないのですか?」
「………」
リリーは馬鹿たちのキョトンとした顔を見て、またもや溜め息が出る。
「お前たち…よく自分たちが侮辱し切り捨てた方に、こんな恥知らずな手紙が書けましたね?」
リリーは二人が書いた“力作”をパンパンと叩きながらそう言う。
「………」
馬鹿二人は呆然とする。恥知らず?自分はただ、今の窮状を訴え助けてくれるよう婚約者にお願いしただけだ!
「その上オーガスト!お前は我が屋敷にいらしたロザリー嬢に危害を加えようとしましたね?」
「そんな!危害なんて…」
オーガストは必死に弁明する。
「黙らっしゃい!!馬車を降りて我が家の門を潜ったロザリー嬢に体当たりしようとしたと報告が上がっているのですよ!?」
リリーの剣幕にオーガストは怯みつつ
「そんな…体当たりなんて…。俺はただ、ロザリーが迎えに来てくれた事が嬉しくて…」
必死の形相で言い募る。
「うちの娘を気安く呼び捨てにしないで頂戴!!」
聞き苦しい言い訳を続けるオーガストにフェビアンヌ=エメット侯爵がブチ切れ、怒鳴り上げる。
「…!」
フェビアンヌの剣幕にオーガストはビクリと震え上がる。
「お前と娘は既に婚約者では無いわ!お前とそこのアバズレが真実の愛とやらの為に、一方的に破棄したんでしょうが!?」
「………」
オーガストは何も言えない。
「なのに!思ったのとは違う、ちょっとばかり辛い現実から逃れる為にうちの娘を利用しようとして!!」
「そんな…ちょっとばかり、って…」
オーガストは言い返そうとする。今の自分の現状はちょっとどころではなく、辛く苦しいのに!
「お前より辛く苦しい思いをしている人なんて、他に幾らでもいるわ!甘ったれるのも大概にしなさい!!」
「………」
オーガストは腹が立ってきた。ロザリーは自分の婚約者なのだ。困っている婚約者を助けるのは当然じゃないのか?
「その上あんな恥知らずな手紙を送りつけようとした挙げ句に姿を見たら体当たり?巫山戯るのもいい加減にして頂戴!」
フェビアンヌはそこまで言い切るともうオーガストを見る事は無かった。
「君は一体何処までうちの娘を侮辱すれば気が済むんだ?」
今度はロザリーの父、ブライアンが口を開く。
「うちの娘は、君たちに“断罪”されるまで君の為に色々頑張ってきた。そんな娘に君たちはありもしない罪で断罪した挙げ句に婚約破棄、更には国外追放だったか?君にそんな権限があるなんて全く知らなかったよ。」
「………」
あの時ロザリーに言われた事と全く同じ事をその父に言われ、馬鹿二人は固まる。
「婚約破棄はまだしも、国外追放だなんて君は女王陛下以上の権限をお持ちだったんだね。」
流石の馬鹿にもこの嫌味は通じたようで、オーガストは俯く。
「それを聞いた時は本当に驚いたよ。女王陛下でさえ、国外追放なんて処分は独断では決められない。必ず何度も慎重に調査と審議を重ねた上で成される処分なのだから。」
「………」
ここで、はあ…っと溜め息が聞こえた。
「?」
馬鹿二人はその出処を探してキョロキョロする。
「君は…本当に学園でどんな勉強をしていたんだ?」
「…マーク……」
アリスは呆然とその名を呼ぶ。
「国外追放という処分は決して独断では決められない。それは庶民学校の初等科でも習う事だよ?」
マークは呆れ果てた顔でそう告げる。
「マーク…?」
アリスはマークの様子に首を傾げる。
「今となっては、君との婚約が流れたのは行幸だったな。」
そう言ってマークは、彼の横に立つ女性に目を向け微笑み掛ける。
「!」
アリスは嫉妬に狂いそうになる。マークは私のものなのに!
「君と別れる事が出来たお陰で僕はこんなに素晴らしい女性、マデリンと出会えたのだから。」
そしてマークは優しくマデリンの肩を抱き寄せた。