真実の愛の末路〜オーガスト&アリス(因果応報)
その日、オーガストとアリスはキャンベル公爵リリー=キャンベルの執務室に連行された。
「………」
「………」
オーガストとアリスは、リリーの執務室で顔を合わせ、非っ常〜に気不味い。というか不愉快だ。
それから随分長いこと待たされ、ようやくこの場に姿を現したキャンベル公爵家当主、リリーがオーガストとアリスを鋭い視線でジロジロ検分する。
「母上。一体何の用ですか?」
相も変わらずオーガストは、未だ公爵令息の気分で母に尋ねる。
「!」
それまで周囲の騎士や侍女たちは静かに佇んでいたが、オーガストが口を開いた瞬間、場は殺気立つ。
「……」
母に無言で睨まれ、身を竦ませるオーガストてアリス。
「…お前たちに問いたい事があります。」
リリーは厳しい表情と口調で馬鹿二人に告げる。
そう言ってリリーは引出しからニ通の手紙を取り出し二人の目の前に突き出す。
「…これは一体、何の真似ですか?」
「………」
それは二人が嘗ての婚約者に窮状を訴え、助けを求めた例の手紙だった。
「………」
二人は答えられない。それよりも、その手紙が何故リリーの手元にあるのか?
「答えなさい!」
リリーの口調は更に厳しい。二人はリリーの剣幕と、ここにある筈の無い手紙の存在に恐れおののき
身動ぎもままならない。
「…あ、…な、…何故……?」
ようやく絞り出した声は恐怖の余り掠れている。
「何故?お前はそんな事も分からないの?」
リリーは溜め息を吐き、頭が痛いと額を押さえる。
「お前たちの手紙が、中をあらためられる事なく出される訳が無いでしょう?当然、私が検閲したのです。」
「な!」
オーガストは驚愕の余り失神しそうになる。
「どうぞ、お入りください。」
リリーはこれ以上は時間の無駄と判断し、次の事案に移る。
「? …!」
入ってきたのはエメット侯爵夫妻とベイカーズ男爵夫妻。それから見慣れない男女だった。
「マーク!」
アリスが驚いた表情で口に手を当てている。
「マークぅ〜」
アリスは甘えた声を出し、マークと呼ばれた男に近寄ろうとする。
「近寄るな!」
マークは険しい表情でアリスを拒絶。
「どうしたのぉ?私を迎えに来てくれたんでしょう?さあ、こんな所さっさと出て行きましょう?」
アリスは夢見心地でマークにしなだれかかろうとする。が、次の瞬間、頬に重い衝撃を受けアリスは後ろに転倒する。
「な!?」
アリスは愕然としてマークを見つめる。
「マーク様に近づかないで!汚らわしい!!」
見ると、マークの横にいた女性が顔を真っ赤にして拳を前に突き出していた。
「え?マーク?…何、この女……?」
呆然としたままアリスはマークに問う。
「彼女は僕の婚約者だ。」
マークは険しい表情のまま答える。
「え?婚約者…って。マーク?何で!?」
アリスは混乱して叫ぶ。だって、マークは私と将来を誓い合ったのに…?
「何で、って?一体何を言っているんだ?」
マークは呆れ顔だ。
「だって!マークは私と将来を誓い合ったじゃない!?」
アリスは堪らず叫ぶが
「お前はそこの男と夫婦になっただろうが?馬鹿も休み休み言いなさい。」
「パパ!」
アリスは父パウル=ベイカーズ男爵に縋りつこうとする。
「触るんじゃない!」
パウルは元娘から逃れる為に身を捩る。
「パパ〜」
それでも父親に縋りつこうとパウルに近寄る。
「いい加減にしなさい!」
横から頬を張り倒され、再びアリスは転倒する。
「…うっ…何故ぇ……?」
アリスは遂に泣き出した。周囲はそれを侮蔑の目で見下ろすばかりだ。
「ママぁ〜」
アリスは自分を張り倒した張本人、母ジェシカ=ベイカーズを呆然と見つめる。
「お前はそこの男と真実の愛とやらで結ばれたのでしょう?ならば最後まで添い遂げなさい!」
「ママ〜、そんな酷い事言わないで〜!私、こいつに騙されたんだからぁ〜」
アリスは必死に泣き落とそうとする。が、周囲にはそんな事はお見通しだ。
「あらそう。でも、何の罪もないお嬢様を断罪してまで勝ち取った愛でしょう?だったら、最後までその責任を果たしなさい。」
ジェシカはそう言い捨てる。
「そんなぁ〜!パパ〜、ママ〜!」
その場にアリスの悲痛?な叫びが響くが、誰一人として耳を傾ける者はいなかった。