また自分の小説の中に入っちゃった…2
「え?」
私は首を傾げる。私が作り上げてから誕生した世界だから、意味不明な連中に目を付けられたと?それは一体どういう事だ?
「私どもも、はっきりとは分かりかねますが…」
エスターシャは困ったような表情で私を見つめる。
「この世界は生まれて間もない世界ですので、奴らが付け入る隙が多いというのは言えるかと。」
「まあ、それはそうかもね。」
これを聞いて私は何となく得心がいった。確かにまだまだ設定も決めてないものも多いから、その辺りで奴らの良いように歪められている感じなんだろう。
「それで、女神様たちはさっさと話を進めろってせっついている訳か…」
女神様たちが何故私に話を進めろと、やたらと焦っているように見えるのはそういう事なのか。
私は思わず溜め息が出る。取り敢えず女神様たちがやたらと焦っている理由は分かった。しかし、だからといって即対応!というのも中々難しいのだ。
だって、ねぇ…。前にも言ったけど、この話は基本的にその時の思いつきで書き綴っている。大まかな筋はあるけれど、その時その時の気分で展開はどう転ぶのかはその場面にならなければ分からない。マジで自分でも予想がつかないのである。
私は溜め息をこぼす。こりゃ、予想以上に前途多難かも知れない。
そもそも何だってこんな事態に陥っているのやら。私はただ、自分の理想の世界を自分だけの為に作り上げ、楽しんでいただけなのに。
これまで何度も何度も繰り返してきた愚痴を更にこぼしつつ、私は自分の楽園を守る為に頑張って小説を書き続ける事を改めて決意した。
「それはそうと。私、この世界を見てみたい!」
突然の私の言葉に女神様たちは軽く目を瞠る。
「え?」
リブラ、ヨーティア、エスターシャは驚いた表情でまじまじと私を見つめてくる。
「え?」
何故にそんな反応が返ってくる?
「何?出来ないの?」
思わず責めるような口調になってしまう。
「それは…勿論出来ますが…」
エスターシャが何やら言い辛そうに口をモゴモゴさせている。
「じゃあいいじゃん!何でそんな困った顔してんの?」
「それは…」
女神様たちは一様に言い辛そうに視線を交わし合う。
「ミナティ様。この世界の描写、ほとんど進んでいませんよね?」
オズオズとヨーティアが切り出す。
「? そうだね?」
それが一体どうした?
「ミナティ様がこの世界を散策するにはまだまだ描写が不足しているのです。」
「はい?」
「小説で描写されていない場所にミナティ様が行く事は出来ないのです。」
「………」
何だそりゃ?
「ですので…現在ミナティ様がこの世界で行ける場所は…」
「ポーラ村だけって事?」
私は目眩がした。何故に自分が作った世界を自由に歩き回る事が出来ないんだよ?まあ、ポーラ村には主人公のアプリコットちゃんとミィムちゃんがいるから、別に異存は無いけれど…何だか釈然としない。
「いえ、それが…」
女神様たちはどうしようかと言わんばかりに忙しなく視線を交わし合う。
「ポーラ村に祀られているのはヨーティアですので…その…」
私は大きく溜め息を吐く。
「つまり。ポーラ村の神様はヨーティアだから、今現在ヨーティアしか行けない、と?」
「…はい。」
リブラが申し訳無さそうに頷く。
「………」
私はもう何と言って良いやら分からない。
「一応確認するけど…私、今現在何処になら行ける訳?」
自分のこめかみに青筋が浮かんでいるのが分かる。流石にこれは無くないか?
「ミナティ様始め、私ども神々は現在は自らが祀られている神殿にのみ移動が可能です。」
「現在は?前は違ったって事?」
私はふと引っ掛かり聞いてみる。
「はい。以前は特に縛りなく何処にでも行けたのですが…これも奴らの仕業です。」
「…はあ?」
私は開いた口が塞がらない。
「でも、ここには集まってるじゃん?」
そう言った後に気付いた。それは多分…
「それは、ここは王都にある総合神殿だからです。」
やっぱりか。そういえばそんな事を描写した気がする。
「んじゃ、王都も存在はしてるんだ?」
「勿論です。王都だけでなく、様々な地方都市や小規模な街に数多の村も存在しますよ。」
「なのに、そこには行けない、と。」
またまた溜め息が出る。本当、自分が作った世界なのに何故にこう自由にならないのか?マジで解せない。
「はい。しかし、ミナティ様がしっかりと描写して下されば行けるようになります。」
リブラは“しっかりと描写”を特に強調してくる。
「…頑張ります。」
私は力無くそう返事を返す。ただの娯楽だった筈の小説の執筆が、何やら大層な使命になっている事に困惑しながら。