真実の愛の末路〜オーガスト&アリス(オーガスト編2)
「これで良し!」
俺はロザリー宛の手紙を認め封をすると、思わずニヤケが出てきて止まらない。
“これで、こんな馬鹿げた日々ともおさらばだ!!”
そう思うと嬉しくて堪らない。
この手紙には、俺の現状をこれでもか!と哀れっぽく書き記した。
これを読んだロザリーはどんなに反応をするだろうか?驚き慌て、血相を変えて駆け付けてくるに違いない。
“母上もロザリーが懇願するなら聞き入れるだろうしな。”
そうなればしめたものだ。
“この際、相手があのロザリーだって構わないさ。俺を連れ出してくれた後、ちょっとだけ可愛がってやればロザリーはこれ以上は無いくらい喜ぶに違いない。”
俺はここから出た後の事をあれこれ妄想してはニヤニヤしていると
「何、ニヤニヤしているのよ?」
アリスが気味悪そうな表現で俺に話し掛けてくる。
何だよ?俺に話し掛けてくるなんざ珍しいな?
「いや。別に何も。」
俺は澄まして答える。この事がアリスにバレたら厄介だ。…それに、こいつとはもうすぐおさらばだ。だったら、わざわざ面倒を起こす事も無いからな。
「あ、そ。」
アリスはそうとだけ答え、プイッとそっぽを向く。
「………」
何だよ?変な奴。
まあいい。もうすぐこいつとおさらば出来るのだと思えば、寛大にもなれるってもんだ。
翌日、俺はその手紙をいつものように使用人に預け、ビルから割りふられた仕事に取り掛かる。
俺に割りふられた仕事は庭の手入れだ。この屋敷には当然庭師が何人も雇われているが、何しろ庭がとてつもなく広い。庭師だけでは管理が行き届かず、庭の草取りや掃除といった雑用は下男に割りふられるんだと。
庭の草取りなんて楽勝だ!と最初は思っていたが、やってみてこれは相当な重労働だと思い知った。
まずずっと中腰でブチブチブチブチ地道に引っこ抜くから腰が痛い。次いで根がやたらと張っていて中々抜けなかったり、草で手を切ったりと散々だ。俺は直ぐに音を上げた。
ああくそ!こんな事やってられるかよ?
ロザリー、早く迎えに来いよ?
草取りは一日で終わらず、手紙を出してから数日経ってもまだ草取りは終わらない。
ビルにはノロマと罵られたが、ここの庭はクソ広いんだぞ?これくらいかかるっつーの!
そんな感じで俺が渋々草取りをしていると、門の前に立派な馬車が停まった。
“あ!あれは!!”
間違いない。あの馬車はエメット侯爵家の馬車だ!
“ロザリー!やっと来たのか!!”
俺は嬉しさの余り雄叫びを上げ、ガッツポーズを取る。
俺の声に驚いたのか、ロザリーは目を見開いてこちらを見つめていた。
「ロザリー!!」
俺は喜色満面でロザリーに駆け寄る。
「! キャ〜〜!!」
ロザリーは悲鳴を上げ、身を捩る。
「ロザリー!やっと来てくれたんだね!?俺は信じていたよ!!」
俺は感動の余りロザリーに抱きつこうと両手を広げる。愛しい恋人との感動の再会だ、少しだけ口調も優しくして…
次の瞬間俺は鳩尾に猛烈な衝撃を受け、俺の身体は宙を舞い、近くの木に激しく激突した。
「…うっ、……」
俺は呻き声を上げ、その場に踞る。
…一体、何が起こった…?
「大丈夫でしたか、エメット侯爵令嬢。」
サラマンディア神殿からロザリーの護衛として遣わされた神官、ジェラはロザリーに安否を尋ねる。
「ええ。大丈夫です。ありがとうございました。」
ロザリーはまだ少し表情を強張らせたまま応える。
「無事で良かった。恐ろしい思いをさせてしまい、誠に申し訳ない。」
ジェラともう一人の神官、リザは深々と頭を下げる。
「お顔を上げてくださいませ。私は何ともありませんし、貴女方は私を守って下さったのですから。」
ロザリーはニッコリ笑う。
「かたじけない。」
そう言ってロザリーは、ジェラとリザを伴い屋敷に入って行く。
“…ロザリー?”
俺は愕然とロザリーたちを見送った。
“ロザリー…、俺を迎えに来たんじゃなかったのか…?”
あの後、守衛に取り押さえられ再び地下牢に収容された俺。状況が理解出来ず、牢の中でしきりに首を捻る。
“は?もしやロザリーがあんなつれない態度だったのは、母に切り出すまで悟られないようにする為なのか?”
母の自分に対する態度は余りに酷い。いきなりロザリーが母にそう切り出しても応じて貰えない恐れがある。だからロザリーは、あの場では俺につれない態度を取ったのだとすれば納得がいく。
“ロザリー。意外に可愛い所があるじゃないか…”
俺はロザリーの心遣いに嬉しくなり、顔が思わずニヤけまくる。
この数日後アリスと共に母に呼ばれ、更に地獄を見る事になるのを、俺は全く知らなかった…