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真実の愛の末路〜オーガスト&アリス(アリス編)

「もう!本っ当〜に!最悪!!」

 アリスは一人、悪態をつく。

 こんな筈じゃ無かった!

 本当なら自分は今ごろ公爵令息夫人となって何一つ不自由の無い、贅沢三昧な日々を送っていた筈なのに!

 しかし、現実はどうだ!?クソ生意気で高慢ちきなロザリー=エメット侯爵令嬢から婚約者だった公爵令息を奪い取り、満を持して断罪イベントをやったまでは良かった。

 しかし、断罪される悪役令嬢のロザリーは断罪されている間中泣きも喚きもせず、終始生意気な顔と態度だった。

 その上、立ち去り際に国外追放の命令が誤りだった場合は公爵家に咎が行くだのお家取り潰しだの不吉な事を言い残して行った。

 その時は負け犬の遠吠えだと思っていたけど下校の時、キャンベル公爵家の馬車は既に引き払った後で私とオーガストは歩いて帰る事になった。

 屋敷に着いたら着いたで、誰一人出迎えに出て来ないわ、ようやく出てきた執事は無礼千万な態度だわ、挙げ句に義母になる筈の女当主は素っ気ない態度で接してくるし、もう散々!




 結婚を認めてくれたと思って書類にサインした途端に、乱暴な守衛たちに拘束されて見窄らしい掘っ立て小屋に押し込まれた。

 そいつらは、今から私たちはここで暮らすのだと言い放った。そして、このお屋敷の下男・下女として奉仕するのだと。

 冗談じゃ無かった。何故私がそんな事をしなきゃならないの?

 折角パパが数年前に叙爵して、一般庶民から男爵とはいえ貴族令嬢になったのに!やっと!きつくて汚い下働きから開放されたのに!!

 私は裕福な貴族に嫁いで贅沢三昧に暮らしたかったのに…何で下働きに戻らなきゃならないのよ!?




 オーガストはそんな時に出会ったいい鴨だった。

 あいつは婚約者がいる身でありながら、私に愛を囁いた。ドレスでも宝石でも何でも好きな物を買ってくれたし、豪華なランチやディナーも食べさせてくれた。

 そしてオーガストの家は公爵家、しかもその母親は女王の覚えもめでたい宰相補佐だ。オーガストはその後継りだという。私の野望にこれ程いい話は無い。

 だから私はオーガストと結婚しようと思ったのに。

「こんなの…聞いてないわよ!」

 オーガストがロザリーとの婚約を破棄して私と婚約したいと言うから。

 折角なら今流行りの断罪イベントをやりたいと思ったので、わざわざ自作自演までしたのに。

 “本来なら”私を虐めてくるロザリーがちっとも私に絡まないから…



 そう、私には前世の記憶がある。私はこことは別の世界で生きた記憶があるのだ。

 前世でハマっていた乙女ゲームそっくりのこの世界。しかも私はそのヒロインに転生したのだ!

 それを知った時、私は心が震えた。

「この世界は私の為にある!」

 本当に、そう思っていたのに…



 攻略対象の一人、オーガストをものにした私はワクワクしながらロザリーが絡んでくるのを待っていた。

 でもロザリーはちっとも私を虐めてこないから、私は自分で教材を破り捨てたりロザリーの前でわざと転んだり、色々“努力”したのよ?

 そんな私を呆れた目で見たのは許せない。これは本当ならあんたがやる事でしょう!?

 幸いオーガストは私がロザリーに虐められているという訴えを信じてくれたけど。



 そして満を持しての断罪イベント。私はロザリーがどんな醜態を晒すか楽しみにしていたのに…

 予想に反してロザリーは終始取り乱す事は無かった。もっと驚けよ。泣けよ、喚けよ!!

 ああ、面白くない!ロザリーの醜態を嘲笑ってやるのが楽しみだったのに、何でそんなに冷静なのよ!?



 こんな事ならオーガストなんか攻略しなきゃ良かった!こんな事なら男爵令嬢のままでいたわよ!

 私にだって婚約者がいたんだから。マーク=シンプソンっていうその男は去年男爵に成ったばかりの若い男よ。

 マークは若くして商人として名を馳せ、パパとも取引があった縁で私とマークは婚約したの。

 マークはプラチナブロンドとサファイアのような青い瞳が印象的なイケメンよ。

 私はマークの婚約者である事が自慢だった。だって、マークはあの辺りでは出世頭だったし何より超が付くほどのイケメンよ。

 私がオーガストと恋仲になって、マークとの婚約は解消したけど…マークはきっと私が戻ってくるのを待っている筈!



「そうよ!マークに手紙を書こう!」

 私は妙案を思い付いて舞い上がる。

 マークに今の惨状を涙ながらに訴えれば、マークは必ず私を連れ出しに駆け付けてくれる筈。

 下女に落とされてからオーガストとは碌に口も利いていない。顔を見るのも嫌だったので、返事すら碌に返さなかった。

「でも…これが最後なら少しだけ優しくしてあげてもいいかしら?」

 私はほくそ笑む。

 オーガストには最早欠片の愛情も持ち合わせていない。だって、贅沢させてくれるっていう約束を破ったのよ?そんな最悪最低な嘘つき野郎と今まで同じ屋根の下で過ごしてやったのは私の慈悲以外の何物でもない。

「マーク、待っててね。私、今から貴方の元へ戻るから!」

 私は、私からの手紙を待ち焦がれている筈のマークへ、今の現状を悲劇のヒロイン風に認めた手紙を送り付けた、筈だった…

 


 


 

 

 

 


 

 

 


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