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真実の愛の末路〜オーガスト&アリス(オーガスト編)

「くそ!何でこうなったんだ!?」

 オーガストは自分を取り巻く現状が不満で不満で仕方無かった。

「何でこの俺がこんな汚ねぇ仕事をしなきゃならないんだよ!?」

 オーガストは現在、生家であるキャンベル公爵邸の下男として毎日毎日、陽が昇る前から叩き起こされ夜は日が変わるまで働かされている。

 勿論、食事は朝晩きちんと出して貰えるが、如何せん我が儘放題・贅沢三昧に暮らしてきた元公爵家の放蕩息子である。当然ながら、まずその食事が口に合わない。

 そこで文句を言ったら、その日は丸一日食事を貰えなかった。

 空きっ腹を抱えて深夜、厨房に忍び入り食べ物をちょろまかした所、翌日オーガストとアリスの監督を任されている下男を総括するビルに猛烈な叱責を受け、何度も蹴られた。

 その日も丸一日食事は抜き、再び深夜に厨房に忍び入ろうとした所でビルに見つかり、今度は母の前に突き出された。

 母の顔を見て、これで自分は救われる!と思ったのも束の間、母は自分を力一杯殴りつけ足蹴にした。 

 オーガストは母の顔を呆然と見つめていると

「卑しいこそ泥が!恥を知りなさい!!」

 と怒鳴った後、もう一度足蹴にした。

「………」

 オーガストは訳が分からず、ただ母の暴力をその身に受けるだけだった。


   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 自分の婚約者だったロザリー=エメットに婚約破棄を言い渡してから何もかもが上手く行かない。

 “ロザリーが何かしたのか…?” 

 最初はそう思いロザリーを悪し様に罵っていたが、よくよく考えればロザリーにそこまでする理由は無い。

 “なら何故だ?”

 何故自分はこんな目に遭わなければならない?

 そう考え出すと、もう止まらない。

 “アリスも、近頃は随分と生意気だしな…”

 アリスは自分と一緒に下女に落とされたその時から、自分に対して素っ気なくなった。

 以前は自分が何を言っても何をしても“素敵!貴方は何て素晴らしい!貴方の言う事は正しい!”と何でも肯定してくれていたのに下女になった途端、殆ど会話をしなくなった。

 こちらが話しかけても無視するし、おはようの挨拶も碌に返さない。最近は何でもかんでも文句ばかり言って、こちらの話しなど全く聞かない。

 そんなアリスに嫌気が差し離婚しようとしたが、それをビルに知られた時、鼻で嗤われた。

 曰く“お前たちに、そんなに権利は無い。”と。 

 そんな筈は無い!このミナティリアは庶民にだって結婚する自由と離婚する自由が保証されている!

 それを涙ながらに母に訴えたら

「お前とあのアバズレにそんなに権利はありません!」

 と断言された。

 何故なのか?と泣きながら母に縋りついたら、母は盛大な溜め息を吐き、あの時サインした書類の控えを取り出し俺の前に突き出した。 

「?」

 俺はその書類に改めて目を通す。…別に不審な点は無い。要約するとそこには自分とアリスの結婚を認め、いつ如何なる場合にも、二人が共に死を迎えるまで二人を分かつ事は出来ない、と書かれている。

「これがどうかしましたか?」

 俺は首を傾げる。

「はあ…よく読んでみなさい!」

 母は頭が痛いのか、額に手を当て苦悶の表情を浮かべる。

「母上、何処かお加減が悪いのですか?」

 俺は母の体調を気遣って、そう声を掛ける。

「誰のせいですか!?それから私はお前の母ではありません!今後一切母と呼ぶのを禁じます!!」

 母の言葉に俺は愕然とする。

「何故ですか?母上!…俺は!」

 その瞬間俺の額に硬いものが直撃し、その衝撃に俺は呻き声を上げ、額を押さえる。

「…あ、」

 俺の額にぶつかったのは、母のインク壺だった。

「もう用は済んだでしょう?とっとと出てお行きなさい!!」

 母の剣幕に俺は立ち竦み、動けない。

「早く出て行け!誰か!」

 母の叫びに守衛がワラワラと押し入り、俺を拘束する。

「な!おい!母ぅ…」

 その直後、頬をぶん殴られた。

「…連れて行きなさい!」

 母はそう言い放った後、二度と俺を見る事は無かった。

 守衛に連行され、俺は地下牢に放り込まれた。

「………」

 しばらくの間呆然とした後、俺は沸々と怒りが沸いてきた。

 “何で俺が、俺だけがこんな目に遭わなきゃいけないんだ!?”

 ジメジメと湿っぽく薄暗い牢の中で怒り狂っている内に、俺の脳裏にはロザリーが浮かんだ。

 “そうだ!ロザリーなら!”

 俺は光明を見出した気分だ。ロザリーは俺に惚れ込んでいた筈だ。この現状を切々と訴えれば、ロザリーなら大急ぎで俺をこのくだらない現状から連れ出してくれるだろう。

 そう考えた俺は、急いでロザリー宛に手紙を認める事にした。


 


 

 

 

 


  

 



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