断罪被害者との会合
「皆様、よくお集まり下さいました。」
ハルモニアがにこやかに挨拶をする。
本日はユゼット邸にてお茶会が開かれた。
招かれた客はロザリー・シンシア・フローレ・マリーゼ・ソニア・アンジェラ・カトレア。
ロザリーとシンシアはそこまで大規模に催す積もりは無かったのだが…ハルモニアからお茶会を主催したいとの申し出があり、ならばとお任せしたらこんな事になっていた。
因みにセーラも誘ったのだが、生憎遠方の領地にいる為、今回は不参加である。
セーラ本人はこの会合に酷く興味を持ったらしく、次の機会には絶対に参加する!と意気込んでいるらしい。
「本日はかの断罪の被害者同士、思う存分語り明かしましょう!」
…何やら、鼻息が荒いハルモニアである。
「まずはマリーゼ様のお話しを聞きたいですわ。」
カトレアが興味津々に身を乗り出してくる。
マリーゼの一件は王宮が絡んでいる事もあり、休学中の断罪被害者の耳にもしっかりと届いている。が、当然といえば当然だが、内容は結構断片的で噂の域を出ないのだ。
「そうですわね。」
マリーゼは少し考え
「結論から言えば、彼らは国外追放になりました。」
「あらまあ!」
「それで?彼らは大人しく受け入れましたの?」
アンジェラは懐疑的に尋ねる。断罪イベントなんぞをやらかす馬鹿が、そんな処分を唯唯諾諾と受け入れる訳が無いのだ。
「まさか。往生際悪くゴネまくっていましたわ。」
マリーゼは肩を竦める。あの時の奴らの見苦しさを思い出し、改めて不快な気分になる。
「ルーカスの馬鹿は何かの間違いだと喚き、それが通じず窮地に立った途端、あろうことか私に弁護しろと要求してきましたわ!」
マリーゼが憤懣やる方ない!という勢いでそう言うと
「え?」
「一方的に婚約破棄されたマリーゼ様が、馬鹿の窮地に救いの手を差し伸べろと要求されたのですか?」
「はい。因みにそれは陛下の御前で堂々と、ですわ。」
「そいつ、馬鹿ですの?ああ、馬鹿でしたわね。」
ソニアの口調も中々辛辣である。
「そもそも何かの間違いって何ですの?馬鹿たちのやらかした事は、大勢の方がしっかり目撃しているんですのよ?間違いも何もありませんわ!」
ハルモニアも容赦無く切り捨てる。
「因みに女の方は、ただ只管泣きじゃくっていましたわね。」
マリーゼは淡々と話す。
「はあ…。泣くくらいなら最初から断罪などしなければ宜しいのに。」
ロザリーは呆れた口調で言う。
「その後は各々両親とお屋敷に戻り国を出るまでの間、お屋敷に閉じ込められているそうですわ。」
「…それ、甘過ぎません事?」
カトレアが不満の声を上げる。
「閉じ込められているのは地下牢だそうですわ。ただ…シモンズ様のお屋敷には地下牢は無いそうで、鍵の掛かる納屋に閉じ込めているとか。」
「あら、そうですの。」
カトレアは納得したようだ。
「因みにお屋敷に戻るまでの間もお二人は散々、自分は悪くない、相手に騙された、何かの間違いだ、と喚き散らしていたと聞いておりますわ。」
「………」
集まった令嬢たちは、皆一様に呆れ果てた表情を浮かべている。
「…そこまでやらかしておいて、何故その言い分が通ると思えるのでしょう?」
ハルモニアがポツリと呟き、皆がウンウンと頷いている。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ところで皆様。」
ソニアは意を決したように切り出す。
「私、皆様に聞いて頂きたい事がありますの。」
皆はソニアの方へ視線を向ける。
「これからお話しする事は、とても信じられる話しではございません。断罪を受けて頭がおかしくなったのでは?と思われるかも知れません…ですが、本当の事なのです。」
「………」
ロザリーとシンシアは顔を見合わせる。これは…もしかして…?
「先に深くお詫びを申し上げます。」
そう言ってソニアは深々と頭を下げる。
「私がもっと早く勇気を出して、皆様にお話ししていれば…皆様が辛い思いをなさる事は無かったでしょう。ですが…あの時は、まさかここまで被害が広がるなんて夢にも思わなかったのです。」
…やっぱり!ロザリーとシンシアは確信した。ソニアは自分たちと同じだ、と。
「白状しますと、私は自分があの者たちに断罪される事は分かっておりました。何故ならば…」
ソニアは言葉を切り、呼吸を整える。
「私には、ソニア=スピレイとは別の人生の記憶があるのです。」