断罪イベントのその後~馬鹿男&ヒロインver.3ー4
「では判決を言い渡します。」
厳かな女王の声が響く。
学園でマリーゼを断罪して王宮に連行されたルーカス=オルトランと、グロリア=シモンズは戦々恐々と女王の言葉を待つ。
あの日から数日の間、ルーカスとグロリアは王宮で拘束されたままだった。それぞれ別の牢にに収容され、恋人たちは実に数日ぶりに顔を合わせた。
その間、ルーカスとグロリアは看守の騎士たちから様々な罵倒を受け、精神的にまいっており表情もげっそりと沈鬱だ。
「ルーカス=オルトラン、並びにグロリア=シモンズ。」
ジロリと女王は二人を睨めつける。
「…はい。」
二人は力なく返答する。
「まず、お前たちの結婚は認めましょう。」
この言葉に、頭が足りない二人は満面の笑みを浮かべる。
「女王陛下!ありがとうございます!!」
二人は深々と頭を下げる。
「ただし!!」
女王の言葉は続きがあった。
「お前たちは国外追放です。数日の間にこの国を出て、我が国では無い場所で婚姻届を提出した後に世帯を持ち、そこで庶民として暮らしなさい。」
「!」
二人は、この世の終わりのような表情だ。
「ま、待って下さい!」
グロリアが抗議する。
「そ、そうですよ?何故いきなりそんな重罰を“私に”課すのですか?」
ルーカスの発言に周囲はわざとらしいくらい、盛大な溜め息をこぼした。
「お前たち。この判決に不服があるのですか?」
女王は呆れた口調で問う。
「そ、そりゃ…」
「当然です!国外追放だなんて!そんな重罰、俺たちが一体何の罪を犯したと言うのですか!?」
必死の形相で言い募るルーカス。
「お前は何処まで愚かなの…」
「…母上?」
母バーナディアの様子にルーカスは困惑し、ここに来て不安がどっと押し寄せてくる。
「お前は、お前とその女は何の罪も落ち度も無いマリーゼ様を謂れのない言い掛かりで断罪した挙げ句、国外追放を宣告したそうじゃないの?」
「………」
グロリアは何も言い返せない。
「そ、それは!…な、何かの間違いです!…お、俺は…俺とグロリアは誓ってそんな事はしていません!お願いです、どうか信じて下さい!!」
ルーカスは必死に“弁明”する。
「お前…それを信じる人がいると思うの?」
バーナディアは溜め息混じりに応じる。
「お前とその女がしでかした事は大勢の方々がしっかりと見て聞いているのよ?」
「そ、それは…」
「お前、わざわざ人が沢山いるお昼時の食堂でマリーゼ様を侮辱したのでしょう?マリーゼ様もそう報告なさっているし、当然目撃者もごまんといるわ。」
母の言葉に、流石のルーカスも言い返せない。
「そんなお前たちに国外追放は当然の処置よ。これでも随分穏便な処置なのに。」
「そ、そんな…!」
ルーカスは何とかこの窮地を脱する方法が無いか考えを巡らせる。そして
「マリーゼ。お前からも何とか言ってくれ。お前の大切な婚約者がこんな目に遭っているのに…何故、何も弁護してくれないんだ?」
この期に及んでルーカスはマリーゼに縋り付く。
「は?貴方、馬鹿ですの?何故私が貴方の弁護などしなければならないのですか?」
流石のマリーゼも啞然とした表情でそう返す。
「そんな冷たい事を言うなよ。お前は俺の婚約者だろう?」
「貴方は私の婚約者などではありません!衆目の中、グロリア様の腰を抱いて貴方は私に婚約破棄を言い渡したのですよ?貴方が言い出した事です!」
マリーゼはきっぱりと跳ね除ける。
「けど、まだ婚約は継続しているだろう?だったら…」
「何を仰っていますの?貴方との婚約など、とうに破棄されているに決まっているでしょう?当日のうちに両家による話し合いが持たれ、正式に婚約は破棄されました。それよりも、馴れ馴れしく私の名を呼ばないで下さいませ!」
「………」
ルーカスは遂に黙り込む。
「もう良いか?」
女王は憮然とした表情で二人を見る。
「本当にお前は図々しいな。あれだけ邪険にし、衆目の前で侮辱したマリーゼに縋り付くなど。傍で見ているだけで胸糞悪い。」
「………」
ここでようやくどうにもならない事を理解したのか、ルーカスとグロリアは意気消沈して俯く。
「では決定ですね。」
バーナディアの言葉に二人はハッと顔を上げる。
「ルーカス=オルトランとグロリア=シモンズ。お前たち二人は、数日の間にこのミナティリアを出て行きなさい。シモンズ男爵、オルトラン侯爵代理は責任を持ってこの者たちがきちんと遂行するか見届けなさい。」「「は!」」
女王の命をしかと受けるシモンズ男爵夫妻とオルトラン侯爵代理アルバート=オルトラン。
「そんな…お父様…、…お母様ぁ〜…!」
「…父上…母上……」
二人は絶望した表情で両親を見つめる。