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断罪イベントのその後~馬鹿男&ヒロインver.3ー3

「いい加減起き上がったらどうなのですか?」

 ひたすら泣きじゃくり、非常に目障りで邪魔なグロリアを騎士たちが別室へ引き立てて行き、残ったルーカスに女王は言い放つ。

「………」

 ルーカスは痛む顔を押さえながら、ノロノロと立ち上がる。

「さて。そなたの名は?」

「え?」

 ルーカスは目を瞬かせる。女王が自分の名を知らないなんて事があるのだろうか?

「そなたの名を名乗りなさい。」

 女王の低く抑揚の無い声音が響く。

「あ…ルーカス=オルトラン、です。」

 ルーカスは弱々しく答える。

「ルーカス=オルトランに問います。そなたの婚約者は誰ですか?」

「…マリーゼ=オルゴット伯爵令嬢、です。」

 その瞬間、場が騒ついた。

「は?馬鹿な事を仰らないで下さいませ。」

 すかさずマリーゼが抗議する。

「私と貴方は既に婚約者ではありません。つい数時間前に貴方が一方的に婚約を破棄した事をもうお忘れですか?」

 マリーゼは呆れ返った表情でルーカスに告げる。

「いや…、それは……」

 ルーカスは不味い事になったと、内心猛烈に焦りまくる。

 “マリーゼが女王の姪とか…マリーゼは何故話してくれなかったんだ?”

 現状の不利な状況に慌てながら、ルーカスはマリーゼを心の中で詰る。

 “やっぱりマリーゼは性悪女だ。大切な婚約者にこんな恥をかかせやがって!”

 自分がマリーゼを蔑ろにし続けた挙げ句に一方的に婚約破棄を言い渡した事を完全に棚上げして、マリーゼを内心で罵倒する。

「貴方の婚約者はグロリア=シモンズ男爵令嬢でしょう?どうぞお間違え無きよう。」

 “グロリア?そうだ!グロリアはどうした?”

 ようやくグロリアの姿が見えない事に気づいたルーカス。

「おいマリーゼ!グロリアはどうした!?姿が見えないじゃないか!!」

 ルーカスはグロリアの姿が見えない事に焦り、マリーゼを恫喝する。

「…今ごろお気づきになりましたの…?」

 マリーゼは呆れ果てた目でルーカスを見る。

「グロリアを何処へやった!?答えろ、マリーゼ!!」 

 ルーカスは更にヒートアップしていく。

「そこまでになさい!」

 厳かなその声に、熱り立つルーカスの肩がビクリと跳ね上がる。ルーカスは、声のした方へ恐る恐る目を向ける。そこには

「母上…」

 ルーカスの母にして、この国の宰相バーナディア=オルトラン侯爵がルーカスを睨めつけている。

「ルーカス。自分の立場を弁えなさい!」

「母上。グロリアは何処ですか?無事なんですか?」 

 猶も食い下がるルーカス。

「あの女ならば別室にて待機させております。…お前はまず、自分の心配をなさい。」

「は?それは一体どういう…?」

 ルーカスは訳が分からず、母に尋ねる。

「はーー!!」

 バーナディアは大仰な溜め息を吐いて、馬鹿息子に目を遣る。

「まさかとは思っていましたが…よもやここまで愚かだったとは……」

 バーナディアは額に手を当て苦悩の表情を浮かべる。

「…母上?」

 ただならぬ母の様子に、ようやく自分が非常に一方的不味い状況にある事を理解した。

「ルーカス。」

 いきなり名を呼ばれ、ルーカスは飛び上がる。

「は、はい!」 

 ルーカスはピシリと背筋が伸び、直立不動で母の言葉を待つ。

「お前は何故この場に呼ばれたのか、理解していますか?」

「………」

 ルーカスは答えられなかった。何故自分とグロリアが王宮に手荒く連れて来られたのか、全く分からなかったからだ。

 “はっ!もしやマリーゼの陰謀か!?”

 もしそうならば何て陰湿な手を使うのか?

 一度そう思うとそうとしか思えなくなった。

 “マリーゼめ!幾らグロリアの愛らしさが妬ましかったとはいえ、こんな事をするなんて何て酷い女だ!”

 ルーカスが一人憮然としていると

「マリーゼ様は何もされていませんよ。」

「!」

 突如心の内を母に見透かされ、ビクリと震える。

「マリーゼ様はお前に学園で屈辱を受けられた後、ブリュン学園長に許可を得て王宮に戻られました。そして、我々に学園であった出来事をお話し下さっただけです。」

「な!?マリーゼ!貴様やはり…!」

「いい加減にしなさい!」

 遂に女王がキレた。

「お前は何処までマリーゼを愚弄すれば気が済むの?」

「………」 

 女王の剣幕にルーカスは震え上がり、顔色は真っ青だ。

「さっきから黙って聞いていれば!何でもかんでもマリーゼのせいにして!」 

「………」

「…お前がかねてよりマリーゼを蔑ろにしていたのは、こちらも承知しています。」

 底冷えのする女王の声音に、さしものルーカスも状況を悟り硬直する。

「そこまでマリーゼが嫌なのであれば、よろしい。あのグロリアとかいう娘との結婚を許可しましょう。」

「! それでは!」

 ルーカスはそれまでとは一転、実に晴れやかなで期待に満ちた表情を浮かべる。

「それに伴う条件については審議を重ねた上、追って伝えます。よろしいですね。」

「はい!ありがとうございます!!」

 ルーカスは喜色満面で女王に礼を取る。


 これがルーカスとグロリアの転落人生の始まりだという事を、幸せな事に全く気づいていなかった。


 


 

  

 

 

 


 

 

 


 


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