断罪イベントのその後~馬鹿男&ヒロインver.3ー2
「無礼者!口を慎め!!」
ルーカスがマリーゼの名を口にした瞬間、激しい叱責が飛んで来た。
「!?」
ルーカスは驚いて声が飛んで来た方へ視線を向ける。
「貴様!陛下の姪御様の御名を軽々しく口にするで無い!!」
「!? は?陛下の姪御様?」
ルーカスは目を剥く。そんな事、初めて聞いた!
「ま、マリーゼが、女王陛下の姪…?」
ルーカスは愕然とする。
「貴様!まだ言うか!!」
更に怒号が飛んで来る。
「あ、あ…!?」
ルーカスは衝撃の余り大混乱に陥る。
「はあ…」
マリーゼは盛大に溜め息を吐く。
「まあ、そうでは無いかと思っておりましたけれどね?」
マリーゼの様子にルーカスは呆然となる。
「ま、マリーゼ…?」
「貴様!!」
一向に懲りないルーカスにとうとう近くにいた騎士がルーカスをぶん殴った。
「…ぐ!」
ルーカスは殴られた衝撃でその場に倒れ込む。
「うっ…」
ルーカスは呻き声を上げ、殴られた顔を押さえたまま動かない。
「ルーカス様!!」
グロリアが駆け寄ろうとするが、騎士に取り押さえられていて身動きが取れない。
「…そろそろ進めても良いか?」
目の前で繰り広げられる茶番に顔を顰めつつ、サフィニア女王は抑揚の無い声音で問う。
「あ…」
流石にグロリアも状況を理解したようだ。大人しく女王の方へ向き直る。
「さて。…そなたの名は何であったか?」
「…グロリア、…シモンズ…です。」
グロリアは女王の威圧に気圧されながら、しどろもどろ答える。
「ほう。では、グロリア=シモンズに問う。」
「…はい。」
グロリアはこの場の殺気に怯えながらも必死に顔を上げ続け、女王の言葉を待つ。
「グロリア=シモンズは、今そこで無様に転がっている男が我が姪のマリーゼ=オルゴットの婚約者であった事を知っていたか?」
「………」
勿論知っていた。しかし、素直にそう答えればどんなお咎めがあるか分からない。だからと言って知らなかったと嘘を付けば、後々発覚した時の事が恐ろし過ぎる…
どう返答すればいいか分からず沈黙するグロリア。そんなグロリアを一瞥し
「…なる程。あい分かった。」
女王は深く溜め息を吐く。
「そなたは其奴がマリーゼの婚約者であった事を知りながら其奴に近づいて誑かし、マリーゼに屈辱を加えたという訳か。」
女王の冷たく低い言葉にグロリアは背筋が凍る。
「そ!そんな事は!!」
グロリアは慌てふためく。
「そんな事は、何だ?」
女王の鋭い視線にグロリアは竦み上がる。
「…、えっと…その…」
グロリアはこの窮地をどう乗り切ろうか、必死に考えを巡らせる。
「お父様…、お母様…」
無意識にキョロキョロ周囲を見回し、両親の姿を見つけたグロリアは縋るように両親に呼びかける。
「………」
しかし両親は無言で自分を睨み付けて来るばかりだ。
「シモンズ男爵夫妻、発言を許可します。」
女王がシモンズ男爵夫妻に発言の許可を出すと
「全く、お前は!何という事を!!」
母親のジュリア=シモンズ男爵が娘を詰る。
「本当に。何て情けない…」
父親のマイケル=ウィルソン=シモンズは首を振る。
「…お父様?…お母様?」
てっきり自分の味方をし、助けてくれると思っていた両親の思いがけない様子に、グロリアはただ戸惑うばかりだ。
「お前は自分が一体何をしでかしたのか、本当に分かっていないの?」
「私とジュリアはいつも言っていただろう。私たちは女神様と女王陛下のお陰で恙無く暮らしてゆけているのだと。だから我々は陛下や国の為に力を尽くさなければならないのだと。」
「………」
グロリアは両親のきつい言葉に酷く衝撃を受けている。
「なのに、お前ときたら!よりによって陛下の姪御様の婚約者を誑かした挙げ句、マリーゼ様を断罪ですって!?お前には、ほとほと愛想が尽きたわ!!」
「ま、待ってお母様!私は知らなかったの!マリーゼ様が女王陛下の姪御様だなんて知らなかったの!!」
グロリアは懸命に叫ぶ。 が、しかし
「そもそも何故マリーゼ様が陛下の姪御様だと知らないの?この事は我が国の民ならば、小さな庶民の子どもでも知っている常識よ?ましてやお前は曲がりなりにも貴族。知らないというのは有り得ないし不敬にあたるのよ!」
母に冷たく告げられる。
「たとえマリーゼ様が陛下の姪御様で無かったとしても、お前たちのした事は決して許される事では無い。」
いつもは優しく微笑みかけてくれる父の冷たい表情と声に、ようやく自分がとんでもない事をしでかしたのだと気が付いた…
「あ、あ…」
「お前たちは自分たちの“真実の愛”とやらに酔いしれて、何の罪も無い令嬢に謂れなき屈辱を与えた。衆目の前でいきなり婚約破棄を宣告し、ありもしない罪をでっち上げ、挙げ句に国外追放だと?お前たちは一体何の権限があってそんな事をしたのだ!?」
「…うっ…うっ……」
グロリアはその場にヘナヘナと座り込み、遂に泣き出した。
「泣くな!お前に泣く資格は無い!泣きたいのはマリーゼ様や他の謂れなく断罪された令嬢方だ!!」
父の怒号にグロリアはただただ泣きじゃくるばかりであった。