断罪被害者との会合を画策する
「じゃあ、始めましょうか。」
ここはディレノス公爵邸。今日はロザリーとシンシアが次に話しを聞くターゲットを決める為、お茶会という名目の会合を開いたのだ。
「ロザリーは誰がいいと思う?」
シンシアが切り出す。
「そうねぇ…」
ロザリーはまず誰が断罪被害に遭ったのかを思い浮かべる。
「ソニア様なんかどうかな?」
ソニアとはソニア=スピレイ伯爵令嬢である。
「ソニア様、かぁ…」
シンシアはちょっと渋い表情である。
「え?駄目かな?」
「う〜ん。駄目というか…ちょっと時期尚早かも。」
シンシアが難色を示した理由。それは、彼女こそ断罪被害の第一号だからである。それまで平穏そのものであったマグノリア学園において、突如悪役令嬢として断罪された彼女の心の傷はとても深く、未だに復学出来ていない。
「う〜ん。じゃあ、どうしよう〜?」
ロザリーは頭を抱える。
「そうね〜?」
シンシアも考え込む。
「アンジェラ様はどう?」
シンシアが挙げたのはシンシアと親しい令嬢である。
「アンジェラ様かぁ…」
ロザリーの顔が曇る。
アンジェラ=ミスレル侯爵令嬢は、ロザリーも姉と慕う二つほど年上の令嬢である。
「アンジェラ様は…もう少し時間を置いた方が良いと思うな。」
つい二〜三日ほど前にアンジェラと会う機会があったロザリーが待ったをかける。
「え?何かあったの?」
シンシアは心配げに問う。
「うん。その場では気丈でいらしたアンジェラ様も、実際には結構堪えてらっしゃるみたい。」
これにはシンシアも何も言えない。自分だって実際の所、かなりの衝撃だったのだから。
「そうね。だったら少し時間を置いた方がいいかも。」
シンシアはそう言った。
「他には…誰がいた?」
「そうね〜、…カトレア様は?」
カトレア=ブリンゲル侯爵令嬢。しかし彼女は自分たちというより、自分たちの姉たちと仲が良い。
「そうね。でも、いきなり私たちが会いに行ったら不自然じゃない?いよいよになったらお姉様を通して、会って頂けるようお願いしてみましょう。」
シンシアの言葉にロザリーは頷く。
「後は…あ!フローレ様はどう?」
フローレ=カニンガム伯爵令嬢は学園ではそれなりに話しをする仲だ。彼女なら以前この騒動の事を話し合った事もあるし、元々こうなると割り切っていた節もある。事情を話せば協力して貰える可能性は高い。
「あ、そうね。」
シンシアも同意する。
「まずはフローレ様ね。」
ようやく候補が一人決定した。
「他はどうする?」
「う〜ん。セーラ様は?」
セーラ=モルト伯爵令嬢。彼女も学園で比較的仲は良かったが…
「セーラ様は今、領地にいらっしゃる筈よ?」
断罪された後、彼女は領地で静養していると聞く。
「そう。じゃあ無理ね。」
「後は、そうね~」
ロザリーとシンシアは他の令嬢を思い浮かべる。が、何分人数が多過ぎて絞り込みが中々難しい。
「ハルモニア様は?」
ハルモニア=ユゼット公爵令嬢。彼女は貴族令嬢の模範と言われる令嬢だ。彼女が断罪被害に遭ったという報が流れた時、令嬢たちの間で驚愕と戦慄が走ったものだ。
「ハルモニア様かぁ。ちょっと難しいかも。」
令嬢たちの模範とされるだけあって、彼女の誇りは高い。故に現在も傷心の為、社交界にも顔を出していないのだ。
「そういえば、マリーゼ様も被害に遭ったそうよ。」
ロザリーが思い出したように話すと
「は?嘘でしょう?」
シンシアは目を剥く。
マリーゼ=オルゴット伯爵令嬢とは結構親しい間柄だ。ロザリーもシンシアも彼女が開くお茶会の常連だ。彼女は非常に穏やかな性格で、間違っても他人に嫌がらせをするような人物では無い。だから、まさか彼女が断罪されるなど夢にも思ってもいなかった。
「…何て命知らずなの……」
シンシアは呆然とする。というのも
「よりによって女王陛下の姪御様を断罪するとか…破滅願望があるの?その馬鹿ども…」
マリーゼはサフィニア女王の妹の娘だ。女王が妹とその娘を殊の外可愛がっている事は、貴族であれば知らぬ者は無い筈なのだが…
「例によって、そんな方が自分に謙るから勘違いしたんでしょう?」
ロザリーの口調は辛辣だ。実際にマリーゼの婚約者がマリーゼを邪険にするのを幾度となく目撃しているからだ。
「こればかりは奴らも正当化出来ず、逆に王宮で諮問を受けたらしいけどね。」
ロザリーは肩を竦める。
「当たり前だわ…よくそれで済んだわね。」
シンシアは感心した表情だ。
「まさか。奴らの処遇はまだ審議中ですって。」
「あらまあ。」
「よりによって陛下の姪御様に向かって、大勢の目の前で婚約破棄を宣言した挙げ句国外追放!なんてやらかしたんだもの。お約束通りぶりっ子な元庶民の令嬢を抱き寄せた姿勢でね。」
「………」
そこまで女王の血縁者を虚仮にするとは。奴ら、余程命が惜しくないらしい。
「当のマリーゼ様はどんなご様子なの?」
シンシアは心配そうな表情で問う。
「うん。昨日お会いしたけど、思ったよりお元気だったわ。むしろせいせいした!って感じだった。」
「…まあ、そうかも知れないわね。」
シンシアとて、奴がマリーゼに対して横柄な態度を取り続けていたのは知っている。実際に目にした事だって何度もあった。
「だったら…マリーゼ様とのお話しは大丈夫かもね。」
「ええ。マリーゼ様はいつでもどうぞ、と仰っていたわ。」
ニッコリとロザリーが笑う。
「ロザリー。仕事、早いわね?」
シンシアが感心してそう言うと
「こういうのは機会があったら即実行!よ。私、前世では幾つもバイトをこなしていたんだから。」
ロザリーはウインクして答える。
「…そうなのね。」
こうして、まずはフローレ=カニンガム伯爵令嬢とマリーゼ=オルゴット伯爵令嬢に話しを聞くという事で纏まった。