表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/85

断罪イベントのその後~馬鹿男&ヒロインver.2

「さあ、アグネス!これからはずっと一緒だ!!」

「ああ!パトリック様!夢のようですわ!!」

 衆目の前で婚約者であったシンシア=ディレノス公爵令嬢に婚約破棄と国外追放を言い渡したパトリック=リンデル公爵令息は、真実の愛で結ばれた愛しいアグネス=ハリソン男爵令嬢と強く抱き合う。

 “ああ!やっと、あの生意気なシンシアとはおさらばだ!”

 パトリックはそれが嬉しくて嬉しくて堪らなかった。

 断罪している最中も終始表情に変化が無かったシンシアを、パトリックは心底侮蔑した。

 “素直に罪を認めて許しを乞えば少しは可愛げがあるものを…”

 しかしシンシアは終始口答えをし、反省する気配はまるで無かった。

 “まあ、国を追われれば少しは自分の罪を思い知るだろう。その時に自分の罪深さを知っても、もう遅いがな!”

 シンシアに比べてアグネスの何と可愛い事か!

 真実の愛で結ばれた恋人たちは、これからの素晴らしい人生に思いを馳せ、更に強く抱きしめ合う。


   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「さあ、どうぞ入って。」

 自邸に戻り、アグネスを自室までエスコートするパトリック。

「まあ!素敵!!」

 パトリックの部屋を一瞥するなり感嘆の声を上げるアグネス。

 “アグネスは本当に可愛いなぁ~”

 パトリックは自室を見てはしゃぐアグネスを満足げに見つめる。

 “シンシアはこんな風に笑顔を見せた事は無かったな。”

 それはシンシアが淑女だからだが、そんな事は何一つ理解していないパトリックである。そして…

「…遅いな!」

 部屋に来る途中、行き合ったメイドにお茶とお菓子を持って来るよう命じたのだが…未だに持って来る気配が無い。

「仕方無い、催促しに行くか。」

 全く。主人の命令を忘れるとは弛んでいる!

「アグネス。すまないが少しだけ一人で待っていてくれないか?」

「? どうなさいました、パトリック様?」

 アグネスが首を傾げている。う〜ん、そんな仕草も可愛過ぎる!

「いや。さっき頼んだお茶がまだ来ないから、催促しに行ってくるよ。」

「まあ!パトリック様がそんな事を!」

 アグネスは驚愕の表情になる。

「主人の命令を忘れるなんて、うんと叱ってやらないと。」

「まあ!素敵ですわ!」

 と、またもやはしゃぐアグネス。

「じゃ、行って来る。直ぐに戻るからね。」

 そう言って部屋を出ようとドアノブに手を掛ける。

「?」

 パトリックは首を傾げ、ガチャガチャとドアノブを忙しなく動かしている。

「どうなさいました、パトリック様?」

「…開かない……」

「…え?」

 アグネスは怪訝な表情を浮かべる。


   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 それからどれくらい経ったか…ようやく扉の外に人の気配がし始めた。

 外を見れば、もうすっかり夜中である。二人は部屋に閉じ込められている間、何も口にしていないので酷く空腹だし喉もカラカラだ。

 ドアノブがガチャガチャ動き出し扉が開いた途端、パトリックが怒鳴り上げる。

「おい!誰が鍵なんか掛けたんだ!?そのせいで俺もアグネスも腹ペコだ!喉もカラカラだ!早く食事を持って来い!!」

 しかし、その声に応えるものは無かった。その代わり…

「こそ泥が、随分と偉そうですね。」

 底冷えのするその声に、パトリックは戦慄し震え上がる。何故なら…

「は…母上……」

 パトリックは呆然と呟く。

「誰がお前の母ですか!?分を弁えなさい!!」

 激しい叱責が返ってきた。

「………」

 パトリックは母の剣幕に黙り込む。

「お前はそこの卑しい女と結ばれたいのでしょう?」

「………」

 パトリックは即座に返答出来ない。

「どうなのです?はっきり答えなさい!」 

「は、はい!俺はこのアグネスと結婚します!!」

 烈女として名高い母に威圧され、パトリックはビシッと背筋を伸ばし宣言する。

「そうですか。では、もう一つ。」

 母はアグネスをジロリと睨みつけ 

「お前はこの先、どれ程辛く苦しい事があってもその女と手と手を取り合い、困難を乗り越えて行く事を誓いますか?」

「はい!誓います!!」

「よろしい。ではこれにサインを。」 

 そう言って差し出された書類にパトリックとアグネスは目の前の烈女に萎縮しながらサインする。

「よろしい。ではこれで。」

 母はそれっきり何も言わずに部屋を出て行き、パトリックとアグネスは周りに控えていた護衛たちによって拘束された。

「な!貴様ら、一体何を!?」

 パトリックもアグネスも激しく抵抗するが、屈強な男たちに全く歯が立たない。

「ほら!さっさと歩け!!」 

「い、痛い!ちょっと、離して!」

 アグネスが悲鳴を上げる。

「うるせえ!さっさと歩け!!余計な手間を掛けさせんじゃねえ!!」

 そうやって連れて行かれた先には見窄らしい馬車が一台停まっていた。

「おい!まさか、これに乗せる気か!?」

 パトリックが目を剥く。

「そうだよ!さっさと乗りやがれ!」

 と、文字通り馬車の中に放り投げられる。

「おい!貴様!一体何処に連れて行く気だ!?」

 パトリックが喚く。

「ふん。お前たちはこれから公爵様の領地に向かう。」

「公爵家の領地にだと…?」

「ああそうだよ。後は行ったら分かるさ。…出発しろ!」

 そう言うなり扉を乱暴に閉め、これまた乱暴に馬車が動き出す。

「………」

 パトリックとアグネスは馬車の中であちこち身体をぶつけながら、これからどうなるのだろうと不安に襲われ、身を寄せ合う。 

 

 




 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ