断罪イベントのその後~馬鹿男&ヒロインver.
オーガスト=キャンベルとアリス=ベイカーズは呆然と立ち去るロザリー=エメットを見送った。
「………」
この二人はロザリー=エメットを断罪し、晴れて結ばれる清く美しいカップル…の筈である。
しかし、そう信じるにはロザリーが残した言葉が二人の胸に突き刺さる。
“家の、取り潰し…?”
何故そんな話しになるんだ?自分たちは罪深きロザリーの罪を暴き、婚約を破棄。そして可愛いアリスとの婚約は皆に祝福されるべきものなのに…
「オーガスト様ぁ…」
ああ、アリスが不安そうにしている。可哀想に。ロザリー、あの性悪女め!一体何処までアリスを虐めれば気が済むというのか!?
「アリス、何も心配いらない。何があってもこの俺がアリスを守る!」
俺が力強くそう言うと、アリスは可愛らしい笑顔を見せてくれる。
“ああ、アリス!俺の天使!”
俺はアリスをギュ~ッと抱き締める。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「…何故だ?」
授業が終わり、下校しようとエントランスで我が公爵家の馬車を待っているが…何時まで経っても迎えの馬車がやって来ない。
業を煮やした俺は已むを得ずアリスをその場に待たせ、馬車が待機する広場に足を向ける。
“全く!何をサボってやがる!?アリスをあんなに待たせた罪は重いぞ!!”
ブツブツ文句をこぼしながら広場まで来た俺は、思わず目を疑った。…待機している馬車が一台も無い…
しばらく呆然と立ち竦んでいた俺は、ふと人の気配を感じた。
怒りに任せて勢い良くそちらに視線を向けると、用務員らしき爺さんが驚いた表情でこちらを見ていた。
「何だい、あんた?ここに何の用だね?」
何だ、この爺。高貴な身分の者に向かって何て口を利きやがる?
「おい。キャンベル公爵家の馬車はどうした?」
俺は苛立ちを隠しもせずに爺に尋ねる。
「? キャンベル様の馬車なら、とっくの昔にお帰りになったよ?」
爺は首を傾げながら答えやがる。
「…何だと?」
これは一体どういう事だ?
「あんた、用が無いならさっさと帰っておくれ!でないとここが閉められんじゃないか!」
と、見た目よりも遥かに強い力で追い出された。
「………」
俺は怒りに震えながらその場を後にした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「あ~もぅ~!疲れた~!!」
アリスがボヤいている。ゴメンよ、アリス。
あの後アリスの元へ戻り、何かの手違いがあったのだろうと思い更にしばらく馬車を待っていたが、結局迎えの馬車は来なかった。
仕方ないので散歩デートのつもりで徒歩で帰り、途中で行き合いの馬車を拾おうという事で落ち着いたが…生憎そこは貴族街。行き合い馬車などそもそも需要が無い。従って馬車を捕まえられる訳が無く、結局時間を掛けてキャンベル邸まで歩いて帰った。
「さあ、入って。…おい!今帰ったぞ!!」
俺は怒りも顕に屋敷に入る。…俺が帰って来たというのに誰一人出迎えに出て来ない。…全く!どいつもこいつも弛んでやがる!
「おい!誰かいないのか!?」
しかし、静寂が返ってくるのみだ。
「おい!誰か!ベルナール!!」
怒りが頂点に達した俺は、執事のベルナールを呼ぶ。
しばらくして、ようやく長身の男性がその場に現れた。執事のベルナールである。
「ベルナール!貴様、今まで何をしていた!?俺が帰って来てから一体どれだけ経ったと思っている?」
「…こちらへ」
ベルナールはそれだけ言ってクルリと背を向け歩き出す。
「おい待て!話しはまだ…」
俺はそれ以上口に出来なかった。ベルナールが冷ややかな目でこちらを一瞥したからだ。
「………」
俺はアリスを促し、黙ってベルナールの後について行った。
「こちらでお待ち下さい。」
「は?おい!何の真似だ!?」
ベルナールに案内された部屋は、庶民や身分の低い貴族らが陳情に来た際に通される待機室であった。
「では。」
ベルナールは一礼して退室する。
「………」
俺は頭が真っ白になる。一体何が起こっている?
アリスを見ると、彼女は不安そうに目をキョロキョロさせていた。
俺はせめてアリスの不安を無くそうと、彼女の華奢な身体を抱き締める。
それからどれくらい経っただろうか。ようやく足音がこの部屋に向かって来る。
「遅いぞ!一体どれだけ待たせるんだ!?」
扉が開いた瞬間、俺は怒鳴り声を上げる。
「おや、それは失礼致しました。」
「!?」
その声に俺は飛び上がった。その声の主はリリー=キャンベル。俺の母親で我がキャンベル公爵家の当主にして現女王の宰相補佐という、大変な重職に就いている人物だ。
「は、母上?」
俺は思わず声が上擦る。ここでいきなり母登場とは?一体何事だ?
「母上、これは一体?」
俺は憮然とした表情で母を問い詰める。大事な公爵家の後継り息子が素晴らしい婚約者を連れて帰って来たというのに、この扱いは何事だ?と。
「お前に確認する事があります。」
母は厳かに告げる。
「何ですか?」
この瞬間、周囲の空気は一気に殺気立つ。が、この馬鹿息子は一切気が付かない。
「お前はそこな女子と添い遂げたいと希望しますか?」
母の口調は非常に冷たい。
「? は、はい!勿論です!」
何だ。心配して損した。母は、アリスを認めてくれたんだ!!
「もう一つ確認しておかなければなりません。お前は今後、どんなに辛く苦しい事があってもその女子と手と手を取り合い、共に乗り越えて行く事を誓いますか?」
「はい!誓います!この先、どんな事があってもアリスの手を離しません!!」
俺は全力で誓いを立てる。
「そうですか。…ならば、こちらにサインしなさい。ベルナール。」
母はベルナールから一枚の書類を受け取り、俺とアリスにサインするよう促す。
俺は浮き浮きとその書類にサインする。アリスも同様に嬉しそうにサインする。
「よろしい。これで契約は完了致しました。…連れて行きなさい。」
母はそう言うと、俺たちの方を見る事なく退室して行く。
その直後、屋敷の守衛たちがわらわらと俺とアリスに群がりあっという間に縄で拘束された。
「な?貴様ら、一体何を…?」
俺がこの狼藉に抗議の声を上げると
「うるせぇ、黙れ!」
と、拳で殴り飛ばされた。
「何をする!?」
仮にも公爵家の後継りに何て事を!
「お前はもう公爵家の坊っちゃんじゃねえ!」
「は?」
俺は呆然と殴った奴を見つめる。
「お前はたった今から、そこの女と一緒にこのお屋敷の下働きをやるんだよ。」
この言葉に、俺は目の前が真っ暗になった…