断罪イベントのその後~悪役令嬢ver.
「それでさ、沙織。」
ついつい横道に逸れてしまったが、気を取り直して一番聞きたい事を尋ねる。
「何?」
ロザリーちゃんは首を傾げる。そんな仕草も絵になるって…美少女はお得です。
「断罪された令嬢たちって…今どうしているの?」
「ああ。」
そう言ってロザリーちゃんはフワリと微笑む。レイシーと女王様も同様だ。
「?」
この分だと馬鹿男の宣告通り、国外追放にはなっていないだろうけど…何だろう、この空気……
「心配いらないよ。彼女たちは恙無く、これまで通りの生活をしているから。」
ロザリーちゃんがフフフと笑う。…いや。嗤う、かな?
「さ、沙織さん?」
私は妙な空気に包まれた事に戸惑い、軽く仰け反る。
「彼女たちは無事よ。面白い事になっているのは真実の愛を貫いた馬鹿…コホン!“恋人”たちね。」
ロザリーちゃん、何故言い直した?それより面白い事って?
「あの方々は真実の愛で結ばれたんだもの。どんな逆境にだって二人手を取り合って乗り越えて行く筈よねぇ?」
…ロザリーちゃんの笑顔が怖い。
「えっ、と…?」
私はまだ状況が飲み込めず、ロザリーちゃんの顔をマジマジと見つめる。
「結論から言えば、真実の愛を貫いた美しい恋人たちは晴れて夫婦になった後、貴族の地位を失い二人手を取り合って生きていく、って事。」
ほほぅ。
けど、それだけじゃ処分が軽過ぎな気がするけど?
「まあ、そこから先はカップルごとに処分が異なるからね。」
ロザリーちゃんはニコ~~~ッと非常に良い笑顔だ。
「その辺はまた後でじっ~~くり話してあげる。」
はい、分かりました。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「それはそうとエメット侯爵令嬢。貴女はあの場で家の取り潰しは免れない、と仰っていましたが…」
女王様がロザリーちゃんに尋ねる。
「申し訳ありません。ですが、これは事前にリリー様から許可を頂いての事です。」
「リリーから?」
「はい。リリー様はオーガストがその内あの馬鹿な事をやらかすと予見されておりました。その時は遠慮無くそれを言って良い、と。」
「なる程。流石リリーね。」
女王様はしきりに感心している。
リリーというのはリリー=キャンベル公爵様。あの馬鹿オーガストの母君なんだそう。
この方。サフィニア女王陛下の側近の一人で宰相補佐という、かなりの重職に就いているという。
このミナティリアは女性優位の国だから女性当主が非常に多い。勿論男性当主も存在するけれど、その数は決して多くはない。大体八:二くらいの割合なんだって。思ったより男性当主、多いな。
キャンベル公爵家の家族構成は母·父·姉·姉·馬鹿·弟。
リリー様が当主である事から分かる通り、キャンベル公爵家は代々女性が家を継ぐ。しかしオーガストは何故か自分が後継者だと信じて疑わなかったらしい。
何故あの馬鹿がそう思い込んだのかは謎だが、馬鹿は昔から後継り気取りで、姉弟や周囲にやたらと横柄な態度を取り続けていたそうな。
これには公爵家の皆さんは常々頭を抱えていたらしい。そこに持ってきて、今回の“真実の愛”騒動である。
馬鹿が身分の低い令嬢と結婚したがっている事を逸早く掴んだ公爵家は、これを利用し馬鹿の廃嫡を目論んだ。
当然この事はエメット侯爵家にも通達された。ロザリーちゃんが断罪イベントで常に冷静でいられたのは、その事を事前に知っていたからなんだって。
「事前に知っていたとしても…凄いわ、沙織。」
私は本心で凄いと思った。私だったらたとえ事前にそうだと知らされていても、その段になったら絶対に狼狽えて取り乱す自信がある。
「ありがとう。まあ、これも淑女教育の賜物かな?」
ロザリーちゃんはそう言って微笑む。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ねえ、沙織。」
わたしは思い切ってロザリーちゃんにお願いする。
「何?」
「断罪された令嬢と話しをする事って出来るかな?」
私の問いに、ロザリーちゃんはハッとした表情になる。
「やっぱり無理かな?」
「彼女たちに何が聞きたいの?」
ロザリーちゃんは静かに聞き返す。
「まずは断罪イベントがどんな状況だったのか?出来れば彼女たちが異世界転生者なのかどうか確かめたいし、もしそうならば腹を割って話しをした方がいいと思うんだ。」
「それを聞いてどうするの?」
ロザリーちゃんはあくまで冷静に聞き返す。
「私はこの世界を舞台にした小説を書いているって話したよね?」
「うん。」
「でもね。私、悪役令嬢っていうのは全く設定してないの。」
「………」
「他にもチョコチョコと私が設定していない、一人歩きしている設定がチラホラあるの。」
ロザリーちゃんはポカンとしている。
「何故そんな事が起こっているのかは分からない。でも放ってもおけない。」
「………」
「そもそも一つの学園で数百人もの悪役令嬢が一遍に現れるとか…有り得なくない?世の中、そんなに乙女ゲーが溢れ返っているの?」
「…確かにそうよね……」
ロザリーちゃんは考え込む。
「それにさ。本当に異世界転生者なら、誰にも言えず苦しい思いをしているんじゃない?」
ロザリーちゃんは俯いてしまった。その気持ちに心当たりがあったのだろう。
「…そうね。美奈子の言いたい事は理解したわ。」
そしてロザリーちゃんは少し考えた後で
「無理強いはしなくていいよ。本人が話してもいいってときだけで充分だから。」
「分かっているわ。」
と言って苦笑する。 そしてしばらく考えた後
「だったらまずはシンシア=ディレノス公爵令嬢を紹介するね。」
ロザリーちゃんはそう言ってニッコリ微笑む。