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思いがけない再会

 私たちはロザリーちゃんが立ち去る姿を静かに見送った。

「後で彼女を呼んで話をしましょう。」

 レイシーがそう言うと皆は頷いた。

 その後、レイシーの案内で学園内を散策していると、途中で何度か断罪イベントを目撃する事になった。

「はあ…」

 それを目撃する度に溜め息が漏れる。

 その時の状況は様々だけど大抵の場合、“悪役令嬢”はショックを受け取り乱し、涙ながら懸命に無実だと訴えるも男は全く聞く耳を持たない。

 “こんなのが日常化していたら、神経がどうかなりそう…”

 心の底からそう思った。

 一通り学園内を見て回って学園長室に戻り、ロザリーちゃんを呼ぶよう秘書なのかな?お付きの人に指示を出した。

 しばらくするとコンコンとノックされ、ロザリーちゃんが部屋に入ってきて優雅な一礼をする。

「学園長、お呼びでございますか?」 

 ロザリーちゃんはレイシーに尋ねる。

「よく来てくれたわ、エメット嬢。実はね、貴女に聞きたい事があるのよ。」

 ニコニコとレイシーは告げる。

「その前に、こちらは創造神ミナティ様。そして調停の女神リブラ様、礼節の女神ベレンガリア様よ。」

 私たちが神様だなんて露ほども思っていなかっただろうロザリーちゃんはとっても驚いた表情を見せ、慌てて淑女の礼カーテシーっていうの?を取る。う~ん優雅! 

「お初にお目にかかります、創造神ミナティ様、調停の女神リブラ様、礼節の女神ベレンガリア様。ロザリー=エメットと申します。」

「あ…ミナティです。」

 私はというとペコリとお辞儀する。

「………」

 私のお辞儀を見て、ロザリーちゃんは目を瞠った…ように見えた。


   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「それで、何をお聞きになりたいのでしょうか?」

 ロザリーちゃんと向かい合って座り、話し合う体勢になる。こうして真近で見るとロザリーちゃん、すんごい美少女!見ているこちらが圧倒されそうな程の美貌である。輝く金髪に抜けるような白い肌。大きな緑の瞳は強い意志を宿し、まるでエメラルドのよう。

 陳腐な私の表現力では決して描写しきれない程の美貌は最早暴力である。

「実はね…今この学園で起こっている断罪イベント祭りについて話しを聞かせて欲しいの。…さっき、ロザリーちゃんが断罪されている所を見ちゃってね…」

 私は躊躇いながらそう切り出すと

「左様でございますか。見苦しい所をお見せ致しました。」

 何か疑問に思ったのか、ロザリーちゃんは軽く首を傾げるもそう返してきた。

「ううん。ロザリーちゃんは立派だったよ。」

 私がそう言うと

「ありがとうございます。」

 はにかむように微笑むロザリーちゃん。

「それで、どんな感じなのかな?」

 ロザリーちゃんの話しは大体レイシーと同じだったけれど、やはり教師と生徒では視点が異なり、ロザリーちゃんの話しはより実情が分かり易かった。

 ロザリーちゃんの話では、凡そ数ヶ月前に留学してきた令嬢が来てから断罪イベントが起こり始めたという。

「留学?」

「はい。隣国サラマンドロスからの留学生でございます。」 

 サラマンドロスとは、武芸の女神サラマンディアを主に崇拝する国なんだそう。因みにサラマンドロスは云うなれば騎士道や武士道のような精神を尊ぶ国だと言うけど…

 私、そんな設定してないんだけどな?悪役令嬢といい、誰かが勝手に私の世界をいじっているのかな?何か嫌な感じ!

 話しを戻すと、その留学してきた令嬢ドリー=マーカス子爵令嬢は男子生徒に気安く話しかけては馴れ馴れしい態度で引っ付き回っていたらしい。

 そして男子生徒もそれを咎めるどころか、婚約者に窘められても全く聞く耳を持たなかった。その様はまるで魅了の魔法にでも掛かったかのようだったという。

 そしてドリーの話しを鵜呑みにした男子生徒は一方的に婚約破棄を宣言、ついでに国外追放とほざいたという。

「………」

 何ともかんとも。安っぽ過ぎる悪役令嬢物の展開に、開いた口が塞がらない。ていうか…

「そのドリーさん。まさか異世界転生者、って事は…無いよね?」

 いっその事そうであれば、すんなり納得出来そうだが。

 ポツリとつぶやいた私の言葉にロザリーちゃんはピクリと反応した事に、私は気付かなかった。


   ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「あの…ミナティ様……」

 ロザリーちゃんは恐る恐るといった様子で私に話し掛けてきた。

「何?」

「あの…お話ししておきたい事がございます。」

 ロザリーちゃんは何かを決意した表情だ。

「話しておきたい事?」

「はい。…実は私、ロザリー=エメットとは別の人物の記憶があります。」

 ロザリーちゃんは意を決したように語り出す。

「え?」

 私たちは固唾を飲んでロザリーちゃんの話しの続きを待つ。

「それは…いわゆる前世の記憶というもので…」

 ロザリーちゃんは真っ直ぐに私の目を見つめてくる。

「前世の私は、この世界とは違う世界で生きていました。ニホンという国に生まれ、名は小島沙織と言いました。」

 は?え?前世の名前は何て言った?

「え?小島、沙織…?」

 私は涙が出そうになった。だって…小島沙織って……

「小島沙織って…F大学文学部の?戦国武将に目がない自称歴女だった…?」

「? はい。あの…?」

 ロザリーちゃんは困惑顔だ。そりゃそうだ。今日会ったばかりの創造神が自分の前世の名前を聞いて涙を流し、前世の自分を知っている風なんだから。

「沙織…。私、美奈子だよ。高木美奈子。」

「え?」

 ロザリーちゃんは驚いた表情をした後、ポロポロと涙を溢す。 

「美奈子…?本当に美奈子なの?」

「…うん。」

 私とロザリーちゃんは抱きしめ合う。

 私とロザリーちゃんこと小島沙織は大学時代の知り合いである。友達と言える程の仲ではなかったけれど、顔を合わせれば言葉を交わし一緒にご飯を食べるくらいには付き合いがあった。

 私は基本的に、特に何をしたわけでも無いのに人から疎遠にされるタイプだが、ごく稀に真逆の現象が起こる事がある。即ち、特に何をしたわけで無くとも好意を持たれる事があるのだ。

 沙織の時が正にそれで、気がついたら話をするようになっていた感じ。

 白状すると沙織といつ何処で出会ったのかは覚えていない。それくらい、いつの間にか自然に一緒にいたんだ。

 沙織は大学二年の夏休みに歴史スポット巡りを敢行し、その途中に高速の玉突き事故に巻き込まれ還らぬ人となった。

 その沙織が今、生きてここにいる!姿形はすっかり変わってしまったけれど、間違い無くこの世界で生きている!

 そう実感した私は、産まれて初めて神に感謝を捧げた。


 …この世界で私は最高位である創造神なんだという事は、この際脇に置いておこう…

 

    


 





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