断罪イベントを目撃した
「そ、創造神様?」
私のいきなりの雄叫びにぶったまげたレイシー達。
「人の世界で勝手に悪役令嬢やりやがっただけでなく!何、好き放題改変しまくってんだーーー!!」
「み、ミナティ様。どうか落ち着いて下さいませ。」
ゼイゼイと息の荒い私に戸惑いながら女王様が宥めてくる。
「………」
一通り怒鳴ってちょっと落ち着いた。ふう、全く。
「えっと…創造神様?」
レイシーがオズオズと声を掛けてくる。
「何? ところでさ、出来れば創造神って呼ぶのは勘弁してくれない?普通にミナティって呼んでよ。」
創造神って呼ばれるの、背中がむず痒いんだよ。だってさ、私は本当は神なんかじゃ無いんだから。元の世界に戻れば、日々の生活にキュウキュウ言ってる普通の人間なんだよ?
「申し訳ございません。では、そのように。」
レイシーはそう応じる。
「ありがとう。で、何?」
「あの。その断罪イベント、でございますか?それは卒業パーティーでやるもの、とは?」
へ?ああ。
「それもお約束。卒業パーティーって、学生の晴れ舞台でしょ?要は貴族らしくない振る舞いするヒロインに常日頃注意していただけの悪役令嬢を、満を持して卒業パーティーで衆目の元、色んな嫌がらせをしたって言い掛かりをつけて婚約破棄をい言い渡すって訳。」
「まあ…!」
レイシーたちの顔色が変わる。
「因みに、その嫌がらせってヒロインの自作自演っていうのが相場だね。」
「………」
皆、開いた口が塞がらないという表情だ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ロザリー=エメット侯爵令嬢!貴様との婚約は破棄する!」
お~お~、やってるやってる。
あの後、呆然とした様子のレイシーたちが復活してから、取り敢えず様子を見て欲しいと学園内を見てみる事になったんだ。そして裏庭に差し掛かった所で早速その現場に出会しちゃったよ。
「あら、そうですの?」
怒りも顕に、如何にもな少女に縋られた男に対し、“断罪”されている美少女は実にあっさりとした態度である。
「貴様、今の状況が分かっているのか?」
男の義憤は更に燃え上がる。
「承知致しておりますわ。貴方様オーガスト=キャンベル公爵令息様は私との婚約を破棄し、真実の愛とやらと結ばれたお相手のアリス=ベイカーズ男爵令嬢と結ばれたい、という事ですわよね?」
おやおや?ちょっと面白そうな展開ですなぁ。
「そ、その通りだ!」
男はちょっと拍子抜けしたような顔だ。
「しかしそれだけではない!貴様は俺のアリスに嫉妬して様々な嫌がらせをした事は決して許す事は出来ん!!」
男は随分興奮して、そう宣う。
「嫌がらせ?私が一体どんな嫌がらせをアリス様にしたと?」
「とぼけるな!貴様は何かにつけてアリスに嫌味を言ったりわざと転ばせようとした事もあったそうだな?」
「全く身に覚えがございませんわ。そもそも私はアリス様とは殆ど接点はございません。せいぜいアリス様が淑女らしからぬ振る舞いをなさった際にご注意申し上げた事があるくらいですわ。」
興奮して真っ赤な顔の男に対し、ロザリーちゃんは実に冷静である。
「ほら見ろ!やはり貴様はアリスを虐めていたのではないか!この根性の捻じ曲がった性悪女め!」
うわぁ~、何つ~暴論!こいつ、マジで阿呆だわ。ロザリーちゃん頑張れ!絶対に負けるな!!創造神ミナティはロザリーちゃんを全力で応援するよ!!
「アリス様の淑女らしからぬ振る舞いをご注意申し上げたのが虐めだと?」
ロザリーちゃんはポカンとしている。うん、呆れ返っているんだよね?分かる分かる。
「アリスはそこにいるだけで完璧なんだ!侯爵令嬢の癖にそんな事も分からないのか!?そんなアリスを害した貴様の罪は非常に重い!従って貴様は国外追放だ!」
うほ~、出た~!けど意味分かんね~~!?
仮にロザリーちゃんが男の言う通りの嫌がらせをアリスちゃんにしていたとしても、罰が重すぎだろう?どんなに事態を重く見たとしても、せいぜい謹慎処分がいいところじゃね?というか国外追放なんて処分、お前ごときが軽々しく決められるの?
私がこんな風に思っていると、ロザリーちゃんも同意見だったようであからさまに呆れ顔だ。
「国外追放でございますか。キャンベル公爵令息様。貴方にそんな権限がお有りだとは、今の今まで存じ上げませんでしたわ。」
ロザリーちゃんは大きく溜め息を吐く。
「何?」
男は訝しげにロザリーちゃんを睨みつける。
「国外追放とは非常に重い罰ですわ。従って、国外追放は王命を以て下されるもの。キャンベル公爵令息様、この沙汰は当然女王陛下から下されたものでごさいますよね?」
「も、勿論だ!この事は女王陛下もご存知だ!!」
うおー、スゲー!こいつ、ある意味勇者だ。私の横でレイシーと女王様の表情が険しくなっていく。
「左様でございますか。でしたらまずは確認を取らせて頂きます。本当に陛下からのご下命ならば、我が侯爵家にも通達がある筈でございますから。…万一これが貴方様の偽りであった場合、当然ながら貴方様のみならずキャンベル公爵家にも厳罰が下る旨、ご了承下さいませ。」
そう言い残し、ロザリーちゃんは優雅に立ち去ろうとする。そこに
「ま、待て!そんな必要は無い!貴様は粛々と俺の命に従えばいいんだ!」
男は慌てて言い添える。
「? 何故でございます?万一誤りであった場合は咎は公爵家に向かうのでございますよ?ですので、これは当然の処置です。貴方様はご自分の家をそんな危険に晒したいのですか?」
「………」
「ああ。もう一つだけ申し上げさせて頂きますと、もしもこれが貴方様の謀略で、嘘が発覚する前に私を国外追放にしたいとか思っておられるのでしたら止めておいた方が宜しいですよ。嘘が発覚した時点で貴方様は元よりキャンベル公爵家も厳罰が下ります。仮にも王の勅命だと偽ったのですから。少なくともお家の取り潰しは免れぬとお思い下さいませ。」
「………」
呆然と突っ立っている男とアリスちゃんを冷めた目で一瞥し、ロザリーちゃんは静かにその場を後にした。