学園長との対話
「ようこそお越し下さいました、創造神ミナティ様。」
王立マグノリア学園長レイシー=ブリュンの挨拶を受ける。
「こ、こんにちは…」
…何とも間の抜けた返事を返してしまった私。
「調停の女神リブラ様、礼節の女神ベレンガリア様もようこそお越し下さいました。」
「ご挨拶いたみいる。」
リブラとベレンガリアは堂々としたものだ。流石。
「サフィも久し振りね、元気そうで何よりだわ。」
そう言ってニッコリ笑う。
「さて。本日、当学園に創造神様にお越し頂き誠にありがとうございます。現在この学園で起こっている奇妙な現象については既にお聞き及びかと存じます。」
レイシーはそう切り出す。
私は頷く。
「このような事は未だ嘗てございませんでした。しかし、数ヶ月からポツポツと散見され始め、一月ほど前から急激にこの奇妙な現象が目立つようになりました。我々も様々な調査を行いましたが…全く原因が掴めておりません。」
「………」
「ですのでこれはもしや!と思い、女王陛下にご相談致しました所、本日創造神様にお越し頂く運びとなったのでございます。」
「はあ…」
それで、私にどうしろと?
「そこで創造神にお尋ね致します。このような現象が何故起こるのか、お心当たり等ございませんでしょうか?創造神の見解をお聞き致したく存じます。」
私の見解を…って言われても、ねぇ?私が聞きたいんだけど?そもそも何故この世界に悪役令嬢?マジいらね~!
とはいえ、私が何か話さない事には先に進みそうにないな。
「うう~ん。話を聞く限り、私の世界にある“悪役令嬢”っていうジャンル?の創作物に展開がそっくりではあるけど…」
「悪役令嬢、でございますか?」
レイシー他全員が首を傾げる。
「う~んとね。ゲーム…あ!(ゲームって言ってもわかんないよな~)とか小説でね…」
ここで私は必死に悪役令嬢について説明した。が、理解するのはかなり難しかったらしい。皆、しきりに首を捻っている。特にゲームについては説明が難しく、私は途方に暮れた。
“うわぁ~ん!どうしよう~!”
どうにもならない事態に頭を抱えていたが、ふと閃いた。
“あ、そうだ!これでどうにかならないかな?”
私はノートを顕現させ慌ただしく書き込みをし、操作していく。
「創造神様?如何なさいましたか?」
レイシーに問われたが、私は返事を返せなかった。だって必死だったんだもん。
「よし!上手く行った!!」
「?」
首を傾げる皆の前に私はノートを広げ、それを見せる。
「こ、これは…!」
皆が驚いて目を瞠っている。
「これで、分かって貰えると思うよ?」
そう。私はネットで悪役令嬢を検索したのである。
今まですっかり忘れていたけどこのノート、スマホ機能をそのまんま搭載していたのである。形状的にスマホというよりタブレットだな、これは。これからはノートではなくタブレットと呼ぼう。
しかし上手くいって良かったよ。これが現実世界にアクセス出来るかはやってみなきゃ何とも言えなかったから。だって、たった今書き込んだ事だったんだもん。
無事にアクセス出来たので、論より証拠!と皆に見せたのだ。
「これをね、こうすると…」
私は一通り操作の仕方を教えてからレイシーに手渡した。
「よ、宜しいのでございますか?」
レイシーは震える声で尋ねる。
「勿論!」
私はニッコリ笑って答える。
「で、では!…失礼致します。」
レイシーが震える手でノート改めタブレットを受け取り、恐る恐るスクロールしている。
その傍らで女王様と女神様たちも興味深そうに覗き込んでいる。
「まあ!こんなに沢山ありますの?」
「レイシー様、これを見てみません事?」
「あらあら、まあまあ!」
「まあ!何という事でしょう!?」
「あらやだ!こんな台詞、恥ずかしいわ…」
「まあ!何てはしたない!」
「この殿方、おつむは大丈夫ですの?」
等等等…非常に盛り上がっていた………
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「大変失礼致しました、創造神様。」
レイシーは何処か気まずそうに咳払いする。
「楽しんで頂けたのなら、何よりです。」
私は苦笑を返す。
「さて。悪役令嬢や“げーむ”なるものは理解致しましたが…」
次の瞬間、非常に真面目な表情になる。何て切り替えが早い…流石、先代女王陛下。
「創造神様の仰る通り、我が校で起こっている現象と酷似しておりますが…」
レイシーは困惑した表情で言い淀む。
「この…男性側にはしたなく言い寄る女性は、異世界から来た方なのでございますか?」
「まあお決まりの設定かな?ゲームではそもそもヒロインとしてプレイする訳だし。小説の場合はヒロインだけでなく悪役令嬢も異世界転生っていうのがお決まりだしね。」
「左様でございますか。」
「まあ、ヒロインは幾つかのバージョンがあるよ。異世界から召喚された聖女様だったり、その世界で生まれた下位貴族の令嬢だったり。元は平民…庶民育ちで貴族の養女ってパターンも結構あるかな?」
「まあ…」
「悪役令嬢物って、ゲームではクライマックスの断罪イベントから始まるのがお約束なんだよね。んで、断罪される悪役令嬢はその直前、前日だったり数日前だったりするけど自分は違う世界で死んで、生前大好きだった乙女ゲーの悪役令嬢に転生した~って自覚するの。」
「それは、また…」
「で、自分が断罪されるのを何とか回避しようと動き出して…っていうのが大まかなテンプレかな?そこから先は作品によって変わるから何ともだね。」
私がそう言うと
「左様でございますか。ですが…先程創造神様に見せて頂いたもので判断する限り、婚約破棄や国外追放というのは…余りにも飛躍し過ぎであると思われます。」
レイシーの言葉に
「まあそこは物語だからね。且つ乙女ゲーだから、ヒロイン贔屓なのは仕方無い。」
私は肩を竦める。
「そういうものなのですね。」
レイシーは溜め息を吐く。
「しかし、現実問題として毎日何組も行われては敵いません。」
は?今、何つった?
「毎日何組も行われて…?」
私は呆然としつつ尋ねる。
「はい。毎日毎日、何組もの婚約破棄が横行しております。恐らく…今現在も学園の何処かで、幾つもの婚約破棄がなされているでしょう。」
「…………」
おいおいおいおい…
私は怒りで身体がプルプル震えている。
「創造神様?」
いきなり震えてだした私を訝しんだのだろう。レイシーが心配そうに私の顔を覗き込んでくる。
「馬っっ鹿じゃねぇのーー!?」
「み、ミナティ様?」
いきなり叫んだ私に驚いた女神様たち。
「断罪イベントは!卒業パーティーでやるものなんだよーーー!!」
何、日常風景にしちゃってんだ!どうせならテンプレ通りにやれよ!!!
私は心の底から叫んだ。