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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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93. 王妃と側妃の対立の中で

2025/5/20 修正済み

※ ※ ※ ※



クリソプレーズ王宮殿の現在の後宮は、王妃宮、王女宮、王太子妃宮、未成年王族と側妃宮の大きく分けて、5つの宮殿に分別されている。


また、側妃宮には現在3人側妃がおり、それぞれ広さは違えども居間や寝室、着衣室と衣装部屋、食堂テラス、侍女部屋等豪勢な屋敷を宛がわれている。


側妃の内、ライナス王が自身で選んだ側妃はアドリアのみである。

他の2名は、メルフィーナ王妃が後宮に上がらせた者たちだ。


メルフィーナ王妃があえて、自分のライバルになる側妃を2名も選んだのは、アドリア妃に対抗する手段が欲しかった。




国王夫妻はそれより10年以上前に結婚して、ロバート第一王子を含め一男二女と子宝にも恵まれた。


だがライナス国王がガーネット王国へ親善訪問した際に、宮廷でオペラを披露した18歳のアドリア姫の歌唱姿に、国王が一目惚れしてしまった。



当時、彼女は王女でありながら歌姫でもあり、貴族や平民の間で“赤い宝石(レッドルビー)”と絶賛されていた。


その美貌は近隣諸国まで知れ渡っていた。



ライナス国王は、あえてガーネット王国が有利になる条件で結んだと言われる友好関係も、アドリア姫を己が娶りたい故のものだと、噂されたほどであった。



ライナス国王は、押しの一手でアドリア姫の兄のピエール国王を説得して、そのまま彼女をクリソプレーズ王国に持ち帰った直後に娶ってしまったのだ。



王妃であるメルフィーナが嘆いたのは言うまでもない。


2名の側妃を後宮に迎えたのもその時だ。



その後、ライナス王とアドリア妃との間には、フレデリック第2王子と第3王女も授かった。


残念ながら2人の側妃には御子が出来なかった。



王妃の努力も虚しく、現在もライナス国王の寵愛を、変わらずに受けているのはアドリア妃だけだ



メルフィーナ王妃とアドリア側妃の因縁はその時から未だに続いており、お互い気も強く何かにつけて火花を散らしあっていた。


そのことは後宮では誰もが承知であった。



王太子妃であるマーガレットは王妃側である。



これまでマーガレットは、王族の儀式関係の行事は、常に王妃の後ばかり付いていた。

口の悪い従事者たちは、マーガレット王太子妃を陰で王妃の“腰巾着”と揶揄していたくらいだ。



それが今──。


たった一人で、マーガレットは専属メイドのキャリーも連れずに、アドリア宮の客間に座っていた。


この事が後宮の噂になったら、メルフィーナ王妃からマーガレットは何をいわれるかわかったものではない。

だが、マーガレットは()()()()をして、敵ともいえるアドリア側妃に会う気持ちでいた。



※ ※



アドリア宮の客間内。赤で統一したオリエンタル風の室内。


絵画などの調度品、豪勢な幾何学模様の上質な生地のカーテンと絨毯。

家具にいたるまで、エキゾチックな異国情緒漂う雰囲気が醸し出されている。



マーガレットは、その応接間に微動だにせず座っていた。


顔色がとても悪く見える。


緊張しているのか、無意識に歯をくいしばった表情をしていた。




もう、かれこれ30分は待っただろうか。

メイドが入れてくれた紅茶が、すっかりと冷めてしまった。



『大変、お待たせ致しました。王太子妃様』


ようやくアドリア妃が客間に入ってきた。



長い黒髪を後ろに結って黄金の大きな輪のイアリング。ウエストを締め付けない赤紫のドレスを纏っていた。


正式な儀式や親睦会の姿と違って、とてもラフな格好だ。



『突然の訪問お許しください。アドリア様』


と立ち上がって恭しくお辞儀をするマーガレット。



パフスリープの袖のエンパイアスタイル風の白いドレス姿。

茶色の髪を盾巻に肩まで垂らして前髪を下している。

年より幼くみえる、細い肢体のマーガレットには清楚な服がよく似合う。



『そんなかしこまらないでいいわ、座ってくださいな』


『はい、失礼いたします』


おずおずと座るマーガレット。



『それにしてもあなたが来るなんて珍しい、一体どうしましたの?』


足を組みながら腰かけるアドリア妃。



『あの実はご相談がありまして……』


『私はかまいませんが、あの王妃様が良くお許しになったわね』


『──いえ、王妃は知りません、今日は私一人の意思で参りましたの』


『まあ、それはそれは!……で、何用かしら』



マーガレットは必死の形相で言った。


『単刀直入に申し上げます。アドリア様が使用されている媚薬をぜひ購入したいのです。どんなに高くても構いません、どうか私に売ってくださいませ!』


深々と頭を下げるマーガレット。


『あらまあ……』あっけにとられるアドリア妃。


『お願いします。私はロバート殿下の世継ぎがどうしても産みたいのです。ですが、お恥ずかしいことに殿下は寝屋に来てくれません!メルフィーナ王妃は今夏に殿下に公妾をたてるとおっしゃいました──わたしは用無しといわれたも同然なのです。このまま何もせずに、公妾を迎えるのは嫌です。無礼はじゅうじゅう承知でございます。どうか私にアドリア様が、今使用している媚薬を、私に売ってくださいませんか?』


マーガレットはせきを切ったように畳み掛けるように話した。



『…………』


アドリアはそんなマーガレットを見つめる。


だが──。


『媚薬については何処で聞いたのかしら、余り広めてはいないんだけど』


『⋯⋯その、侍女たちの噂を少し聞いてしまって……』


『そんなものはないわよ!』


『え!』


びくっと顔をあげるマーガレット。



『なんて、嘘よ、嘘。媚薬はありますわ。オホホホ!』


高笑いをするアドリア妃。



『あ、そうですか……』



『うふ、ゴメンなさい、あなたが余りにもカチコチ過ぎるから、からかいたくなったのよ。ふふ悪かったわ』



その時、コンコンとノックの音が──



『失礼します。紅茶をお持ちしました』


とメイドが入ってきて、アドリアとマーガレットにも二杯目のティーカップを机に置いてくれる。



『ありがとう、いただきます──』


マーガレットはアドリアの笑いで、緊張がほぐれたのか急に喉の渇きを感じて紅茶を飲んだ。



『その媚薬だけど王様もご存じで使ってるのよ』


『え、そうなのですか?』


『媚薬ったって、匂いで相手にすぐにばれるものよ。だから使う時は殿下に正直にいったほうがいいわ。結局夜の行いってムードが大事ですものね』


『⋯⋯そうなんですね』


マーガレットの顔がみるみる赤くなった。


──ムード?


だが果たして、ロバート殿下に伝えたとして()()()()()()()その気になってくれるだろうか?


マーガレットは不安で仕方なかった。




『ねえ、気を悪くしたら謝るけど、殿下ってあなたのことほったらかしなの?』


『い、いえそんなことはないです。殿下はいつも私には優しいですわ。でも……それだけです』

といいながら泣きそうな顔になるマーガレット。



──そう、ロバートが愛してるのは、昔からエリザベスお姉様なのだ。


私は利用されたに過ぎない。



それでもマーガレットの本心は、初めて出会った頃のロバートの最初の笑顔は真実だったと信じていたかった。



そんなマーガレットの様子を、じっと見ていたアドリア。



『いいわよ、媚薬をあなたにあげましょう』


『え?』



『あなたの正直さと健気さに心が打たれたわ。媚薬がどこまで効果もつかは不明だけど使ってみたら?』


『あ、ありがとうございます!』


マーガレットはとても嬉しかった。



『あと、せっかくだから、妊娠に効果がある薬も上げるわ。あなたの顔色とても悪すぎるもの。血行がよくなる薬だから、今日から毎日一粒、朝晩だけ飲んでみなさい』


と、アドリアは棚から何やら小さな錠剤の入った瓶を机に置いた。


『そんな薬もあるんですか?』


『血行をよくする薬草やハーブを調合したものよ。私もこれを飲んでたら子供ができたわ』


『ありがとうございます! でも何故そこまで……』



『う~ん、気まぐれかしらね。公妾なんて、いわゆる子ができたら王妃をすり替えちゃうって話でしょう。さすがに義理の娘に、メルフィーナ様は冷たすぎると思ってね』


『ありがとうございます。アドリア様。本当に感謝しきれません』


マーガレットはすっかり舞い上がっていた。



『いいえ、どういたしまして、また何かあったら何でも相談しなさい』


『はい、そういたします』



媚薬と思いがけない血行薬までもらったマーガレットは、嬉しくて帰りも、何度もお辞儀をしてアドリア宮から帰っていった。



※ ※



『あら、ロット?』


アドリアがマーガレットを見送った後、応接間に戻るとソファーにロットバルトが腰を掛けていた。

口には細長い煙草をくわえている。


『アドリア姉さま、あんないたいけな王太子妃を騙していいのかな? あなたはそうとうな悪女ですね』


ロットバルトはにやっと笑って、口にくわえた煙草にマッチで火をつけて吸う。



『あなた、いつの間に来たのよ……私にも吸わせてよ…』


アドリアは、ロッドバルトが口にくわえていた煙草をさっと取り上げて、そのまま自分の口にくわえて吸った。



『人聞きの悪い、別にだましてないわよ、でも“飛んで火に入る夏の虫”ってあの娘のことをいうのね、ちょっと面白くなりそうだわ……』


煙草を美味しそうに吐きながら、エリザベスも妖しげに微笑んだ。





※ せっかくマーガレットが勇気をふるいだして会ったのに、アドリア妃は何か企んでいるようです。

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