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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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88. ロットバルトの叔母と乳母

※ 2025/5/19 修正済み

※ ※ ※ ※



ロットバルトはエリザベスの曇った表情で、不味い事言ったかなと感じた。



『そうかそれは気の毒だったね。でも君のお嬢さん(リリアンヌ)は不思議な子だね』


『不思議な子って何が?』



『あ、いや何でもないよ。──さっきの人体実験の質問だけど、新しい薬草で染める実験を僕が自らしたんだ。元々、この農園は叔母のアドリア妃の土地で、彼女が美容に精通してたからハーブや野菜農園を起こしたんだ──僕も以前から薬草やハーブ等に興味があって、叔母の化粧品や髪の染粉とか作ってあげたくてね。ここで、いろいろと研究してるんだよ』



『へえ、アドリア様の……』


エリザベスはロットがリリアンヌの“不思議な子”という言葉が気になったが、追求しなかった。



「うん、結果は君が見た通り。新種の薬草だと黒髪が綺麗に金髪に染められた──ガーネット王国民は黒髪が多い分、君や夫君のような金や銀の髪質にとても惹かれるんだよ。叔母だってたまには金髪になって変身してみたいのさ』


『なるほどね、人ってないものねだりってあるわ。わたくしは、自分の銀色の髪色を変えようとは思わないけど、アドリア様は異国から嫁いできたから、色々とお悩みもあるのでしょうね。──でもアドリア様ほど美しい妃は、クリソプレーズ王室の何処にもいないわよ。あなたも人体実験まで買って出て、アドリア様のこと大好きなのね』



『ああ、アドリア姉さまは、僕が小さい頃に母を亡くした時から、面倒みてくれたからね、姉さまの要望はできうる限り叶えてあげたいよ』




──へえ、アドリア様に相当懐いてるわね。


留学してきたのも、アドリア様に会いたかったからが本音かも。


ロットバルトの出生の噂では現国王の隠し子とかもいわれてるし……。



だがもう詮索するまい。

ロットバルトがガーネット国王の子だろうが、他国の王位継承問題は()()()()()()()には関係のないことだ。



※ ※



『はい、終わったよ、湿布はマルコ君の分も渡すから、君も1日1回は貼りかえた方がいい。今日明日は安静にしてればすぐ治る打撲だ』


『ありがとう、とても気持ちがいいわ』

エリザベスは左手を擦った。きれいに包帯してある。



──利き腕でなくて幸いだったわ。

来週には、夫のいるセルリアン領地へ出発する。


エリザベスはなるべくエドワードに心配をかけたくなかった。


まして、こうしてロットバルト伯爵と、接点ができたことに、なんとなくエリザベスは後ろめたさを感じるのだ。


『それにしても伯爵なのに医者とは、ガーネットの王族が平民と同職に付くと、周りの貴族から反発はないのかしら?』


『ああ僕のパイロープ家だけさ、父は国でも名医といわれている。王の主治医も兼ねてるからね』


『でも、あなたは確かパイロープ家に養子に入ったと聞いたけど、あら、わたくしったら!』


エリザベスは伯爵の噂を、つい口にだしてしまい不味いと思った。


『気にしなくていい、事実だ。僕の実父は国王の弟アルディン公で、パイロープ公は末の弟さ。つまり僕は伯父さんの養子になったんだ。次男だったしアルディン家を継ぐのは兄だからね

パイロープ家には子供がいなかった。だから僕が養子に迎えられた、それだけのことだよ』


淡々と生い立ちを説明するロットバルト。

だが何処か彼の顔つきは陰りを感じた。



『余計な事をいって悪かったわ。けれどあなたを見てると才があるみたいだし、パイロープ家の人間になって良かったのでは?──パイロープ家っていったらこの国(クリソプレーズ)では錬金術で、あらゆる文明の利器をつくる魔法使いの家系っていわれてるのよ』


『へえ~なら僕は魔法使いかな?』


『え……?』


ドキっとするエリザベス。



『なあんてね。──魔法が使えたら打撲など簡単に直せるだろう。それに医者になる必要もない。まあ魔法使いは僕の子供の時からの憧れなんだけど』


ニヤッと、いつもの人を捻くったような笑顔になる。



『あなたがいうと、冗談に聞こえないわ』


『ははは……僕はそうとう君から警戒されたな。もう一杯お茶を飲むかい?』


『ええ、頂きたいわ。この紫蘇(しそ)のミルクハーブティ、とっても体が温まって美味しいわ』


『紫蘇はね、血液の循環を良くして身体を温めてくれるんだ、良かったらお土産に粉末の紫蘇茶をあげるよ』


といって、チリリンと机に設置してある呼び鈴を鳴らした。



少し経ってから、腰の曲がった老婆がゆっくりと入ってきた。


『ロットお坊ちゃま、御用でございますか。今、誰も手を離せないから私がきましたよ』



『ああゲーテル、悪いな。お茶のおかわりをメイドに頼んでくれないか。あと紫蘇茶も客人に持たせたいから用意するよう伝えてくれ。そうそう紹介するよ。この人はエリザベス・ルービンシュタイン公爵夫人だ、夫人、僕の乳母のゲーテルだ、留学する為に一緒についてきてくれたんだ』


『──エリザベス公爵夫人。初めまして、ロットお坊ちゃまの乳母のゲーテルでございます』


ゲーテルという乳母はとても低く頭を下げていた。



『初めまして、エリザベスよ。失礼だけどあなたはロットバルト伯爵の乳母なの?』


『はい、子供の頃からお世話しております』

ゲーテルはようやく顔を上げた。



『…………』


ゲーテルは、何か驚いたのか、エリザベスの顔をじっと凝視する。



『ゲーテルは乳母といっても僕の身内みたいなもんだよ』とロットがにこやかに言う。


『まあ、そうですの。それはそれは──』エリザベスもゲーテルを凝視した。



乳母は酷く腰が曲がっている。

ひっつめて上にまとめた髪は真っ白である。


既に相当な御年寄りなのではないか?


皺くちゃだらけの顔だが、エリザベスを見つめる()()()()()()()は生き生きと輝いている。



──先ほどロットバルトと魔法使いの話が出たが、この老女はまさにわたくしが思い描いていた魔女にぴったりだわ。



『おお、うう、うう…………』


突然、乳母のゲーテルはエリザベスを見て泣きだした。



『え、どうかなさって──?』


ロットバルトが『どうしたゲーテル──!』


エリザベスとロットバルトは老婆の涙を見て慌てた。


『私は長年生きてきましたが、あなた様のような()()()()()()()()をみたことがありません。まさかこの年になってお会いできるとは!!──ああ女神様~』


とエリザベスの目の前でしゃがみこんで祈りを捧げた。



──はあ? 何なの、このおばあさんは!


わたくしの眼はいつも人々から賞賛されていたけど、さすがに、目の前で祈りを捧げられたのは、生まれて初めてだわ。


エリザベスはロットバルトの乳母の行動に面食らった。


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