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08.エリザベスの野望

※ 此処からはエリザベスとエドワードの回想となります。

※ 2025/4/24 修正済み

※ ※ ※ ※


エリザベスがルービンシュタイン公爵家のエドワードと婚約したのは、妹のマーガレットが、このクリソプレーズ王国のロバート王太子と婚約した直後であった──。



エリザベスの実家のバレンホイム侯爵家と、ルービンシュタイン公爵家は先代達が懇意にしており、将来年齢的に釣合う子息子女ができたら婚姻をしようと決めた。


決めたのは、共に故人となったエドワードの父親とエリザベスの祖父だった。


その後両家の期待通り、ルービンシュタイン家には嫡男のエドワードが誕生。

4,5年後にはバレンホイム家に、長女のエリザベスと年子の妹マーガレットが誕生した。


バレンホイム家はどちらかの娘を、将来エドワードに嫁がせようと決めていた。


ちなみにバレンホイム侯爵家の家督相続は、姉妹の他にも年の離れた長兄がいたので問題はなかった。



だが両家の思惑とは別に、肝心のエリザベスは幼い頃から()()()()()()を持った少女であった。


『わたくしは此国の王妃になりたい! だって王妃は国一番の女性ですもの! わたくしこそ相応しい令嬢は此の国どこにもいなくてよ!』と強い野心があった!


※ ※


エリザベスが野望を抱いたのも無理もない。


幼少時から気性が激しく負けず嫌い、男勝りのお転婆娘だった。

運動神経もよく仔馬に乗って屋敷の庭中や、所領地まで駆けまわるのだ。

兎に角元気が有り余っている、規格外のとんでも令嬢であった。


また頭も賢く、読み書きの覚えも早かった。

既に9歳で大人でも難しい外国語本や古い文献が読めるほどとなり、家庭教師も舌を巻くほどだ。


手先もとても器用で、貴族の淑女教育である小物類の裁縫や刺繍もなんなくできた。

つまりやろうと思えば、何でもできるパーフェクト令嬢なのだ。


それ故に、唯我独尊(ゆいがどくそん)となりできない人間の気持ちがわからずに、エリザベスはどんどん傲慢な性格になっていった。


対照的にすぐ下の妹のマーガレットは、どちらかというと不器用な少女だった。

勉強も裁縫も普通の令嬢ができる基準を上中下に分けると、中、それも中の下であろう。


小公女にしては普通というか、ごくごく平凡で地味なタイプだ。


内向的な性格の原因の一つは、幼少期から病弱で食も細く、寝込む日々が多かったせいもある。


性格も大人しく我も強くはなく、静かにじっと過ごしているのがマーガレットの日常だった。


ただ一点、マーガレットの利点は、両親や上流貴族の年輩の者にはけっして逆らわないことであった。


大人にとっては非常に扱いやすい子供ではあった。


母親のセーラも何かしらエリザベスより、従順なマーガレットを可愛がった。


彼女の教育のモットーは『淑女は何よりもマナーを守り、素直で慎ましい娘が徳を持てる』と信じていた。


それ故に、セーラのお気に入りは従順なマーガレットであり、姉のように野山を駆け回る()()()()()娘など、母親のセーラにしたら言語道断である。


いつしか母と長女の間には深い溝ができていった──。


※ ※


『お母様はいつもマーガレットばかり可愛がりになるのね!わたくしはお母様の娘ではないの?』


ある日、幼いエリザベスは顔を真っ赤にして母親に問い詰める。


『リズや、なに愚かなことをいってるんです? あなたも私の娘に決まってるでしょう。

マリーはあなたと違って身体が弱いんです。あなたは姉でしょう。もう少し優しく接しないといけません。いつもいってるけど、妹が困っていたら目上の者として、手を差し伸べてあげなさいな⋯⋯』


母のセーラはエリザベスの気性の激しさを、ことある毎に指摘して窘める。


長女が優秀すぎるのはいいが、自分より劣っている妹やその他屋敷の家令たちに、横柄な態度をとるのはよろしくない。


気高いのはいいが、貞淑な貴族令嬢としての、美徳ともいえる謙虚さが欠けていると指摘した。


しかし、なかなかエリザベスの習性を変えることは母親といえども難儀であった。


妹のマーガレットも、自分に辛辣で傲慢な姉が苦手であり、少しでも姉に怒られると、直ぐ母親のドレスの後ろに隠れてしまう。


その度にエリザベスは母から窘められた。


エリザベスからすると、マリーは単なる従順な妹ではないずる賢い子だと思った。


──マリーって何にもせずとも、お母様の愛情を一身に受けているじゃない!


エリザベスにはどうにも解せなかった。


華奢で見るから儚げな美貌だけがとりえの、愚図でノロマなくせに⋯⋯。

お母様はともかく、お父様も、お兄様までマーガレットを猫可愛がりなさる!


エリザベスは、家族の中で自分が蔑ろにされるのが、とても我慢できなかった。


家族の中では乳母のサマンサだけが、エリザベスの我儘を聞いてくれる心安らぐ存在であった。

それでも、母の愛をどうにかして独占したいエリザベスは突如として(ひらめ)く!


『そうだわ、お母様だって私が王太子妃になれば、マリーよりわたくしに目をかけてくれるに違いないわ!』

と、エリザベスは大人になるにつれて、増々王妃になる野心が大きくなっていった。



しかし時は巡り、運命の女神はエリザベスには微笑んではくれなかった。


当時、第1王子だったロバートはこともあろうに、凡庸(ぼんよう)な妹のマーガレットを王太子妃に選んだのだ──。


エリザベスは、その信じられない現実に、自身の()()はズタズタにされてしまった。




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