表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/241

79. ロットバルト伯爵の噂

2025/5/16 修正済み

※ ※ ※ ※



春風は気まぐれで悪戯(いたずら)好き──。


普段は花びらたちを、軽やかにくるくるとワルツを踊らせてあげる“そよ風”を装ってはいるが、一度癇癪(かんしゃく)を起こすと、満開の桜たちを散らす強風に様変わりする。




金髪で紫の瞳の若者は春風のように今、エリザベスを優しげに見つめていた。



だが、エリザベスは知っている。


この男は危険人物だと。



一見、清々(すがすが)しい身なりだけれど、娘を風船でおびき寄せて、自分の肩車に乗せて優しくしたとしても、それは見せかけに過ぎない。



一旦、その美しき仮面を剥ぎ取れば、真の悪魔の姿が見え隠れする。




──間違いないわ、この金髪はアイツ(ロット)よ!



エリザベスは金髪男を凝視しながら、ロットバルト伯爵の噂を思い出していた。




※ ※



去年の秋の国王誕生儀式から後、ロットバルト・パイロープ伯爵は母国ガーネット王国に一旦帰国した。



グレースのオートクチュール店にくる、噂好きの夫人たちによればロットバルト伯爵は20代後半。


父親は現ガーネット国王の3男のパイロープ公。


ロットバルトは養子だという。


本来、国王の次男の息子なのだが、パイロープ家に嫡子(ちゃくし)がいないため、次男のロットバルトを養子にした。


実父の公爵家の跡取りはロットバルトの兄が継いだ。




だが、彼には出生(しゅっしょう)の秘密があると自国ではもっぱらの噂がある。



もしかしたら現国王の秘密の落としだねではないかとも──。




このように彼の噂は後を絶たない。



未だに独身貴族のため、女性関係のよからぬ噂も相当あるとか。


この度のロットバルト伯爵が帰国した理由も、どこぞの高貴な名家の夫人との密会が、彼女の夫にばれて、国王にお咎めをくらったとかなんとか……。



噂好きの夫人らはそれほど突如現れた、見目麗しいロットバルト卿に関心を寄せ始めていた。



彼のスレンダーな肢体に、漆黒の髪と紫の瞳はクリソプレーズではひときわ目立つ存在だった。


中には自分の若いツバメにしたいくらいだわ、という夫人までいたというから驚きだ。




『リズ、一応いっておくけど、これらは全て噂好きの年増夫人たちが勝手にペラペラと話しただけで、伯爵の真実はわからないよ』


とグレースは、一言忠告を添えて、エリザベスに教えてくれた。



エリザベスはグレースには仮面舞踏会の嵐の晩にロットバルトに襲われたことは何も話さなかった。


だが、何かしらグレースもロットバルト伯爵に、関心があるようだとエリザベスは思った。



※ ※



今、春の嵐のように、ロットバルトと同じ紫水晶の瞳をもつ若者は、涼やかにエリザベスを見つめていた。




──この男、また我が国に舞い戻ってきたのね!



そうよ、こいつは危険だわ、わたくしやリリーに何をするかわかったもんじゃない!



あの嵐の晩を思い起こすと、甘く美しい毒を吐くような男だとエリザベスは感じていた。



二人は、しばし睨み合っていたが、リズは男の側へ駆け寄ろうとした、




──何よ、なぜ今日は()()なの?


この男は黒髪だったはず!


もしかしてカツラなのかしら?


近づいて確かめてやる! 


もしカツラなら引っ張って、コイツの化けの皮を剥ぎ取ってやる!


と、金髪男の側に行こうとしたら。



『エリザベス──!』


『──!?』


夫のエドワードに、エリザベスは呼び止められた。



『どうした、店の入り口に突っ立って? リリーたちは中にいるのかい?』



ちょうど、エドワードは馬車から降りてエリザベスに近づいてくる。



『旦那様、あ、その……』


『──どうした、顔色が悪いぞ』



──嫌だわ、旦那様にだけは、ロットバルトとの関係を悟られたくはない!



『どうした、誰かを探しているのか?』


エドワードは、エリザベスの様子がおかしいと辺りを見まわす。



『え、ああ何でもないですわ、そろそろ旦那様がお見えになる頃だと思って待ってましたの』


といって、エリザベスはエドワードの腕をぎゅっと組む。


『お、どうした?』


エドワードはふいに腕を組まれてびっくりする。



最近では、外でも家でも、エリザベスから腕を組むなんて滅多になかったからだ。



『ごめんなさい、外にいたから、何か花冷えかしらねえ、日が陰って寒くなりましたわ。旦那様、早く中へ入りましょう』



『? ああ、そうだな。リリーのドレスの見立ては終わっただろうか。これからホテルのレストランの予約をしたから今日は、久しぶりに3人で外食をしよう』



『ええ、嬉しい、そうしましょう!』


とエリザベスはにこやかにほほ笑んで、エドワードとグレースの店へと入っていく。



振り向きざまに、エリザベスは()()()()金髪の若者を見た。



若者は、ひどく無表情な顔でじっとエリザベスたちを見つめていた。




──まだ見てるわ、あの男。


ああ、うっとうしい、早くどっかへ行って!



エリザベスは勢いよく、店のドアをバタンと閉めた──。






※ 金髪の男はロットバルトなのか? エリザベスのストーカーのようで怖すぎます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ