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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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78. ぎくしゃくする母と娘

2025/5/16 修正済み

※ ※ ※ ※




リリアンヌが突如いなくなった"Queen Bee"(クイーンビー)チャイルド店内の人々は騒然とし始めて、手分けして探し出した。



そうこうしているうちに、エリザベスとグレースも到着して、すぐにアンナはエリザベスに事情を説明した。



『なんですって、リリーがいない?』


エリザベスはすごい形相でアンナに問い詰めた。



『はい、奥様、私が化粧室へ行ってる間に、お嬢様がベッドから居なくなってました。ほんの数分程度でしたが…』



『ほんの数分程度って、そんな短時間でリリーが消える訳ないでしょう!』


と怒り出すエリザベス。



『本当に申し訳ありません、奥様。ですが本当なんです』



『あなた、いい加減な事行っても嘘はすぐばれるわよ、あの子の足が悪いのをご存知でしょう、そんな子が遠くまで行けるわけ無いわ──どうせリリアンヌがお昼寝してる間に、放ったらかしにしてたんでしょう?』



『は、ええ奥様、はいい、もちろん足のことは存じております…わ、私の責任です。本当に本当に申し訳ございません……』


アンナはエリザベスの剣幕に、タジタジとなって頭を深く下げ続けた。



涙がポタポタ(あふ)れて、恐れと不安でどうしていいかわからなくなっている。


周りにいる店員やお針子たちも、アンナと同じ気持ちでシーンと静まり返っていた。



テレサ以外の店員たちは、エリザベスとは初対面であった。



毎年春と秋だけ、リリアンヌとお店にくるのはいつも父親のエドワード公だったからだ。


グレースの婦人服のモデルを務め“緑の女神”といわれるくらい美しい奥方がいると耳にはしていたが、まさか温和なエドワード公爵の奥様が、これほど怖い夫人と思ってはいなかった。


皆、アンナに同情の眼を送っていた。





『ねえ、リズ。そう頭ごなしにアンナ嬢を責めても仕方ないよ』


グレースが周りの空気を察したのか、エリザベスの肩を優しく(さす)った。


『──だってグレース……』


エリザベスも流石に、幼いメイドのアンナに、キツく言い過ぎたと気がついて顔を赤くした。



『うーん、お店を隅々まで探していないなら、外へ出たのだろうね、まずはみんなで近辺を探そう』



『先ほど、この近辺の通りは大方探したのですけど、見当たらなかったのです』


と、店員のテレサがびっしょりと汗をかきながらいった。


よく見ると他の者もアンナも汗をかいている。


リリアンヌがいなくなった後、皆で必死に手分けして探したのだろう。



『そうか──公園は?』



『あ、まだです、そこまでいくとは思わなかったので⋯…』


幼い子供が、通りを隔てて公園まで行くとは考えていなかった。



『まだなら、とりあえず公園も探して見ようよ!』


と、グレースたちが入口へ行こうとすると、チリリンとベルが鳴ってドアが開いた。



ドアが開くと、赤い風船をもったスリリアンヌが立っていた。



『リリアンヌ様』

『リリー!』


アンナとエリザベスが、同時に叫ぶ。


思わずリリアンヌを抱きしめにいこうとするエリザベス。



だが──



『アンナ~!』


とリリアンヌは風船を手から外して、アンナの胸に飛び込む。


『リリアンヌ様〜良かった!』


アンナも泣きながらリリアンヌを抱きしめる。


『ごめんなしゃい…アンナ〜ううっ…』


リリアンヌもアンナが泣いたせいか、つられて泣き出した。


二人を茫然と見つめるエリザベス。



グレースや周りの店員等もリリアンヌが戻ってきてホッとしたが、リリアンヌ嬢が母親の公爵夫人よりも、メイドのアンナの胸に飛び込んだ姿に、微妙な空気が漂っている。



それでも、エリザベスはやれやれとホッとした表情になった。




──兎に角、見つかって良かったわ。でもこの娘は母親など眼中にないわね。


まあ当然だわよ。四六時中アンナと一緒にいるんだもの。だけど……



エリザベスはリリアンヌが見つかって安堵したが、どこかいい知れない寂しさも感じた。



グレースはエリザベスの傍に行き、肩をポンポンと軽く叩いた。


はっとしたエリザベスは、グレースを見る。


グレースは微笑んだ。

エリザベスも微笑み返した。


エリザベスは気を取り直して


『リリー、どこに行ってたの?』



『あ、おかあしやま。こんにちは、あ、ごめんなさい』


リリアンヌは、今初めてエリザベスがいることに気がついたようで、少し顔がこわばった。



『黙って一人で外に出たら駄目よ。皆で心配してたのよ、何処に行ってたの』



『あ、あの、()()()()()さんをおって、こうえんいったの』


『ふゆうせん?』


エリザベスには幼児言葉がよくわからない。



『奥様、多分あの()()のことではないかと…』


とアンナが、天井にぶつかって、止まっている赤い風船を指した。



天井に(さえぎ)られて、赤い風船が止まって、ゆらゆら揺れていた。


『ああ、風船のことね』



『あのね、ふゆうせんさんが、こうえんのきにとまったの、そしたらおにいしやまがきて、リリーをだっこしてリリーが、ふゆうせんとったの』


()()()()()()()ですって?』


エリザベスは男がリリーを抱っこした、と言った事だけ反応した。



『それでどうしたの、その男はどこにいるの?』



『あ、えっとえっと、ここまでリリー、だっこしてきたよ』



リリアンヌは、エリザベスのキツイ顔が、とても怖いのかびくびくしてる。



エリザベスはお構い無しに、入口のドアを開けて通りを見た。



※ ※


3時過ぎの公園通りは、桜の花びらがヒラヒラと舞い散る中、沢山の人々が花見を楽しんで、止まったりぞろぞろと歩いている。



──リリーを連れてきた男はどこ?



エリザベスはキョロキョロ辺りを見回したが、それらしき男の姿はいない。



諦めてドアを閉めようとした瞬間──、


『!?』


その若者はいた──。



背が高い男が店の少し遠くから、エリザベスを見つめていた。


白いシャツ、黒のスラックス。


()()のサラサラ髪をなびかせて整った顔立ちだが、口角を高くあげて笑う姿は悪魔のように見えた。


エリザベスが驚愕したのは、()()()()()()()のように光っていたからだ。



──あの男、もしかしてロットバルトじゃないの?


エリザベスはギョッとした。




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