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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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74. 久しぶりの再会 

※ 2025/5/9 修正済み

※ ※ ※ ※



『ロットは私の甥であり、将来は由緒あるパイロープ公爵家の爵位を継ぐ身ですから、失礼な態度は公爵夫人であろうと許しませんよ』


アドリア側妃はエリザベスにひどく交戦的だった。



パイロープ公爵家とはガーネット王国の現国王の親戚筋、つまり王侯貴族である。

なおかつ代々優秀な錬金術師や名医を輩出してる名家でもあった。



エリザベスも以前、王妃教育の一環としてガーネット王国の知識は少しだが把握していた。



──いくらガーネットの王侯貴族の()()()()だろうが腹が立つわ。



ここで、この男がわたくしにした破廉恥を、一切洗いざらいぶちまけたら、この女狐(アドリア妃)のすました顔がどう変化するか見ものだわ。でも……



エリザベスは横にいるエドワードを見つめた。

とても心配そうな様子をしている。



──ああ、駄目だ、旦那様を悲しませたくはない。


それでなくてもリリーの足で迷惑かけてるのに


エリザベスは喉元に出かかった、ロットバルトへの黒く汚い罵詈雑言を吐きだしたい気持ちをぐっと(こら)えた。



※ ※



アドリア妃は『ロット、急がないと紹介したい方が帰られてしまうわ、早く行きましょう』


飽き飽きしたように公爵夫妻を見つめて言った。



『はい、アドリア姉様、それではエドワード公爵様、失礼致します。錬金術の話ならいつでもお気軽にお声かけください──エリザベス様、何か私の事でお気に触られたのならどうかお許しください。何分にもまだこの国に慣れておりませんので──いずれまた改めて謝罪にお伺い致します』 



ロットバルトは一礼をして、アドリア側妃の後をついて王宮の広間から出ていく。



去り際、ロットバルトがエリザベスの横を通る時、耳元で彼女に()()()()だけ囁()()()



エリザベスはその言葉に、思わずカッとなったがロットバルトを睨んだだけで何も言わなかった。



※ ※



『エリザベス、大丈夫かい。さっきは驚いたよ。彼は随分エキゾチックな男だったが、何かあいつにされたのか?』


エドワードの、エリザベスを見つめる蒼い瞳がとても不安げに揺れている。



『旦那様……』



──ああ、駄目だ。絶対に()()()()()()()()()()()()()()


事実をいえば悲しむだろうし、もしかして昔のクラシカルな貴公子然としている旦那様だ。


わたくしが乱暴されたと知ったら、あの男に決闘の申し込みすらしかねない。

そんな事になったら一大事である。


下手をすれば王国同士まで巻き込むことになる。



エリザベスが有らぬ危惧をしたのも、ガーネット王国は隣国で友好国でもある。

ガーネットからの留学生は技術者が多く、クリソプレーズの製品制作に携わっている。



彼等は王国に繁栄をもたらす人材として、重宝がられていた。



『い、いえ大した事ないですわ、その、先日たまたま舞踏会でお会いしたんです。それでダンスをした時に、わたくしのドレスをあの人が踏んでわたくし、わたくしひっくり返ってしまったの──その時ちょっとした喧嘩になったのですわ。ほほほ…⋯わたくしもいつまでも些細な事で根に持って子供ですわねえ。本当に騒がしてしまってゴメンナサイ……』


エリザベスはしどろもどろに目を伏せていった。




──嘘だな、妻は嘘を付く時は、いつも目を伏せて話すんだ。



彼女は何かを隠してる。



エドワードは心がざわついて不安になったが、これ以上詮索したくなかった。

彼女が話したくないなら、そのままにしておこうと思った。



『わかったよ。あいつのことはいい──それよりもメルフィーナ叔母様、いや王妃にもいわれてたが、このあと君はマーガレット王太子妃と会っていきなさい』



『え、なぜですの?』


エリザベスは突然、妹の話を振られて戸惑った。



『いや、前にロバート殿下にも頼まれてたんだが、最近、マーガレット様は体調が優れずに塞ぎ込んでいる、後、君にとても会いたいそうだ──どうかな一度会って元気づけてほしいんだが…』



『でも、旦那様、わたくしと妹に、確執(かくしつ)が有るのはご存知でしょう』



『エリザベス、もうそんな昔の話は水に流そう。今はお互い伴侶を得て別の道を歩いている。せっかく王宮に来たんだ、せめて顔だけでも妹に見せてあげたらどうだい』



『…………わかりましたわ』



少し考えていたが承知したエリザベス。




※ ※



その後エドワードは先に帰宅した。

明日の朝、領地に帰る為だ。

御者には後でエリザベスを迎えに行くように言いつけた。


エドワードは多忙の中、国王の誕生祝いに参列してたのだ。



──旦那様こそ、行ったり来たりでお体を無理しないで欲しい


エリザベスの夫に対する気持ちは、徐々にではあるが変化していた。


だが、まだ本人自身はそれが“愛”とは気づいていない。




※ ※




王宮殿、王太子妃の部屋の客間。



『少々ここでお待ち下さいませ』



エリザベスは王太子妃専属のメイドに客間に通されて暫し待たされた。


エリザベスは通された部屋の中をぐるりと見回した。



王族らしい格式ある室内だが、王太子妃の好みが繁栄してるのか、壁紙の色もアイボリーで掛かっている絵画や彫刻も、小動物や女神など美しく愛らしいものが多かった。

マホガニーの白テーブルとセットの椅子。

テーブルの上には秋桜と秋ゆりが花瓶に飾ってある。




──マーガレットらしい、かわいくて落ち着く部屋だわね。



あの娘がわたくしに会いたいなんて……。


エリザベスは少々複雑な気持ちだった。




マーガレットは婚約後、すぐに王宮に上がった。



エリザベスも結婚した後は、王室行事で何度か遠目で謁見したくらいだ。

王太子妃主催のお茶会もエリザベスは参加しなかった。


ここ何年もまともな話すらしてなかった。




『お待たせ致しました、王太子姫様がお見えです』


とメイドが扉を開けて、マーガレット王太子妃が入ってきた。



『お姉様!お久しぶりですわ』



マーガレット王太子妃は、首まで隠れた清楚で白のローブ・モンタントのドレスだった。



胸をさらけだした王妃やアドリア側妃たちの、派手な色のローブ・デコルテではない。




──マリー、とても可愛い!


本当にこの子は人間離れした妖精みたいだわ。



真っ白な青い顔は前よりやつれてみえたが、とてもエリザベスをみて嬉しそうに微笑みかけた。



『マーガレット王太子妃様、お招き頂き恐悦至極に存じます』


エリザベスは恭しくカーテシーをした。



『いやですわ、止めてください、お姉さま!』


マーガレットはエリザベスをすぐに立たせた。




『ああ、お会いしたかった、本当に』

とマーガレットはエリザベスをぎゅっと抱きしめた。



『あ、マリー、いえ王太子妃様……』



突然、妹に抱きしめられてエリザベスは戸惑いを隠せなかった。







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