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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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72. 王の誕生祝賀会と収穫祭

2025/5/8 修正済み

※ ※ ※ ※



本日のクリソプレーズ王都は爽やかな秋晴れだ。


今日11月3日は、ライナス国王の50才の御生誕記念日として王都の街も休日である。


同時にクリソプレーズ王国収穫祭も、並行して全国で行っていた。

王都の大聖堂内では、司祭が豊穣の祈りを緑の女神に捧げたり、全国各地方の緑の教会にもパンやお菓子を提供していた。



各町や村の子供やお年寄りの家に、教会関係者やボランティアの団体が1件1件配って渡していく。


また王都では、国王の誕生日とあって平民たちが王の為に主催する、公式誕生日のパレードも開催していた。



今年は、“花の少女たち”と題して、コンテストで選ばれた成人前の10代の少女が台車に乗り、通り沿いの観覧の人々に秋桜(コスモス)撫子(なでしこ)竜胆(りんどう)など秋の花を1本1本投げていく。


それらを歓声をあげて、取りあい押しあう人たち。


その他、収穫感謝祭りは、仮設テントを大通りに幾つか設置して、新鮮な野菜や果物や肉で拵えた(こしら)ご馳走を王都民たちに提供するしくみだ。


また、酒場やカフェも各地から続々と、入荷される新ワインの樽が配送されてくる。

王都の繁華街はこの日は、ワインパーティーの一色となり、大勢の王都民がどんちゃん騒ぎとなる。



もちろん、これら全て王国の税金で提供するので、平民たちにとっては王様のお祝いと称して、ただで酒や料理が楽しめる特別楽しい一日として、最高の日であった。



※ ※



夕刻の馬車の中、エリザベスと夫のエドワードが王宮へと向かっている。



エリザベスは、馬車の窓から白のグローブをつけた手で、カーテンを少し開けて夕焼け空をそっと眺める。



2人は共に王宮へ行き、王に拝謁(はいえつ)するので今日は礼服だ。

エリザベスはミンクの茶の毛皮のコート、中は白のローブ・デコルテドレス。



エリザベスが『少々、遅れたかもしれないわね』


『ああ、通りが平民たちで混んでたからな、さすがにうっかりした』


『でも、王都民のパレードのお祭りがちょっと見れて楽しかったわ』


『そうだね、こういう時でないと見れないからな』


と、国王の誕生パーティーに遅れそうなのに、呑気な公爵夫妻である。


本来、2人は王族の身分なので、国王夫妻の拝謁も特別、滅多にないことではない。


特にエドワードにしてみれば、国王夫妻と言っても、叔父と叔母に会いに行く感覚だったのだ。



※ ※



クリソプレーズ王国では、国王に家臣が拝謁する場合は、全ての貴族の男性は騎士服でなければならない。



クリソプレーズの貴族の礼服は騎士服である。


とはいっても王宮騎士団とは異なっており、エドワードの場合は、公爵を現す紋章とルービンシュタイン家の(ふくろう)の家紋が縫い込んである()()()()()()()をかけている。


懸章の色は各領地カラーが決まっていた。



領地のない貴族は全員灰色。

騎士服の色は上下白で、黒い革のブーツと決まっている。

これが男性貴族の礼装である。




夫人の場合に関しては、白色の正装ドレスであれば問題はない。

ただし白のグローブと、なにかしらの宝石はどこかに身に付けなければならない。



エリザベスは大きなサファイアのイアリングとネックレスを付けてきた。


どちらもエドワードからの贈り物で、エリザベスが22歳の誕生日の為に作った特注品である。




『そのサファイア付けてくれたんだね。今日の白いドレスに、とてもよく似合ってる』


とエドワードは、エリザベスの耳にキラキラと輝くサファイアのイアリングを見て嬉しそうにいった。


『旦那様の蒼い瞳と同じ色だから、とても気に入ってるの』


エリザベスは夫に褒められたのが嬉しいのか、頬を赤らめた。



『⋯⋯そ、そうか⋯⋯』


エドワードは少し顔が赤くなった。




──! 昨日からエリザベスが少し変だ。


何かあったんだろうか?



今まではエドワードがエリザベスにアクセサリー等の小物をプレゼントしても、そっけないほど儀礼的なお礼しかいわなかったのに──。




エドワードは、エリザベスが、自分の胸の中で泣いた事を思い出していた。



妻に何かあったのでは?と思案したが、まさか妻が見知らぬ男に接吻されたなんて、夢にも思わなかった。



エドワードも独身時代は、エリザベスの外見や飛交う社交界の噂などで、彼女は自由奔放にふるまう軽薄なタイプの令嬢だと誤解してた時期もあった。



だが、妻にしてみて全くのデマだとわかった。



──娘のリリアンヌの怪我さえなければ、今頃はエリザベスも領地で家族そろって幸福な一時(ひととき)を過ごしていたのかもしれない。


そう考えるエドワードの表情に暗い影を落とした。



そうこうしてる間に、馬車は王宮殿についた。


公爵夫妻は急いで、ライナス国王と拝謁する玉座の間に入る。



※ ※



王宮殿内は、壁と柱は大理石と黄金で造られてあり、至る所に神々や神獣の彫刻やレリーフが飾ってあった。


やはり宮殿に入ると、荘厳さと重厚感を感じて夫妻の身体も引き締まる。


高い天井の名画と廊下にズラリと飾られている大輪の花々の花瓶。


所狭しと祝いの花々で城中埋め尽くされていた。


床には長い王族模様の(わし)の刺繍のレッドカーペットが敷かれていて、既に大勢の貴族が参列していた。



夫妻はすました顔をしながらも、足早に自分たちの場所へ並ぶ。

どうやら儀式にはぎりぎり間に合ったようだ。



パンパカパーン、パカパパンパカパーン!



高らかなファンファーレが鳴り響き、夫婦同伴組、家族一同の組と一組ずつ、列にならって順番に拝謁していく。


ルービンシュタイン家は王族の後、公爵家の中でも真っ先に名を呼ばれた。



エリザベスとエドワードは腕を組んで玉座に向かって歩き、ライナス国王とメルフィーナ王妃の前で止まると一旦離れて、国王夫妻に丁寧に一礼して挨拶をした。



エドワードが『国王陛下並びに妃殿下、エドワード・ルービンシュタインと我が妻のエリザベスでございます。この度は国王陛下のお誕生日に、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じ奉ります』

と慎重に伏して挨拶をした。



『おお、エドワード公とエリザベス夫人じゃな、待っておったぞ、顔をあげなさい』


とライナス王はとてもにこやかだった。



エリザベスも顔を上げて、ライナス国王を拝した。


ライナス国王は王冠を被って、蒼い目と金髪に少々白髪まじりの恰幅のいい、まさにクリソプレーズの国王その人だった。


しかし、エリザベスの眼には、先日の仮面舞踏会の時の仮装した道化師と国王が被る。



──あ、不味いわ、王様見てると仮装のピエロと重なって吹き出しそうになる!


エリザベスには、これまで威厳たっぷりの王様のイメージが、あの仮面舞踏会以来変化してしまったのだ。


それも良い意味でなのだが──。



エリザベスの心理をよそに、王妃のメルフィーナがジロジロとエリザベスを凝視していた。


『エリザベス、とてもお元気そうですね。その耳と首の見事なサファイアはエドワードの贈り物かしら?』


メルフィーナ王妃はすかさずにエリザベスに聞いた。



『左様でございます、王妃様』


『とても素敵よ、何年たってもエドワードは奥方にぞっこんだわ、ねえエドワード?』


『は! 恐れ入ります、王妃様』

とエドワードが恐縮する。



エドワードにとって叔母であるメルフィーナ王妃は、幼い頃から母を亡くしたエドワードを気遣っていた。



『とはいえ男の子はまだなの? 確か娘だけだったわね』


『『はい、左様でございます──』』


公爵夫妻同時に答えた──。



『あらまあ、それはいけませんよ。若いから子供は何時でもできると思ってると、あっという間に産めなくなるわよ。エリザベス?』


『おい、メルフィーナ、よさんか、今日はわしの祝いなのだから小言はいうでない!』


王様が王妃を少し咎めた。



『ですが、殿下。エリザベスも()()()()()()もそろそろ跡継ぎを産んでくれないと心配ですわよ。そうだわエリザベス、あなたは王太子妃の姉だったわね。マーガレットに早く子をつくれと()()()をかけてちょうだいな!』



『は?⋯⋯はい王妃様⋯⋯』




──ええ! ()()()()をかけろって、わたくしがマリーに?


エリザベスは俯いたまま焦った。



『メルフィーナ止さんか! ほら次の公爵が待ってる、2人共もう下がってよいぞ!』


と王様が機転を利かせてくれた。



『『はい、それでは失礼いたします』』


ルービンシュタイン夫妻は、深々と国王夫妻にお辞儀をして玉座を後にした。




エリザベスたちと入れ替わりに、向こうからローズ公爵夫妻がやってきた。


グレースがエリザベスと目が合いウインクした。


グレースはすれ違いざまにも

『エリザベス、後でホールでね』と耳元に囁く。


『わかったわ!』

とエリザベスもウインクの合図を送った。



今日のグレースは、見事なシルクの美しいローズデコルテを着こなしていた。


エリザベスは普段のグレースの男装姿も見慣れているので、シックなドレスも着こなす彼女は大したものだなと感心した。



エリザベスは振り返って、ローズ夫妻の後ろ姿を見つめる。



──年の差あれど、ローズ夫妻はけっこうお似合いに見える。


ローズ公は確かにお年召してるけど、いつもダンディで、スっとしてるし男前だなとエリザベスは思った。




エドワードたちは、謁見が終わって大広間に出てホッとしたその時──。


エリザベスの前を黒い影が一瞬、サッと横切っていった。



『!?』



その影は、とても大柄な男性だった。



肩まである長い黒髪。

真っ黒の上下の騎士服には、目が覚めるような煌めく黄金色の懸章。


スラリと伸びた足は品よく佇んでいた。

色白だがきりっとした眉毛と、切れ長の美しい紫水晶の瞳、鼻筋がスッとして綺麗な薄い口元。


エリザベスの体が硬直した。




──あの()()()()()()()()がそこにいた!




『エリザベス──どうした?』


エドワードは手を組んでいたエリザベスの体が、突然止まったので彼女を見つめた。



その美しい妻の顔からは、血の気がどんどん引いていた。







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