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クリソプレーズの瞳 ~ルービンシュタイン公爵夫人は懺悔して夫と娘を愛したい!  作者: 星野 満


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67. 仮面舞踏会とロバート殿下

2025/5/7 修正済み

※ ※ ※ ※



国立オペラ座、通称パール宮殿の大舞踏会を訪れた人々が大天井を見上げると、天空の神々が今、まさに緑の女神の誕生を祝福する宗教絵画が、大胆に描かれていて、荘厳かつ美の極致の如く圧倒されてしまう。


その天井から吊り下げた銀と純金のクリスタル硝子の、豪華な何本もあるシャンデリアがそれぞれカットした硝子が交差しあい、天井から光線のように輝きを放つ。

まるで舞踏会場は、煌めく光の黄金色に包まれる。




国立オペラ座のオーケストラ楽団の、生演奏の軽やかなメロディに乗せて──。


ちょうど華麗なる3拍子の有名なワルツのメドレーで、鮮やかな仮面をつけた紳士淑女たちが、大広間の舞踏会場で軽やかに舞っていた。


仮面舞踏会もそろそろ一部のフィナーレを残して、終焉を迎えようとしている。

くるくると華やかにワルツを踊る、仮面をつけたカップルたち。


多くは貴公達は黒のタキシード、淑女は鮮やかな色の花びらのようなイブニングドレスを身に着けてる。


 仮装舞踏会も兼ねているので、貴族も仮装衣装はOKなのだが、意外にも仮装スタイルの者は少ないようだ。


ただ、その中には“海賊”とか“勇者”の凛々しい仮装をした貴公や、ロマンチック・チュチュの衣装を着けたバレリーナや、背中にふわふわとした羽根のアクセサリーを付けた妖精など、可愛い仮装を着けている淑女が何人かいる。


更に真ん中で陣を張っているカップルは、シンドバット姿のグレースと小柄のティンカーベル嬢がクルクルと回りながら、楽しく軽やかに何度も踊っていて、とても華やかなカップルで目立っていた。



※ ※


エリザベスはというと、先ほどからひっきりなしに紳士が我先きにと、ダンスの申し込みが殺到して、一人一回ずつと決めて順番に踊っていた。


今は、大柄で少し太めの、汗っかきのタキシード姿の男性と踊っている。




『レディ、あなたの瞳は緑の女神の様に濃いエメラルドの瞳なんですね、もしかしてあなたは、かの有名なルービンシュタイン公の……』


『あら、今日は偽名の舞踏会ですわよ、名を聞くのは()()ってものですわ』


紳士がいい終らない内に、ピシャリとエリザベスが問いかけた言葉を(さえぎ)る。


『ああ、失礼致しました』


太めの紳士は顔を真っ赤にして、失敗したという顔をした。



──それにしても既に何人と踊ったことか、次から次へと目まぐるしく踊ったから、さすがに疲れたわ。


エリザベスは大分、お疲れのようで額に汗がにじんでいた。


ようやく、ワルツのメドレーの曲が終了してお互い一礼をした。

カップルたちが中央からぞろぞろと、端にあるテーブル席へと散っていく。

どうやら、オーケストラも休息するらしく、つかの間の休憩タイムに入った。


太めの紳士はエリザベスをエスコートしながら


『緑の女神、何か飲み物をとってきましょうか?』


『そうね、では林檎酒(シードル)をお願いできるかしら?』


『はい、承知しました、ちょっと待っててね』


といって、紳士はエリザベスから頼まれたのがとても嬉しかったのか、いそいそと飲み物のカウンターの方へ行く。



──今の()()()は手がべとついてたわね。


汗っかきなら手袋すべきよね。マナーがなってないわ。


エリザベスは椅子に座って、嫌そうな顔をしてテーブルに設置されているナプキンで両手を拭いている。


『緑の女神!』


『緑の女神様』


『ああ、ティンカ譲とシンドバット様!』


エリザベスの元にグレースとティンカーベルの令嬢が、駆け寄ってきた。


『どう、楽しんでるかい!』


グレースは会場に入ってからも、人目も気にせず男言葉を使ってる。


よほど楽しいと見える。


『ええ、楽しいわよ。仮面を被ってるせいか相手に気を使わないのがいいわね』


『そうですわよね、女神様。』


と小柄のティンカ嬢は、エリザベスを讃嘆するように見ていた。


『ティンカ嬢は羽根の様に軽く踊るんだよ、凄くリードしやすいよ!』


とすかさずにグレースはハンカチで汗を拭きながらいった。


『まあ、それはシンドバット様のリードがお上手だからですわ』


と夢見る様にグレースを見上げるティンカ嬢。




──まあ、グレースたち、とても良い感じじゃない。


『それは素敵だこと、あなたたち先ほどから、ずっとパートナー変えないで踊りっぱなしよね。どうやらカップル成立かしら?』


『ふふ、今日は来て良かったよ。さっきティンカ嬢に私の店の名刺渡したんだ、これを機に遊びにおいでってね』


『まあ、それは良かったわね』


『シンドバット様が、かの有名な(小声で)Q()u()e()e()n()B()e()e()()のオーナーだったなんて、とってもラッキーでしたわ、私一度は、あのお店のドレスを着てみたかったんですの』


二人は、どうやらラブラブである。


こうしてみると、シンドバット姿のグレースは、()()()()()()()()()から不思議だ。


『おまたせした緑の姫、林檎酒(シードル)をもってきたよ』


先ほどの太めの紳士が、にこやかにエリザベスが注文した林檎酒をもってきた。


『どうもありがとう』


エリザベスが受け取って()()()と一気に飲む。


『あらま~、凄い勢いで飲むね!』

とびっくりするグレース。


『ふう、なんだか踊り過ぎて疲れちゃったのよ』


『え、緑の女神、それではもう踊りませんか?』


『そうね、少し休もうかしら──』


がっかりする太めの紳士。



『いやいやレディ、せっかく来たのに勿体ない。壁の花になることは許しませんよ』


とエリザベスに声をかける男性。


見ると、なんと()()()()()()()()()()()()()()()()殿()()ではないか!


『ロバート……(と言いかけたのを止めて)』



※ ※


『緑の女神のレディ、どうか次のワルツを私と踊ってくださいませんか』


商人男にしてはご丁寧な“ボウ・アンド・スクレープ”をした。


ロバート殿下とエリザベスの仮面の奥の蒼と、緑色の瞳がかち合った。



エリザベスは少しだけ眉にシワを寄せたが──。


『よろしくってよ、250番の商人さん』


『ええそんな〜緑の女神! 次は僕と続きを踊るん順番ですよ!』


傍にいた順を待っていた令息が、大きな声を張り上げる。


『ごめんなさいね。この商人さんは、ちょっとしたわたくしの知り合いなの』


令息に申し訳なさそうに詫びるエリザベス。



ロバート王太子は嬉しそうに、片目でウインクして彼女に合図を送った。



※ ※



最後のフィナーレのクリソプレーズの名曲、花のワルツのメロディが会場内に流れだした。


『リズ、あの変な商人と知り合いなの?』


グレースがエリザベスに小声で聞いた。


グレースは、商人がロバート王太子とは気が付いていない。


『まあね、因縁の相手よ、けりをつけてくるわ』

いって、エリザベスはロバート殿下に指し出された手を取って、中央へと歩いていく。



再び、舞踏会上の大ホールは、ワルツで踊るカップルで一杯となった。


ロバート殿下にリードされて、華麗にくるくると舞うエリザベス。


古代の商人と緑の女神が踊る姿は、フォーマルなカップルの中でとても異質で目立っていた。



『さすがに、緑の女神はエレガントに踊るじゃないか』


『まあ、初めて踊るみたいないい廻しですこと』


『初めてだろう、なかなか緑の女神様と商人はおいそれとは踊れんよ』


やり返すロバート。


『ねえ250番目の商人さん、一つ質問してもよろしくて?』


『ここでは、偽名があるからフレディと呼んでくれ』


『フレディ?』


エリザベスは目をパチクリとした!


『そうだ──』


少しだけ顔を赤らめたロバート。


思わず娼婦のエバと会っている偽名を、咄嗟に言ってしまった。


エリザベスはふっと微笑んで言った。


『ではフレディ様、なぜこれまで一度も自分からダンスを申し込まなかったのに、突然、わたくしと踊りたいと云ったのはなぜですの?』


『え、何だ、もう大分昔の話ではないか! 今さら聞いてどうする?──なんだ、もしかして根に持っていたのか?』


一瞬、ロバートはたじろいだ。


『ええ、とっても恨んでましたわ。貴方様は、わたくしの妹とは楽しく何度も踊ってましたからね、あの時の屈辱は言葉では言い表せませんでしたのよ』


エリザベスは、ずっと心に思ってたことをハッキリといった。


エリザベスは結婚後は、ほとんどロバート王太子とも王宮内での祭事や儀式などは、あいさつ程度で話しらしい話ができなかった。



『まあ、一言で言えば若気の至りだな。今思うと幼稚すぎて愚かで馬鹿なことをした。今さらで申し訳ないが、どうか許してくれ。悪かったよ』


踊りながら頭を下げたロバート。


『あら、まあフレディ様も随分としおらしくなったんですね』

と少し驚くエリザベス。


『ふふ、今は君とこうして手を取り合って踊れるのはとても楽しい』


珍しく仏頂面な顔が嬉しそうに(ほころ)んでいる。



──まあ、ロバート殿下が、わたくしに笑いかけるなんて!


『わたくしも、フレディ様がいつもこうして笑ってくれてたのなら、きっとあの頃はさぞや楽しかったのでしょうね──いいわ、もう済んだことは水に流します。それにしても今日の仮装はお洒落なフレディ様にしては、似つかわしくないお姿ですね』


『え、ああこのダサい古代商人なあ、これは父上から罰を与えられたんだ』


『え、王様から?』


『ああ、ちょっとその娼婦館通いがバレてしまってな』


言いづらそうにいうロバート。



『まあ、オホホ。さすがのフレディ様も道化師様にかかっては子供みたいに悪びれるのですね』


『あれ、父上の道化師姿よく知ってるな、あれなあ~はははッ、おかしいだろう?』


『本当、お父様って意外でしたわよ、あの恰好なぜですの?』


『はは、父上は平民たちと普通に話し合いたいんだと。道化師なら王と違って、皆がひれ伏さないだろうとな、本音を聞くのにもってこいだと』



『ああ、なるほど。流石は賢王と云われるだけありますね』


と2人は道化師の話でだいぶ盛り上がって、最後までずっとカップルで踊っていった。



※ ※



その時、テーブル席の方では、グレースとティンカ嬢が楽しくお菓子をつまみながらお茶を飲んでいた。


流石にずっと続けて踊っていたので、2人は疲れたようだ。


その時、後ろから男が声をかけてきた。


『レディ、お話し中失礼ですが少々宜しいですか?』




──ん? レディだと? 失礼な、今日の私はシンドバットだよ。


『はい、何でしょう?』と思いながらも仕事柄、営業スマイルをするグレース。


『!?』


グレースは一瞬言葉を失った。


男は背が高く、黒のつば広帽子に肩までたらした巻毛の黒髪。


黒マントを纏い紫のシャツと黒いスラックス。


鼻梁まで隠す黒仮面、黒い口髭をはやしている。

唇は赤く、薄く尖った顎。


仮面をつけてても美男子は隠せない、とてもいい男だった。



──コレは、凄いわ〜。グレースは男に見惚れた。


だが、本物の怪盗かと見間違えたくらい、ミステリアスな雰囲気ある男だった。


『あそこで踊っている女性は、あなたの連れのようですが、どこのご令嬢でしょうか?』



『あ、ここで本名は明かせないの知ってるよね。緑の女神とだけいっておこうかな』 



『ああ、ご無礼を言いました。あの緑の女神殿は、仮面をつけてても、とても魅力的なレディだったもので』


『まあね。私もいい方悪かったな、不躾で許してくれ。もしかして君は仮面舞踏会は初めてなのかい?』



『ええ、この国では……』



『あ、外国の方なんだね、珍しい。この舞踏会はほとんど国内の人が参加してるはずだと聞いたけど──もしかして来賓の人?』


『お察しの通りです。なにせ一昨日、この国にきたばかりなので……』



『ああそうなんだ、失礼だけどどこの国の方?』



『はは、素性を明かさないのが、仮面舞踏会の趣旨なのでは?』


と仮面の奥から紫水晶のような瞳が、怪しげに煌めいた。


『あ、お返しされたね。悪いけど彼女はどうやら次のワルツもあの商人と踊るみたいよ』


エリザベスたちが、次のダンスも踊り始めた。



『そのようですね、それでは残念ですが、退散いたしましょう。レディ、最後に私の国で行う挨拶を受け取ってくださいますか』


グレースが頷くと──

黒装束の男は、グレースの()()()()()をした。



──へえ、手首にキスの挨拶とは珍しい。


この国では手の甲にキスだから。



ああ、分かった。このやり方はあの国の人ね、とグレースは気が付いた。



『それではごきげんよう』と男はマントをはらって、影の如く静かに広間を後にした。


へぇ、去る時もカッコいいな。同性ながら惚れ惚れするなぁ。男装の時の所作は私もみならわんと。


『シンドバット様、どうされました?』


隣の席でケーキを美味しそうに食べている、ティンカ嬢が不思議そうに尋ねた。



『え、今、黒装束の怪盗に扮した男がいたでしょう?』


『え、どこに?私は気が付かなかったけど……』


『ええ、たった今、いたのよ。私にキスして……』


『まあそれは私、ちょっとやきもち焼いちゃいますわ~』


拗ねた顔をしてから、ケーキをモグモグするティンカ嬢。


え、ちょっと待ってよ!


すぐさま舞踏会場の扉の出入り口を見るグレース。


先ほどの黒装束の男はどこにも見当たらなかった。




──何、何なの今の男は……夢か幻か?


何やら不思議な煙に巻かれた気分のグレースであった。



※ ちょっと今回の話は長すぎました。最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。<(_ _)>

ワルツは名曲だらけでBGMに最適ですね♪

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