46. エリザベスの執念
※ 2025/5/2 修正済
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4月に入り、丘陵地帯の日照時間もだいぶ長くなり、雪解け間近となってきた。
新年からのエリザベスのダイエットは続いている。
とにかくエリザベスのダイエット執念は、傍から見ても凄まじいものがあった。
お陰でダイエットを開始してから3カ月以上、エリザベスは、だいぶスマートな体型になってきた。だが本人は納得せずに、以前の体型にとことんこだわっていた。
何よりも衣裳部屋の独身時代に、購入したお気に入りの燦然と煌めくドレスが、全く着れなくなったことに癇癪を立てたのは他ならぬエリザベス本人であった。
今日も、かれこれ60分ほど必死に、駆動式自転車のベダルを漕いでいた。
エリザベスの体は汗だくだ。
トップに纏めた銀髪を振り乱し、白いブラウスと紺のキュロットスカートと軽装だが、すでにブラウスは汗にまみれて身体にべっとり張り付いていた。
『奥様、そろそろお止めになられた方が良いかと。このおかしな器具のせいで、昨日もやりすぎて、泡を吹いてお倒れになりましたでしょう……』
サマンサは気が気でない。
『はぁ、はぁ、サマンサ、今日は大丈夫。あと少しだけさせて頂戴。このお母様の痩身用駆動式自転車とても効くのよ、マラソンよりずっといいわ。元のサイズのコルセットを付けられるまでの辛抱よ!』
『奥様………わかりました。あと少しですよ』
サマンサは根負けした。
ちなみに痩身用駆動式自転車は当時王都の貴婦人たちの間で、一時大流行した時期があり、母親のセーラも中年太りを気にして購入した。
しかしセーラには、『こんなものとても無理よ!』
と運動が辛すぎたのか3日坊主で止めてしまった。
そのままバレンホイム家の、倉庫の埃まみれになっていたものだ。
エリザベスは痩身器具があったのを思い出して、母親のセーラ宛に手紙を書き、わざわざ本邸まで荷馬車で送ってもらった。
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エリザベスは運動で身体を酷使しながらも、同時にダイエットの基本である食事も、徹底的にカロリー管理もした。
大好物のチョコチップクッキーや、ケーキの間食も一切とらなかった。
ティータイムはお茶だけ、たまにデザートの果物を一切れか二切れくらい。
朝晩の食事も料理長に頼んで、自分だけ別メニューにしてもらった。
ディナーのメインの肉料理は牛や豚よりも鶏肉。
肉よりも魚料理に変えたりと、魚も脂身が少ないタラやカレイと徹底した。
時折り、自分が魚料理を食べてる時に、エドワードが肉料理、特にエリザベスの大好物のほろほろ鳥のステーキを食してると、肉の甘いソースの匂いが漂ってきて涎がでそうになる。
そこをぐっと我慢をしているエリザベスは、物欲しそうにエドワードをじっと見つめる。
エドワードはなんだか妻に申し訳なく、鶏肉のステーキを食べても味が良く分からなくなるほどだった。
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涙ぐましい努力のかいあってか、エリザベスは4月の中ごろには、以前のすっきりとした体型になりつつあり、二重顎も消えて若々しくなりとても細くなった。
しかしエリザベスは、まだまだ満足はしていなかった。
ある日、エリザベスは部屋の天蓋ベッドの太い柱に捕まり、サマンサにコルセットの紐を、きつく結んでもらうよう指示した。
『ひぃいいーー!!』
エリザベスは痛さのあまり絶叫した!
このコルセット縛り時の苦しさったらない!
『サマンサ、もっときつく締めてちょうだい!』
苦しくても、エリザベスは容赦なく自分のウエストを締め付けようとする。
『奥様、これ以上はさすがに無理でございます!』
『ハァ…ハァ……そんなことないわ。あと2センチきつくできるわ』
息が荒く苦しそうなエリザベス。
『奥様は一度赤ちゃんを産みなさったのだから、仕方がないですよ……』
『うう……赤ちゃんなんて、産まなければよかったわ!ウエストは淑女の命よ──!』
この2人の会話を、もしもエドワードが聞いてたらと思うとゾッとしただろう。
しかし、美を追求するエリザベスにとっては海馬の体型は、食欲に溺れ自分でも酷く惨めで“あんな思いをするのは二度とごめんだ”と、心に言い聞かせていた。
サマンサが心配だったのは、エリザベスがこのところダイエットに夢中になりすぎて、リリアンヌを乳母のミナにまかせきりになっていたことだ。
最近は赤子を抱くことすらしない、エリザベスは母親らしいことは何一つしていなかった。
──確かにリリーは可愛い、あの天使の笑顔をみてると心は癒される。
エリザベスは思った。
それでも男の子なら良かったのにと。
だって出産が一度切りで済ませられたんだもの。
それに旦那様は相変わらず私よりも娘にべったりだし。なんだか旦那様を取られたみたいで、悔しくてたまらないわ!
でもエリザベス、もう少しの辛抱よ。
あと3キロ痩せたらまた旦那様と……うふふ。
エリザベスは意味深な不敵な笑いをする。
『サマンサ、お願い、もう一回きつく締めてちょうだい!』
エリザベスは再度、コルセットの紐をきつく結ぶようサマンサに依頼した。
※今日はサイトのリニューアルでストックした文章がなかなか修正できず大変でした。(ToT)/~~~




