36. 不安な気持ちと優しいエドワード
※ 2025/10/8 追加修正済
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『エリザベス、エリザベス、どうした、大丈夫かい?』
エドワードは大きな声でエリザベスを揺り起こした。
『あ、旦那様……ここは?』
エリザベスが目を覚ますと、エドワードの心配そうな顔が真上にあった。
『君の部屋だよ、随分と魘されてたよ……何か怖い夢でも見たのか?』
『…夢、ああ……とてもこわかっ………』
といいかけたエリザベスの手は、まだぶるぶると震えていた。
『エリザベス、大丈夫かい?』
エドワードは、すぐにエリザベスの震える手を取った。
夫の握ってくれる手のぬくもりにエリザベスは安堵して──。
『ああ旦那様……夢で良かった……』
エリザベスはエドワードの首に両腕を回して飛びついた。
──良かった、夢、夢だったのね。
本当に良かった、わたくしのイルフォン様……いえ、旦那様はこうして無事でいてくれた!
『エリザベス……』
エドワードは戸惑いながらも、エリザベスの頬に優しくキスをした。
『どうしたんだい? 廊下を歩いてたら君の悲鳴が聞こえたから、びっくりして走ってきたよ!』
『そうなのです……わたくしとっても怖い夢をみたのです!』
『? 一体、どんな夢を見たんだい?』
『あ……いいえ、とっても怖くていえないわ。もしも話したら正夢になりそうで怖い……』
エリザベスはふりふりと首を振った。
『エリザベス……?』
エドワードは怪訝な顔をする──。
妻の顔を見ると、顔面蒼白でブルブルと何かに怯えてるようだ、とエドワードは感じた。
エドワードは子供をあやすように、彼女の背中まで流れる銀髪を優しく擦っていく。
『大丈夫だよ、たかが夢さ。それに私が夢の中であろうと、君をいつだって守ってあげる!』
といってエリザベスをぎゅっと抱きしめた。
『………旦那様』
二人はそのまま熱い口づけを交わす。
目を閉じてエドワードの口づけに応えたエリザベスは、ふと瞼を開いた時に天井を見た。
──あら? なんだか部屋がとても暗いわ。
エリザベスはエドワードから顔を離して問うた。
『旦那様、今は夜ですの……?』
『いや、まだ昼すぎだよ、君は昨日からずっと眠っていて、私が起こしにきたのだが……』
エドワードは優しく答えた。
『さっき突然、雷が落ちてきたんだよ。そうしたら叩きつけるような雨がザーッと降ってきたんだ、あ、まだ酷く降っているね。おかげで午後から街への視察が中止になった、夏の嵐かな……』
エリザベスはベランダの閉じた窓外の景色を見た。
ザーザーと強い雨音が聞こえてくる。
硝子窓に叩きつける雨雫の流れと、空は黒い雲が覆っており灰色の雲間から、時折、閃光がピカッっと白く光っていた。
彼方でゴロゴロと雷鳴もかすかに聞こえてくる。
突然の雨で窓を閉めたのか、クロームグリーン色のカーテンが雨でびしょりと濡れていた。ベッドの脇のサイドテーブルには、エドワードの濡れたジャケットが脱ぎ捨ててあった。
──あ、旦那様が突然の雨に気付いて、窓を閉めてくれたのかしら。
ようやくエリザベスは現在の状況が理解できた。
──そうか、雷鳴だったから、わたくしはあんな怖い夢を見たのね。
エリザベスは納得した。
『旦那様、サマンサは?』
『ああ、今リリーを連れて別室に助産婦さんといるよ』
『え、赤ちゃんがどうかしたの?』
『大したことじゃない、沐浴と、へその緒の消毒をするといっていた』
『そう…良かった…』
エリザベスは不吉な夢を見たので、リリーが少し不安になった。
エドワードはエリザベスの額に手を当てた。
『あ、少し微熱があるようだ。主治医を読んでこよう、へ、へ⋯⋯へクッション!!』
エドワードは白いシャツの薄着で少々寒いのか、くしゃみをした。
夏だというのに突然大雨が降ってきたせいで、部屋の温度がだいぶ低下していた。
『旦那様、ちょっと待って!』
エリザベスは傍から離れようとする、エドワードの手をつかんだ。
『ん、どうした……?』
『あ……お願い、もう少しだけここにいて下さらない!』
『エリザベス……』
『その……できればベッドに入ってわたくしを抱きしめて欲しいの』
『え?』
エドワードは少し赤くなって困惑した表情になった。
だがすぐに悪戯っぽい笑顔になって、エリザベスのベッドにもぞもぞと潜り込んだ。
『いいよ!』
すぽっとエドワードは毛布から顔をだして、少年みたいに白い歯をむき出して笑った。
『君が眠るまでの間ね。君はリリーを産んだばかりで身体が辛いだろうし』
『我がままいってごめんなさい、恐い夢をみたせいか、ただ旦那様に側にいて欲しかったの』
『……わかったよ。甘える声でいうからドキッとしたよ』
『え、何です?』
『あ、いや⋯⋯何でもない。ああベッドの中はエリザベスの体温でぬくぬくするなぁ⋯⋯』
と、おどけた顔をするエドワード。
ほっこりした笑顔でエリザベスのおでこにキスをした。
『うふふ、わたくしが旦那様を温めてあげますわ』
エリザベスはニコッと笑って、ぎゅうっとエドワードの胸に顔を埋めた。
『ああ、誰よりも愛しているよ、エリザベス』
エドワードは優しくエリザベスの身体を抱きしめかえす。
『…………』
エ
エリザベスは返事をしなかった。(この文の上にカタカナの「エ」だけ飛んでいましたので、同時に修正されると良いかもです)
ただエドワードの力強い胸の中で抱きしめられていると、体がぽかぽかと温かくなって再び眠気が襲ってきた。
まどろみの中で、エリザベスはさっき見た悪夢を思い返していた。
──怖かった。本当に夢で良かった。
だけど、あの世界はなんだったのかしら、それにあの猿の赤ちゃんは?
エリザベスは猿の赤子の不気味な笑顔を思い出して身震いした。
おお、嫌だ、思い出すのも怖い!
そういえば、あの声は誰だったのか?
『レディ、とうとうあなたを見つけましたよ──』
ぞっとするような悪魔の囁きのような特長のある男の声だった──。
エリザベスは一度も聞いたことがない声だとも思った。
それにしても私が“緑の女神”なんてご都合良すぎた夢だったわ。
エリザベスは少しだけ緑の女神が自分と瓜二つだったのを思い出して、くすっと笑った。
──旦那様のイルフォン勇者様はとても凛々しかった。
エリザベスはエドワードに抱きしめられて安心したのか、そのまま深い眠りへと落ちていった──。
※ 突然の雷の音はとても恐ろしいです。(~_~;))




