35.不思議な怖い夢
※ 2025/10/6 修正済
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リリアンヌを無事に出産した後、エリザベスは不思議な夢を見た。
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そこは乳白色の靄がかかった、摩訶不思議な異空間の世界。
白く光るように見えてきたのは、欝蒼と繁る森林にそびえ立つクリソプレーズ王宮神殿。
神殿の大広間の中には兄弟神の1人、兄のエルフォン王が黄金の縁取りと赤ビロードが見事な玉座に座していた。
その周りに神官や司祭たち一同が列をなしている。
神官たちは左右両脇に並列しており、厳粛なる雰囲気の中で奥にある祭壇を凝視している。
神官等が見つめるその先には、まさに今、弟の勇者イルフォン王子が緑の女神から、邪悪な魔王を倒した勲章を受けている儀式の最中であった。
エリザベスは睫毛をパチパチして凝視した。
──もしかして、イルフォン勇者様の授賞式なのかしら?
とするとここはクリソプレーズ神話の世界。
エリザベスは気付いた。
良く見ると緑の女神らしき人物が佇んでいた。
女神は長い豊かなウェーブの銀髪を腰まで垂らして、エメラルドの宝石の黄金の冠を被り、宝石と同系色のコタルディドレスを身に纏っていた。
緑の女神の横顔は、エリザベスによく似ていた。
──あら嫌だ、緑の女神様ってわたくしと瓜二つ、そっくりだわ!
いいえ、もしかしてわたくし?
エリザベスは戸惑った。
そしてもう1人側にいる男性。
勇者の証ともいえる真紅のマントを纏った弟のイルフォン王子だ。
濃い金髪で碧眼、そう、夫、エドワードその人であった。
ちなみに兄のエルフォン王も、金髪碧眼で一文字の口元、その仏頂面はロバート王子そのものだった。
今、勇者イルフォンが緑の女神に跪き、女神が差し出した右手の甲にキスをしていた。
イルフォンは顔をあげて緑の女神を見据える。
──まあ、なんてお似合いの2人なんでしょう。
とっても素敵ねえ⋯⋯。
エリザベスが無意識に自画自賛したその時だった──。
“ピカッ!”と切り裂いたような閃光が走る!
同時に凄まじい落雷が、突然どこからともなく地響きのように聞こえた!
『ガラガラガシャー─ン!!』
『ズドーン、ガラガラガラガラガラ!』
ビカッっと落雷が閃光する度に、世にも恐ろしげな爆発音轟き渡った!
まるで火雷大神の怒りが、触れたような轟音であった。
『おおお、突然の稲妻だ!』
『なんと黒い雲が一気に覆われている!』
稲妻と暗雲に恐れおののく神殿の人々──。
エリザベスも空を見上げると上空からたくさんの稲妻が、矢の如く神殿に向かって流れ星のように落ちてきた。稲妻の矢が放った先からは、みるみる内に真っ暗な闇に覆われていく。
『ドッカァ─ン! ガラガラガラガラ!!』
『バリバリバリッツ!ガッシャーーン!!』
暗闇の中で眩しく光る稲妻たちが、神殿にぶつかって爆発する!
神殿は次々と光る稲妻に攻撃されていく。
大理石の柱も大きな美しい塔も悉く無惨に破壊されていった。
『わぁ──!』
『キャーッ! 誰か──!』
『助けてくれ──!!』
『おお神よ!』
悲鳴と恐怖が神殿を覆う。人々はなんとか逃げようと、必死に恐れおののくが次々と闇の底に墜ちていく。
緑の女神も爆発音に耐え切れずに、両手で耳をふさいだ。
地響きと共に崩れ落ちる床に、緑の女神は体制を崩して転倒してしまう。
『姫!』
『イルフォン様!』
慌てて勇者イルフォンが、緑の女神に近づこうとするが、大広間の床に大きなヒビが入り、真っ二つに切り裂かれた。
『わああああっ!』
『イルフォン様!!』
緑の女神の目前で、勇者イルフォンも国王も、他の者たちも全員が奈落の底に落ちていく。
いつしか、クリソプレーズ神殿はみるも無残に崩壊し暗闇の底に沈んでいった。
※ ※
ふと気が付くと、1人だけ暗闇の中に残された緑の女神。
眼を開けても視界は何も見えない──。
それでも緑の女神は立ち上がる。
『イルフォン様……何処にいますの? イルフォン様~!』
いくら彼女が叫んでもゴオオオオッ──と、強風の恐ろしい鳴き声で、己の声は掻き消されてしまう。
緑の女神は心細くて泣きそうになった。
その時──。
突然、白く光る物体が真っ暗な上空からドサッと落ちてきた。
『!!』
驚く緑の女神。
『オギャ……オギャア…………』
その白く光る物から赤子の小さな泣き声が聞こえてくるではないか!
おそるおそる緑の女神は泣き声の聞こえる物体に近づいていく……。
側によってみると、白く光る物体は赤子だった。
赤子は紫がかった白色のおくるみに包まれて、真っ赤な顔をして泣いていた。
緑の女神は赤ん坊を抱いてみた。
女神に抱かれた赤子はピタリと泣きやむ。
「ひっ!」
エリザベスは思わず悲鳴をあげた。
その赤子の顔は醜い猿の顔だったからだ!
猿の赤子はギョロっとした大きな眼で、エリザベスをじっと見つめたまま、切り裂かれた大きな口で、悪魔のようにニヤリと笑って喋った!
『レディ、僕はやっと貴方をみつけましたよ!』
それは赤子の声ではなく、大人の男の声だった。
『ギャ───ッ!』
エリザベスは余りの気味悪さに、抱いていた猿の赤子を落として悲鳴を上げた。
※ とても怖い夢をエリザベスは見ました。新婚生活もひたひたと暗雲がたちこめていく気配です。




