29. 2人の幸福な時間
2025/5/1 修正済
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その夜、エドワードが帰宅して子供ができたことを告げると、大喜びしたのはいうまでもない。
『エリザベス、君は一体、何度わたしを歓喜させるんだい!』
エドワードは寝室に走り込むようにやってきて、エリザベスにキスした後、寝間着姿のエリザベスを思いっきり抱きしめた。
そのまま抱き上げて、お姫様だっこをしてぐるぐるとエリザベスを振り回す。
『きゃ…、旦那様!よして眼が回りますわ……』
エドワードは止まっても興奮は収まらないのか
『ああ~なんて最高なんだ、生まれてくる子は男の子?女の子かな?』
顔中満面笑顔のエドワードである。
よく見ると瞳が潤んでいる!
──あらまぁ、旦那様がこうまで喜ぶとは!
まあそうね、旦那様の跡取りができるんですもの。
確かにとっても嬉しいわよね。
『そうですわね、まずは公爵家の跡取りなら男子が生まれるのがよろしいかと』
『いや……君はまだ若いし、最初は女の子がいいな』
『は、そんなものですか?』
『ああ、女の子なら君に似て、とびきり美しい子が生まれるに違いない!』
──へぇ〜、旦那さまは赤ちゃんができたことが嬉しいのね。
『うん、どうした?』
『あ、いえ……でも旦那様に似て眉目秀麗な男の子が生まれるかもしれませんことよ!』
『お、嬉しいことをいうじゃないか。サマンサ、生まれる予定はいつなんだい?』
エドワードは隣にいるサマンサに尋ねる。
『はい、旦那様。お医者様のお話では、来年の7月中旬頃とのことでございます』
『ふーむ、夏か。暑い時期の出産は大変だろう。来年、春になったらエリザベスも一緒にセルリアンにいって、子供を産む準備をしよう。私もそろそろ領地の職務を本腰せねばならない時期だしな』
エドワードは結婚後、増々当主の自覚が出てきた。
セルリアン領地に関しても、様々な想いを巡らしていた。
これまでは公爵家を継承したのはいいが、現地で管理する家令や代官に任せて、彼等からの報告を受け承認するくらいだった。
『旦那様いつまでわたくしを抱いてらっしいますの、重いでしょうから降ろしてくださいな』
『ふふ、君はこんなにも軽いのに、お腹に子供がいるなんてねえ!』
エドワードはニヤニヤして、エリザベスの頬にチュッとキスした後、抱きながらソファーまで大切に運んだ。
エドワードは終始にやけ顔でまるでしまりがない、普段の精悍な顔立ちが台無しである。
『そうだ、エリザベス。もう寒いからお腹を冷やしては駄目だ。コルセットも辛いなら緩めるか外しなさい。見栄えなど気にしなくていい。それから当分、夜会やお酒はひかえよう』
突然、怖いくらいの真顔になるエドワード。
『ええ──夜会もカクテルもダメですの? 少しくらいならいいのでは……?』
『ダメだ、赤ちゃんに良くない。君は意外と飲み過ぎるからな。なあ~ベイビィーちゃん!私がオトウチャマデチュヨ~!』
エドワードは座っているエリザベスのお腹を撫でて、瞼をパチパチと瞬かせて赤ちゃん言葉を発した。
『ぷっ、ほほほほ! やあね~旦那様ったらおかしな方!』
エリザベスは思わず、おどけた顔のエドワードを見て吹きだしてしまった。
先程からエドワードの顔が怒ったり、ニヤけたりと落差がありすぎて酷く可笑しい。
サマンサも側にいた他の侍従たちも、とても微笑んでいた。
窓の外は木枯らしがピューピュー吹いて、寒い晩ではあったが、ルービンシュタイン公爵家は温かく暖炉の火がパチパチと音をたてて赤々と燃えていた。
公爵別邸の住人一同が、新しい家族ができる知らせを聞き歓喜した夜だった。
※公爵夫妻にも新婚時代は束の間ですが、幸福な時もありました。




