19. マーガレットのお披露目
※ 妹のマーガレットが社交界デビューします。
※ 2025/4/26 修正済
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エリザベスの華麗なるデビュタントから約1年余り。
妹のマーガレットも晴れて16歳となりデビュタントのお披露目となった。
姉と同じように、バレンホイム侯爵家で盛大に開催されて、今回も王子とエドワードはマクミラン侯爵から招待された。
マーガレット嬢は幼少時は病弱でバレンホイム侯爵家からはほぼ外出しなかった。
招待された貴族の子息令嬢たちは、一体どんな令嬢だろうかと密かに期待した。
その中で登場したマーガレット。
「「「おお……」」」
大勢の人々は、初めて見たマーガレットの姿に内心驚きを隠せずにいた。
その理由は、妹のマーガレット嬢があまりにも姉のエリザベスと似ていなかったからだ。
何よりも違うのは髪と目の色だった──。
マーガレットの髪はダークブラウンで瞳も同じ色であった。
榛色やブラウンは色の濃淡はあるものの、クリソプレーズ王国の人間には、比較的平凡な色である。
マーガレットは髪と眼は父親譲りであり、エリザベスの銀髪は母親譲りだが、こと瞳に至っては母のセーラは青である。
エリザベスの珍しい緑色の瞳はバレンホイム家に降下した王族、祖母の覚醒遺伝であった。
クリソプレーズ王国民は、金髪銀髪や青や緑色の瞳の持ち主は、高位貴族にもそうはいない。
所謂王室の姻戚だけである。
金銀の髪や青緑の瞳は特権階級だけが持っている特別な色だった。
なので、エリザベスは容姿の点だけいえば、王太子妃候補の筆頭といえる。
マーガレットは可憐といえば聞こえはいいが、病弱な体質のせいで少々痩せすぎていた。
それを隠すかのようにバフスリープの袖と、ふんわりと大きく広がったベビーピンク色のシルクドレス。
平らな胸も生地で隠されている為、エリザベスとは対照的に16歳の年齢よりは幼さを感じた。
髪も少女らしく、両サイドの縦ロールは肩ほどまで垂らして、後頭部にはドレスの色と同じピンクの大きなリボンをつけている。
マーガレットはゴージャスなエリザベスとは違い、シンプルな装いではあるものの胸元のペンダントや耳元を飾るイアリングは、大きな紫真珠と虹色に輝くダイヤモンドのコントラストはとても見事で、さすが名家バレンホイム侯爵令嬢らしさは感じられた。
だがマーガレットの挨拶した声は可愛いが、小さすぎて聞き取れない。
容姿も愛らしいが、どちらかというと華やかな令嬢が多い社交界では、地味で目立たない存在だ。
とても対照的な姉妹である。
花に譬えると、エリザベスが大輪の真っ赤な薔薇ならば、マーガレットは野に咲く白い霞草のような可憐さといえよう。
だが、驚いたことにマーガレットが王子たちに挨拶しに行くと、ロバート王子が率先してマーガレットと楽しく会話を始めた。
それを見た一同、驚愕した──。
更にマーガレットはそのまま王子に誘われて、ダンスを2回、いや3回目も続けて踊ったのだ。
エリザベスのデビュタントでは挨拶もそこそこで去った王子だったのに。
『お~や珍しい、ロバート殿下が一人のご令嬢と3回も続けてダンスをされるとは!』
『あんなに笑っているお姿は見たことないわ、どうやら殿下は妹君がお気に召されたようね』
『エリザベス嬢の顔見てみろよ、あは、苦虫つぶしちゃってるぜ!』
『おいよせよ、本人に聞こえるぞ!』
『聞こえるようにいってるんだよ!』
早速、日頃からエリザベスを敵対している令嬢や、彼女にこっぴどく振られた子息たちはコソコソと噂し始めた。
エリザベスにいたってはとんと面白くはない。
ダンスを終えて楽しく談笑している2人の間に、わざわざ割って入って王子を独占しようとした。
これにはロバートも声を荒げた。
『エリザベス嬢、今は妹君と話をしているんだ、邪魔はしないでほしい』
エリザベスの顔色がサッっと青ざめた。
ロバート王子は続けて言った。
『おおそうだ、エドワード、君がエリザベス嬢と踊ってきたまえ!』
『は?』
『殿下……(何故──?)』
エリザベスの顔はみるみる強張った。
それに気づいたエドワードが、慌ててエリザベスの前へ来てお辞儀をする。
『エリザベス嬢、どうか私と踊っていただけませんか』
『え、あ……よろしくてよ!』
フロア内は憤然たる微妙な空気ではあったものの、エドワードの手を取ったエリザベス。
エドワードはエリザベスに恥を欠かせないために必死だった。
傍から見るとエリザベスとエドワードは、美男美女のオーラを放ってとてもお似合いである。
エドワードは優しくエリザベスを、中央のフロアに向かってエスコートをする。
3/4拍子のワルツの音楽がかかり、クルクルと軽快なダンスを披露するエドワードとエリザベス。
見ている観客たちがうっとりと見つめてしまうほど、2人は息もピッタリと合っていた。
カップルの踊るフロアを流れるように次々と横切っていく。
『エリザベス嬢、とてもお上手ですね……』
『ありがとう……エドワード様のエスコートもね、とても軽くって背中に羽根が映えてるみたいだわ……』
言葉とは裏腹に、エリザベスは談笑しているマーガレットと王子に視線を向けた。
2人が気になって仕方がないのだ。
『……ロバート殿下が気になりますか?』
『え…?』
『あ、いや今日はマーガレット嬢の社交界デビューですし、ロバート殿下も本日の主役としてお気遣いしてるだけかと思いますよ』
エリザベスの顔がパァっと輝く。
『ああ、そうね、そうだわね。ロバート殿下はマーガレットに気遣ってるのね。なんてお優しいんでしょう……おほほほ、エドワード様、ごめんあそばせ。妹は病弱で愚図だから姉として心配してしまいますの』
『ええ、そうでしょうとも……』
エドワードは哀愁を帯びた瞳で、エリザベスを見つめる。
エリザベスとエドワードは1曲だけでダンスを終えたのであった。




