15. エドワードの失恋と椿姫
※ 2025/4/26 13エピソードより前に挿入されていました。
深く反省。エピソード挿入&加筆修正済み。
今頃気が付くとは! 大変失礼致しました。
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エドワードは切ないくらい、エリザベスに惚れてはいたが告白はしなかった。
なぜなら彼女が自分ではなく、ロバート王子に夢中だとすぐに気付いたからだ。
いや、エリザベスはロバート個人が好きというより、未来の王になるロバートの妻の座が欲しい。
つまり“王妃”の座につきたいと、エドワードも彼女と結婚後なら理解したであろう。
だが当時はロバート本人が好きなのだと思い込んでいた。
『エドワード様、ロバート殿下はお食事は何がお好みですの?』
『ロバート殿下のご趣味はなんですの?』
『ロバート殿下はどんなスポーツがお好きかしら?』
『なぜロバート殿下はあのようにわたくしに対して無口なのでしょう?』
エリザベスは王子の不在時や、席を外している時などはすかさずエドワードに話しかけた。
それは鬱陶しいくらいエドワードを質問攻めにした。
普通の令嬢ならばいくら相手が王子とはいえ、貴族の子息に他の殿方をあけすけに尋ねるのは、淑女として下賎である。
本来ならエドワードはエリザベスに憤慨してもいいはずだが、彼は嫌な顔一つせずに、自分が応じられる範囲内で質問に応えてあげた。
エドワード自身、王子の側近だから体よくエリザベスに利用されていると知っていても、彼女と会話ができる。
それだけでエドワードは天にも昇るくらい喜んだ。
──ああ、間近で見るリズの笑顔はなんて美しいんだろう、まるで聖女様のようではないか。
エリザベスを見つめるエドワードのふにゃけ顔は、傍から見てると呆れるくらい気の毒であった。
だが、いつも質問は全てロバート王子のことばかり。
さすがのエドワードも時には自分はなんて愚かな男だろうと、哀しい気持ちにもなった。
『私も他の令嬢にはけっこうモテるんだけどな………』
無意識にぼそっと呟くエドワード。
『え、何かおっしゃって?』
『あ…あ、いやいや……なんでもないです──』
えへへと笑って頭を掻くエドワード。
『あら、ロバート殿下が戻られたわ!──殿下~お待ちしてましたのよ!』
ロバート王子に向かって扇子を煽ぎながら喜ぶエリザベス。
ふぁっとその煽いだ風から、エリザベスの香水の残り香がエドワードに降り注ぐ。
ロバート王子の好みの金木犀の香りだった。
エドワードが『王子が好きな香りですよ』と教えた香水だ。
──リズ、実は私も金木犀の香りは大好きなのですよ。
もしも貴方が私の為にその香りをつけてくれたらどんなに嬉しいことか──。
心の中で呟くエドワード──。
彼は心の中ではいつもエリザベスを“リズ”と呼んでいた。
※
対してロバート王子は、エリザベスが自分に猛烈なアタックをし始めると嫌気が差したのか、露骨に彼女を拒否をするようになっていった。
エリザベスが王子に近づくと『またこいつか!』といわんばかりに、あからさまに不機嫌な顔をする。
それでもエリザベスは王子の無愛想な態度を気にもせずに笑顔で話しかけていく。
その愛しい人の横顔は常にロバート王子だけを見つめていた。
──可哀想なリズ。
ロバート王子、お前は大馬鹿野郎だ! 殿下はエリザベスの何処が不満だっていうんだ!
もし私が王子ならあんな邪険な態度は決して取りはしない!
エドワードは臣下に有るまじき言葉を心の中で吐き捨てた。
※ ※
ある日のこと、エドワードは王宮の廊下を急ぎの用事で歩いていると、向こうからエリザベスと取り巻き令嬢たちが楽しく談笑しながら歩いてきた。
『ごきげんようエドワード様』
『ごきげんよう』
『ごきげんよう』
『ごきげんよう、レディたち』
軽く会釈をするエドワードと令嬢たち。
エドワードは何かしらエリザベスに声をかけようと思ったが、時間もないし、取り巻き令嬢もいたので挨拶のみでそのまま去ろうとした。
その時──エリザベスの髪から花が一輪こぼれた。
床にポトリと落ちたが、令嬢たちは気づかずにそのまま遠のいていく。
エドワードは落ちた花を拾って手に取った。
それは赤い椿の花であった──。
エリザベスのカチューシャに付いていた花なのか?
彼女の銀の髪によく似合う色だ。
エドワードは振り返り令嬢たちと談笑するエリザベスの横顔を見つめた。
その夜、エドワードは椿の花びらを押し花にして栞にした。
日記帳には『椿姫と偶然に出会えた日』とタイトルを記して栞を頁に挟んだ




