14. エリザベスの大胆な行動
※ 令嬢同士の戦いが始まります。
※ 2025/4/26 修正済
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王室主催の夜会パーティーもそろそろお開きの時間が近づいてきたが、ロバート王子とエドワードの取り巻き令嬢たちとの歓談は続いていた。
時間が経過するとエドワードの令嬢たちの輪より、ロバート王子の令嬢の輪が少なくなってきた。
良く良く見ると、エドワードは令嬢たちが気軽に声を掛けやすいのか会話が楽しく弾んでいた。
それもそのはず、エドワードは彼女たちの質問に即答したり、相槌を打ったりとそつのない対応をしているからだ。
時にはエドワードが令嬢に話しかけたりして笑い声も聞こえている。
だがそれとは対照的に、ロバート王子側はお通夜のような暗さである。
その理由はロバート王子の無愛想な態度が起因していた。
令嬢たちが話しかけても『ああ』『そうだな』『わからない』『いや知らない』
と、何ともつっけんどんな返答で冷たく感じられるのだ。
ロバート王子はどうも、貴族令嬢との会話のキャッチボールが下手だ。
しまいには令嬢たちもロバート王子に何を話してよいか困ってしまい、気まずい沈黙の間となる。
さすがの取り巻き令嬢たちも、徐々に王子の輪から退き、諦めて遠目から姿だけを眺めたり、中には隣のエドワード側へちゃっかりと紛れ混む者もでてきた。
ロバートは王子は更に不機嫌だった──。
もうお開きの時間だ。ここから退席したいのに、隣のエドワードが一向に終わらない。
咳き込んだり、それとなく目配せをしても気付かないのか、エドワードは回りの令嬢たちとの話が盛り上がっていた。
──こいつ俺の側近だろうが、何そんなにひとりで盛り上げてるんだよ!
とロバートは内心、舌打ちをする。
そもそもロバート王子は、夜会や茶会などに参加するのは大の苦手であった。
今夜もとりあえず母親のたっての頼みで仕方なく出席しただけだ。
メルフィーナ王妃はロバートが学院卒業後、王室が用意した婚約者候補・高位貴族令嬢とロバートを会わせようと、露骨に画策をするようになってきた。
今夜の懇談パーティーも王子の取り巻きで最後まで残った、王国でも名家と呼ばれる侯爵令嬢2人だ。
彼女たちはロバートの両脇にしっかりと陣を取っていた。
お互いすました顔をしながらも、バチバチに眼付けして牽制しあっていた。
肝心の王子はというと、母親が用意した令嬢たちだと直ぐに気が付いて嫌気がさしていた。
※ ※
エリザベスはその間も3杯目の林檎酒を飲みながら、じっとロバート王子を見つめていた。
まるでネズミを狙う牝猫のようにエメラルドの瞳孔がギラギラと大きく開いて。
──よし、チャンス到来だわ!!
エリザベスはサイドテーブルに、飲み干した空のグラスを勢いよく置いた。
『ちょっと失礼するわね!』
『お、おいリズ……どこへ行くんだ!』
エリザベスは、エリート子息の取り巻きから離れて、ツカツカとヒールの音も軽やかに獲物をめがけて直進していく。
ロバート王子の前でピタリと止まり、それはそれは優雅にカーテシーをした。
『ロバート殿下、ごきげんよう──エリザベス・バレンホイムですわ。
わたくしのこと、覚えていらっしゃいますか?』
突然、真紅の薔薇の花の妖精が颯爽と表舞台に現れたかのように、ロバートと令嬢たちの周りがどよめいた。
エリザベスの存在感は美しい令嬢の中でも群を抜いていた。
まるでエリザベスの回りだけが、ぱぁっと華やかなスポットライトに照らされているようだ。
王子の側にいたエドワードと令嬢たちもエリザベスに気が付いた。
特にエドワードの蒼い瞳は眩しそうにエリザベスを見つめる。
エリザベスは、挨拶の後で
『殿下、いつぞやは楽しいひと時でしたわ。今夜はとても月が綺麗ですわね』
『『まあ、な、なんてこと……!!』』
ロバート王子も驚いたが、ロバートの両手に陣を取った侯爵令嬢たちは、エリザベスの言動に顔を醜く歪めた。
ちなみに王族と貴族間では厳しい上下関係があり、本来なら王族から声かけしない限り、高位貴族といえども先に話をしてはならない決まりがある。
だが、例外として若者主催のパーティは王子との親睦も兼ねて無礼講だった。
つまり今夜は、下位の者から王族に声をかけても良い。
──とはいうもののエリザベスが今、王子にいった“月が綺麗ですね”という言葉はあからさまに“愛の言葉”である。
あまりにも大胆不敵すぎる言葉だった。
『確かバレンホイム家の令嬢だったな。デビュタントのスピーチは見事だった』
ロバートは冷淡な表情は変えなかったが幾分優しげにいった。
『お褒めにあずかりまして光栄でございます』
悪びれもなく礼を言うエリザベス。
『ち、ちょっと先ほどからあなた、なんなの!』
『そうよ、突然来て殿下に向かって、何てはしたないことを云うのよ!』
憤るロバート王子の陣取り侯爵令嬢たち。
側にいたエドワードも、すっかりエリザベスに魅入られてしまって、先ほど会話をしていた周りの令嬢たちとの楽しい会話など中断してしまった。
エリザベスはロバート王子のそっけない態度もまるでお構いなしに攻めまくる。
『はしたないも何も私の本心ですから、あなた方にはとやかく言われる筋合いはないわ』
『まあ、失礼な!』
『それに先ほどから拝見してましたけど、ロバート殿下はあなた方と会話もしてないご様子。なのでわたくしが殿下をお慰めしようと思いましたのよ。ごめんあそばせ!』
といってエリザベスは、侯爵令嬢たちを押しのけて殿下を横取りする行動にでた。
『お、おい!』
とロバートが慌てるもエリザベスは王子の片腕をぐぐっと抱え込むようにして、べったりと自分の身体を王子の脇に寄せる。
その強烈な強引さは公爵令嬢とは思えないあるまじき醜態といえよう。
『『まあ、なんて失礼な人なのよ!!』』
ロバート王子の両隣にいた侯爵令嬢たちは、無理やり離されてカンカンである。
ロバート王子は、エリザベスの強引な態度に戸惑いながらも、どこかまんざらでもないご様子。
なぜだか王子の顔は珍しく赤くなっていった。
『ロバート殿下~ここは女人が多すぎてゆっくりとお話もできませんわ、もっと静かな場所へ移動しましょうよ。そうそう、バルコニーなどいいですわね。今宵の美しい月をぜひ2人きりで眺めましょうよ!』
と、自分の取り巻き連中たちから“子息殺し”と褒められる緑の瞳を煌めかせて口角をグイと高くあげたリズ・スマイルで微笑んだ。
そのまま王子と腕を組み、ずんずん歩いてあっという間にバルコニーへ引っ張っていく。
『お、おいエリザベス嬢……あ、エドワード!』
ロバート王子は傍にいたエドワードに思わず声をかけるが、エドワードも彼を取り巻く令嬢たちも、エリザベスが王子に対する強烈な猛アタックに、ポカーンと大きな口を開けているだけだ。
『はは、まいったな……なんて令嬢だよ……』
我に返ったエドワードは何とも切ない苦笑いをする以外なかった。
※ 少し長くなりました。バトルはついつい熱く描きたくなります。




