13. 王都の社交場は花盛り
2025/4/26 修正済
※ ※ ※ ※
夏の暑苦しかった王都にも、ようやく秋の訪れがやってきた。
涼しい秋風が吹き鈴虫が鳴く頃、各地方の避暑地から戻ってきた貴族の子息令嬢たち。
彼等は再び王都の社交場へと出向くのだ。
秋は王室主催の茶会や、夜は晩餐会&ダンスパーティと連日連夜の催しが、各場所で華やかに開催される。
そして春と秋は一番結婚式が多いシーズンでもある──。
クリソプレーズ王国の成人年齢は、男性が20歳。女性は16歳と決まっている。
結婚する平均年齢は男性は22歳~24歳、女性は20歳以下である。
男性はともかく女性、特に貴族令嬢たちの中には成人すると社交界のデビュタントを済ませたら、直ちに結婚するケースも多い。
若き令嬢たちは誰よりも素敵な殿方を見つけたいと、連日連夜に開かれる若者向けの各パーティーに参加をする。
たとえ、その中には既に親同士が決めたフィアンセがいたとしても、あえて参加したい令嬢は多い。
それは何故か──?
『花の命は短し恋せよ乙女』の、どこぞの歌い文句ではないが、独身時代が短い令嬢にとっては偶像が必要なのだ。
偶像は如何なる時代でも乙女たちの憧れの象徴となる。
エドワードも貴族学院を卒業後はロバート王子の側近の一員となってから、ここ1,2年は王都の公爵別邸から宮廷の社交界へ赴くようになった。
ロバート王子も学生時代とは違い、王族のセレモニーや教会の慈善事業に参加したり、隣国からの賓客の接偶やイベントなど親善に精力的に努めるようになった。
同時に側近のエドワードも一緒に参加する。
王室主催の茶会や、若者向けの懇談パーティーにも同様に参加すると、必ず2人は令嬢たちの注目の的となる。
『キャー、見まして、ロバート殿下がいらしたわ!』
『見ましたわ、白いタキシード姿がとてもお似合いですわ』
『……はあ、側近のエドワード様も王子と同じ金髪碧眼でまるでご兄弟のようだわ。とっても素敵……』
『お2人共、まるでアポロンの申し子みたいに麗しくて私は、眩暈がしそうですわ~』
『ほら早く行きましょうよ、出遅れると素敵なお顔を拝見できなくってよ!』
令嬢たちは扇を拡げて口元を隠しながら、キャキャッと囁きながらも、一気に彼等の傍に群がり始める。
立食パーティーなどの自由席だと、王子たちが来るや否や、花の輪となって令嬢たちは物凄いスピードで動きだす。
王子たちは、色鮮やかなドレスを纏い、高いヒール靴を履いた貴族令嬢たちの群れの中でも、頭一個分ほど背が高いので、遠目でも彼等が囲まれているのがわかる。
その光景はまるで美しい花々が王子たちの回りで“おしくらまんじゅう”のように押し合いへし合いしている運動会のようだ。
彼女たちはどうにかして一目でもいいから、彼等とお近づきになりたいと願っている。
※ ※
その光景を若い令息たちがロバート王子とエドワードを恨めしそうに見ている中、少し離れたエリート集団の令息たちが馬鹿にしたような面持ちで、彼女たち見つめている。
『ほら見ろよ、また王子たちが令嬢どもに取り囲まれてるよ。あの子たちも飽きないね!』
『本当だな、エリザベス、君は王子様たちの輪の中には行かないよね?』
『当たり前だろう? リズは僕たちの女神なんだから……あんなミーハー女どもと一緒にするなよ!』
『リズ、おかわりはまだいいの? 何か飲み物を取ってきてあげるよ』
『ありがとう、でもまだ飲んでるからいいわ……』
こちらはタキシードを着た若い高位貴族の子息たちに囲まれたエリザベス嬢の取り巻き集団である。
真紅の夜会ドレスを身に纏ったエリザベスは、大輪の薔薇の花のように華やかだ。
赤いルビ―のネックレスが彼女の豊満な胸元を彩どり、バッスルスタイルのドレスはより細いウエストを引き立たせている。
不思議と派手なドレスを着ていても厭らしさはなく、若き女王様のようにゴージャスで美しい。
エリザベスは林檎酒を飲みながらじっとロバート王子を凝視していた。
まるで、ネズミを狙う牝猫のようにエメラルドの瞳孔がギラギラと大きく開いた。




