12. エドワードの初恋
2025/4/25
※ ※ ※ ※
突然の父の死から3カ月余り、エドワードは哀しみに暮れる暇がないほど、嫡男として公爵家の爵位を継ぐ準備に多忙を極めていた。
その頃、エドワードはエリザベスと初めて出会う。
バレンホイム侯爵家の長女エリザベス嬢が晴れて16歳の成人を迎え、彼女のデビュタントが盛大に侯爵家で開催されたのだった。
そのお披露目パーティーに、ロバート王子と共にエドワードも招待された。
バレンホイム侯爵家はクリソプレーズの高位貴族の中でも、古くから由緒ある名家であり、王都と隣接する南に面した広大な領地を持つ大貴族でもあった。
長女のエリザベスは、類まれなる美人で博識もあり活発な令嬢との噂が王都内でも良く囁かれていた。
評判の侯爵令嬢がデビューするとあって、王族や高位貴族、王都を拠点とする名士たちがズラリと招待されていた。
今宵、皆が大注目している列席の前でエリザベス嬢が大広間の檀上に立った。
この時のエリザベスは、それは見事に優雅なカーテシーをした。
そしてエリザベスのスピーチが始まる。
『初めましてご列席の皆さま方、バレンホイム公爵家の長女エリザベスと申します。今日はわざわざ、わたくしの為に御多忙の中をお越し下さり誠に感謝申し上げます。
わたくしは幼い頃から今日の成人の日を心待ちにしておりました。この日を迎えられたことに、わたくしは心が躍るほどに幸せでございます──どうぞ今後ともバレンホイム家共々、お見知りおきくださいませ──』
エリザベスの凛とハリがあって響く声は心地よく、ハキハキした挨拶をする姿は王女のような佇まいであった。
──なんて艶やかで美しい、かつ堂々とした淑女なんだ!
エドワードはエリザベスを一目見た瞬間から心を撃ち抜かれてしまった!
腰まで届くハーフアップスタイルの豊かな銀髪は、天井のシャンデリアの光に反射してキラキラと輝く。
長い睫毛に縁どられて、少しだけツリ気味の珍しいエメラルドグリーンの大きな瞳。
つんとすました形のよい鼻と可愛いらしい小さな唇。
透き通った白い肌に薔薇色の頬。
彼女の瞳と同じグリーン色の華美なドレス姿。
お辞儀をした際に見える、エリザベスの年齢にそぐわないむきだした豊かな胸の谷間が、金銀のダイヤのネックレスの光を反射して、とても眩しく艶めかしい……。
これが所謂、一目惚れというものなのだろうか──?
突然、恋に落ちたエドワードの顔は耳たぶまで赤く染まった。
その後、エリザベスは父親のマクミラン侯爵と真っ先に王子とエドワードに近づき、ロバート王子が儀礼的に2人に声かけをして挨拶をとった。
エリザベスは口角をきゅっと高くあげた満面の笑みは可愛らしく、片手で大きくパッと開いた扇子をヒラヒラと煽ぎながら小首を可愛らしく傾ける。
エドワードたちとエリザベスが話しかけた最初の会話は──。
『まあ!……ロバート殿下とエドワード公爵様はお2人並んでらっしゃると、ご兄弟の様に良く似てらっしゃいますことね──まるでクリソプレーズ王国の神話に出てくる兄弟神のようですわ! 以前わたくしが王宮殿の回廊でお見かけした美しい肖像画を見ているようです。おほほ……』
エリザベスは微笑みを絶やさずに、初対面のロバート王子に対しても、全く物おじしない態度であった。
──うわ~なんだ─! このエリザベス嬢の尋常でない華麗さは!
間近でみると目がチカチカするほど輝きを放っている──!
それにどうだ、この快活でくったくのない微笑みったら……ああどうしよう、この場で眼が眩みそうだ。
エドワードはエリザベスを目の前にして、頭が真っ白となり体はカチンコチンとなった。
その後、彼はエリザベスと何を会話したのかさえ覚えていない。
そんな膠着状態のエドワードに対して、ロバート王子はというと、呆けた従兄弟を横目でしらっと見ていた。
面白いことにロバート王子は、あらゆる御曹司が一瞬で心を打ち抜かれるエリザベスの微笑みには意を介さなかった。
逆に不快感を顕わに感じたのか、片方だけ眉毛を吊り上げた。
『それはどうも』
と一言だけエリザベスに返事をした。
エリザベスは微笑んでロバート王子と接しはしたものの、王子が余りにもつれなくて内心しょんぼりした。




