11. エドワードとロバート王子
※ エドワードの生い立ちが中心です。
※ 2025/4/25 修正済
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エドワード・ルービンシュタイン。
王族と縁戚関係の筆頭公爵家の一人息子、嫡男である。
クリソプレーズ王国の第一王子のロバートとは、同年齢で従兄弟でもある。
エドワードの母シルビアは、現国王ライナスの妹であり王女でもあった。
シルビア王女はルービンシュタイン公爵家へ降嫁した後、エドワードを産むが彼が幼少期に病いで早世してしまう。
国王の妻のメルフィーナ王妃は、ルービンシュタイン公爵家の出身である。
エドワードの父ジョージの妹であり、つまりエドワードの叔母である。
メルフィーナはシルビア王女とは親友で、独身時代からとても仲が良かった。
王妃はシルビアの死をひどく嘆いた。
彼女の忘れ形見のエドワードを不憫に思い、息子のロバートの遊び相手のひとりに指名した。
その為エドワードが領地から王都に来るたびに、メルフィーナは宮廷へ招き彼を可愛がった。
エドワードも母のいない寂しさもあり、叔母のメルフィーナ王妃に甘えていた。
2人とも王族特有の濃い金髪で蒼い瞳、背丈もほぼ同じであり顔だちも良く似ていた。
兄弟のように仲も良く貴族学院(男子校)でも常に一緒だった。
学院卒業後はロバート王子の側近として、エドワードは公爵家の爵位を継ぐまでは行動を共にしていた。
外見は双子のように似ているが、性格はひどく対照的である。
ロバート王子は一見、人前ではものすごく無口である。
表情もほとんど変えず、王族特有の冷たい威厳をみせる。
いわゆるクールビューティー系。
悪くいえばとっつきにくい性格が少々欠点でもあった。
それでも親しくなるとエドワードや側近たちには、人懐っこく快活に喋る。
言葉遣いは唐突で誤解されやすいが、部下には優しい一面もあった。
いわゆる人見知りのツンデレなのだ──。
対してエドワードは人当たりがいい。
誰に対しても気取らないソフトな優しさがあった。
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エドワードのそのおおらかな性質は、彼の生い立ちにもよる。
公爵家の領地──セルリアン領は、王都から北に位置する山々に囲まれた広大な田園地帯である。
領都のクィーンズ市街地域の周辺は、牧歌的でのどかな町や村がたくさんあった。
その公爵領本邸で生まれ育ったエドワードは、幼くして母を失くすも彼を愛する温厚な父と、屋敷の家令たちの中で愛されて育てられた。
エドワードは子供の頃からよく父親と一緒に領地の視察に同行した。
クィーンズ市民や周辺の村人たちは、誰にでも手を振ってニコニコと笑う、エドワード少年が大好きだった。
『キャー、エドワード様がこっちを向いたわ!』
『いやあ、エド坊ちゃんは天使のように可愛いよねぇ……!』
『エドワード様、今年のメロンが実りましただ、すごく甘いですぜ。良かったら領主様と一緒に召し上がってくだせえ…』
エドワードは至る所で村や町の平民たちに、忌憚なく声をかけてもらう人気者だった。
父親のジョージ・ルービンシュタイン公爵は高位貴族ながら、とても領民を大切にしていた。
平民でも分け隔てなく彼等の声に耳を傾けながら、領地開発を推進していった。
また、ジョージは地位の低い町民や村人でも、能力があれば重要な要職に貴族たちが反対しようとも就かせた。
元々ルービンシュタイン家の先祖は、辺境伯出身のせいか、彼はなかなか革新的な人物でもあった。
しかし残念ながら、ジョージ公はエドワードが19歳の時に突然亡くなる。
医師の診察では心臓の病いであった──。
まだ54才を迎えたばかりだったが、働きすぎの過労死とも言われた。
ジョージ公の突然の死は、多くのセルリアン領民たちに衝撃を与えた。
彼等は領主の死に嘆き、葬儀が行われたクィーンズ大聖堂では、王族や貴族の参列者以外にも、何万人もの領民たちが、花を手向けに大聖堂へ出向く。
それは長い行列が続いた──。
──僕も父上のように立派な領地の当主になって、彼等をなんとしてでも守っていこう
父上の意思を僕が必ず継続していくのだと──。
19歳のエドワードは列席で、哀しみに暮れて歩きつづける参列者たちの、どこまでも長い列を直視しながら、ボロボロと泣きながら心に固く誓った。
こうしてエドワードは父の死後、若干20歳という若さでセルリアン領地の当主となった。




