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10. バレンホイム家の晩餐会(2)

※ 家族の修羅場はまだまだ続きます。

※ 2025/4/25 追加及び修正済

※ ※ ※ ※


『──よさんか、カール。ロバート殿下が決めた事だ。リズを(あお)るんじゃない!』

父親のマクミランがカールを叱る。


『だって父上、リズの()()()()()()()()()は凄かったんですよ! 俺たち騎士団連中の間でもかなり有名でしたからね、それがまさか実の妹にかっさられるとはね……ククッアッハハハ──!!』

カールはおかしくて笑いが止まらない。


『お兄様、もうおよしになって⋯⋯』

『カール、いいかげんになさい!!』


ハラハラするマーガレットと怒ったセーラが同時にカールを咎める。


『はいはい、母上、申し訳ありません……だけど可笑しくて⋯⋯ブブブブ!』

カールは口では謝るものの、まだ苦しげに笑ってしまう。


どうやらカールは、白ワインの飲みすぎで気持ちがハイになっているのだ。


エリザベスは怒りに震えながらも再び、ナイフで切ったほろほろ鳥をフォークに刺して、口の中へ無造作に入れた。

だが、切った肉が大きすぎてモグモグと苦しそうに頬張りながら兄を冷たく睨んだ。


それを半眼で見つめた酔っ払いのカールは『ククッ』と、また可笑しそうに笑いだす。



笑い上戸(じょうご)のカーラルフィート・バレンホイム子爵。

愛称カール。

現在、王宮騎士団の上級職についている。

いずれは父のバレンホイム侯爵の家督を継ぐエリザベスとマーガレットの兄だ。


母親とよく似た容姿で銀髪で瞳は青色、見栄えだけは容姿端麗といえよう。

令嬢からはかなりモテモテである。


なのに24歳と妻を娶る年齢だが、未だに嫁を取ろうとはしない。


騎士団の仕事に精をだしてはいるが、令嬢たちとの()()()()()()()もそこそこと聞こえてくる。


どうやら父親が現役中までは当分子爵のまま、独身貴族を謳歌したいタイプのチャラ系男だ。


案の定、エリザベスとの仲は余りよろしくはない──。


カールも口が達者で生意気な兄を見下すエリザベスには辟易(へきえき)している。



マクミラン・バレンホイム侯爵は46歳。

バレンホイム侯爵領の現当主である。


髪も瞳もダークブラウンで、貴族にしては平民のような色だ。茶色なのはマクミランの母親が平民あがりの男爵夫人だったせいである。


先代の本妻に子ができなかった為、妾の子だったマクミランが爵位を継いだ。


性格はいたって温厚で、嫡男のカールはともかくとして娘二人には分け隔てなく可愛がっている。


だが、王族の縁戚出身である妻セーラには頭が上がらない。


むろん妾などいる由もない。

まさか間違っても欲しい⋯⋯なんて言うようなものなら、セーラは一生夫とは口も聞かず、冷徹な目線だけをマクミランに向けるであろう。



『カール、お前はどうも軽いぞ。貴族ならもっと言葉を慎重に選ばないといかん。それよりお前こそ、一体いつになったら妻を娶るんだ?⋯⋯沢山縁談が来てるのに(ことごと)く断りおって、お前の年にはわしはとっくに結婚してたぞ!』


『あちゃー! こっちにお鉢が回ってきたか。父上、僕はまだ騎士団副長に勤しんでる最中でありますから、嫁はもう少しお待ちください!』


『仕事をしてても嫁は娶れるぞ、お前は単に遊びたいだけだろうが!』

マクミランがすかさず責める。


『はい、父上ご最もでありますが、今日は()()()()()()()()()()()()ですから、僕のことはどうかご勘弁下さい』


カールが口角をニヤリと上げて茶化す仕草で頭を垂れた。


母のセーラは、息子の態度にゾッとするくらい冷淡な視線を送るものの、直ぐに気を取り直して──


『そうですわあなた、リズにはとてもよい縁談がありましたわね──。ねぇリズや、今はさぞや気落ちしていることでしょう、母もなんていったらいいのか⋯⋯ええ、あなたもロバート王子を好いてたのは良くわかってましたよ──いくら姉妹とはいえ辛い気持ちは母にも理解できます。ですが王族との婚姻は当家にとって大変名誉なことでもあります。ここは潔く姉としてマリーを祝福してあげなさいな』


余りにも()()()()()()()る、ど直球の言葉である。


エリザベスの傷心を、母セーラが尖ったナイフで最後のトドメを突き刺してくれた。


──お母様っていっつもこれなのよ!


私の気持ちが理解できるとか同情云々カンヌンとはいったって、結局は『姉だから我慢しなさいよ』と最後は結ぶ。


──姉、姉、姉って好きで姉に生まれてきたわけじゃない。


たかが1つ上に生まれただけで、一方的になぜわたくしばかり我慢しなければならないの!


結局、お母様はあたしをお嫌いなんだわ──。


エリザベスは母の顔を睨み付けた。

そして地響きから轟くような低い声で言った。


『ふん、お母様はそうおっしゃると思いましたわ⋯⋯ええ、王太子妃は当家にとって大変名誉なことですわよね』


『まっ!』


セーラはエリザベスの異様な形相に眉をひそめた。



更にエリザベスはマリーに向けて言い放つ。


『マリー、取りあえずはおめでとう、貴方の勝ちだわ!』


『お、お姉様⋯⋯』


『ふふん、一体ロバート殿下にどんな手管(てくだ)を使ったのか、後程ゆっくりとお聞かせ願いたいものだわね。──でも、これからあなたには厳しい“王太子妃教育”が待ってるわよ。わたくしと違ってあなたには過酷でしょうよ──せいぜい悲鳴をあげないように精進することね!』


とエリザベスは手に持っていたナプキンを、テーブルに叩きつけて勢いよく席を立った。


そしてカツカツと、ヒールの音を強く床に打ち立ててドレスの裾を持ち上げながら、サロンから足早に去って行った。



※ ※ 


『おい、待てよエリザベス、父上と母上に失礼だぞ! ちっ、なんて態度だあいつ……』


カールが大声をだしたがエリザベスは振り返らない。



何とも場がしらけた雰囲気で、テラスに残された一同しばし沈黙となる。



『あの子は本当に我慢が足りない……自分の思い通りにならないとすぐ癇癪を起す…あれではいくら美しくてもロバート殿下はお心を寄せないわ──』


セーラは心底、エリザベスに呆れてるようにいった。


『仕方がないよセーラ。リズはロバート殿下に夢中だったからな⋯⋯あの子にとっては相当ショックだったのだろう。早く例の縁談をリズにも勧めてあげようじゃないか』


父親のマクミラン侯爵は、エリザベスに心底同情していた。


『ええ、そうですわね。それが一番エリザベスには良い思案ですわ』

セーラもしんみりと頷いた。


さすがのセーラも、今回は少々エリザベスには同情していたのだ。


『お姉さまにはなんといっていいのか⋯⋯本当に申し訳ありませんわ⋯⋯』


『気にするなよマリー、あの高慢ちきのエリザベスにはいいお灸だよ!』


カールが少し酔っぱらった赤い顔で、マーガレットを庇う。


マーガレットは申し訳なさそうに項垂(うなだ)れているが、ほんの微かだが、()()()()るようにも見えた──。


だが、マーガレットがすぐに口元をナプキンで隠したため、その微笑はバレンホイム家の家族にも、家令たち誰にも気づかれなかった。



※ ※ ※


──悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい!


エリザベスはこれでもかと、己の顔を醜く、ぐちゃぐちゃに歪ませる。


──()()()()()()()()()()()()()()()()()()



いつしかその歪みきった顔からは、とめどなく悔し涙が溢れ落ちていった──。






※ ようやく10話まで来ました。読んでくれた方どうもありがとうございます。とっても嬉しいです。




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