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3-4 オストル・オリヴィエ


「師匠、いたのか‼」


そう言ってヴァラキがドワーフに声を掛ける。

ドワーフはチラリとヴァラキに目を向けるが、すぐにキールへと視線を戻す。


ドワーフはキールに近づくと、いきなり頭を下げる。


「我が名はオストル・オリヴィエ。弟子が無礼を働いた。」


「頭をお上げください、オストル様。」


キールは慌てて顔を上げてもらう。


「ありがとう。弟子には後でキツく言っておく。」


そう言ってオストルはニヤリと笑う。

その横ではヴァラキが心底嫌そうな表情を浮かべている。


「お初にお目にかかります。キールと申します。」


キールがそう言って頭を下げると、オストルは感慨深そうに頷く。


「実は君がまだとても小さい頃に1度に会っているんだ。ついこの間のように感じるが、人の時が流れるのは本当に早いものだな。立派になったな、キール殿。」


そう言って差し出された手をキールが握り、オストルとキールの2人は握手をする。


「そう言えば、オストル様にお渡ししなければならない物があります。」


キールはそう言って洞窟に戻ると、ローランから預かったていたオストルへの紹介状を差し出す。

それを受け取ったオストルは紹介状を一読しケラケラと笑う。


「ローランも相変わらずだな。キール殿は随分とヤツに気に入られたようだな。」


オストルはそう言って紹介状を自身の懐にしまう。

キールは紹介状の内容が少し気になったが、その気持ちを抑えて平然と振る舞う。


「かつては我が父や母、ローラン様と共に旅をされていたと聞いております。」


「うむ、その通りだ。」


オストルは少し昔を懐かしむように口を開く。


「あの頃は私の人生で一番楽しかった時間だった。私は人よりも遥かに長い時間を生きているが、あの頃の旅の思い出は、そのどれもが鮮明に残っている。」


「ローラン様も同じような事を仰っていました。あの頃が“青春”だった、と。」


「そうか。アイツらしいな。」


これまで黙って2人の会話を聞いていたヴァラキが割って入る。


「ローラン様って、あの“剛腕のローラン”のことか? キールはあの(・・)ローランと知り合いなのか? やっぱりデカい人なのか? 師匠は“剛腕のローラン”と戦ったことはあるのか?」


ヴァラキは自身と同じ“来訪者ヴァイキング”の英雄であるローランに興味があるようだった。


「あるぞ。一度も負けたことはないがな。」


ヴァラキの問いにオストルがそう答える。

その回答に、キールは何となくローランもオストルと同じ回答をするような気がした。


「師匠、、、、本当か? あのローランだぞ。」


「うるさいわ、ヴァラキ。奴も十分凄いが私には及ばんぞ‼」


オストルが少し強がるように言う。

この態度にキールの予感が確信に変わる。


-互いに負けを認めず強がり合う若き日のローランとオストルと、それを見て困ったように微笑む聖騎士皇子と呆れる女性2人の姿が、ありありとキールには想像ができた。


「そう言えば、キールは師匠とも、ローランとも知り合いなんだな。」


ヴァラキが不思議そうにキールへ視線を向ける。

その様子を見てオストルがキールに目配せをするが、キールはそれに頷きを持って応える。


「、、、僕はウィリアヌス帝の子供なんだ。」


キールの告げた言葉にヴァラキは目を見開く。

そのままヴァラキは少し俯くが、すぐに顔を上げて笑顔を浮かべる。


「そうだったのか‼ 道理でただ者じゃないと思ったんだ。」


ヴァラキはそう言ってキールを見ると、うんうんと頷く。

オストルはそんなヴァラキに呆れたような視線を向ける。


「お前はそんな人物の臣下になったんだぞ。」


「あっ‼」


ヴァラキはすっかり忘れていたかのような声を上げる。

次の瞬間にはヴァラキにオストルのげんこつが飛んでいた。


3人はそのままオストル達の拠点に向かうことになった。


▽ △ ▽


「ここが我々の拠点だ。」


オストルがそう言って指さす先には小さな石造りの小屋があった。

小屋には突き出した部分があり煙突が付いる。煙突から煙が漏れているのが見えた。


小屋に近づくと、突き出した部分に炉のような物があるのが見えた。


「あれは、、炉ですか?」


「分かるか」


キールが小さく呟くと、オストルが驚いたようにキールを見る。

頷いたキールを見てオストルは満足げに頷く。


キールの酒呑童子として生きた記憶の中には、たたら製鉄を行う“おぬ”達と過ごした日々の思い出があり、酒呑童子自身も製鉄に汗を流したこともあった。


「少し製鉄について調べたことがありまして。」


「そうか。あれだけで金属加工用の炉とわかる物なのだな。」


オストルはそう言ってキールに視線を向ける。

キールはそっとオストルから目を逸らし、炉を見つめる。


小屋にある炉はかつての記憶の炉と似てはいるが異なる部分も多かった。

キールはこれまで意識してこなかった、この世界の鍛冶技術に興味を覚える。


「良ければ僕に鍛冶の技術を教えてくれませんか?」


キールがそう言うと、オストルは嬉しそうに頷くのだった。


その時、小屋から1人の男性が姿を現す。

男性は大柄なヴァラキよりも、さらに大きく鍛え抜かれた身体をしていた。


「おう、兄弟子‼」


「おかえりなさいませ、師匠。そちらの方は?」


巨漢の男性はオストルに一礼をするとキールに視線を向ける。

その瞬間、男性とキールの視線が交錯する。


「ああ。キール殿下でしたか。」


男性はそう言うと、キールの前に膝を付く。


「私はモンタックと申します。修道士ですが、師であるオストルの下で研鑽を積んでおります。」


「立ち上がって下さい、モンタック修道士。」


キールは慌ててモンタックを立ち上がらせる。

そのままキールも挨拶をする。


「キールと申します。よろしくお願いします。」


「兄弟子もキールのことを知っていたのかよ。」


2人の挨拶を見たヴァラキがそう言いて口を尖らせる。

どうやら自分だけがキールのことを知らなかったことが不満なようだ。


その後、キールは3人と一緒に食事をとった。

久々に複数人で囲む食事は楽しいものだった。


それ以降、キールがオストル達と一緒に行動するようになる。

日々の修行内容は変わらないが、オストルに鍛冶技術を学ぶ時間が増えることとなった。


-----------------------


キールが山に籠った半年の間、ガドルド帝国の状況は大きく変わっていた。


後に大異教軍と呼ばれる大規模な反乱計画を前に、新皇帝リチャードは帝国軍の強化を図っていた。

しかし、ウィリアヌス時代になかった増税や徴兵といった政策は、新皇帝への反感を増幅させていく。


「どいつもこいつも、なぜ皇帝である私に反発するのだ‼」


ガドルド帝国王宮の皇帝の間でリチャードが吠える。


「貴方の振る舞いを臣民もまた見ているのです。」


クルエルの発言にリチャードは自身の母親を睨む。

そんな息子の態度にクルエルは溜息を持って応える。


「収穫期の時期に増税に加えて徴兵など以ての外です。さらに貴族に出兵要請だなんて、、、。そのような決定をしながら、貴方はいつまで後宮で遊び惚けているのですか?」


「母上、私は皇帝ですぞ。お言葉を慎んで頂きたい‼」


「皇帝である前に貴方は私の息子です。」


毅然とした態度でそう言う母を見てリチャードが怪しく笑う。


「母上、私は偉大なるガドルド帝国皇帝なのです。その威光はどのような事柄にも先立ちます。そんなこともお忘れですか。」


リチャードはそう言った後、少し黙り、再び口を開く。


「母上、貴女は少しお疲れのようだ。統治は私に任せて、少し休むのがよろしいでしょう。」


「なにを言っているのですか、、、?」


リチャードが目配せをすると、2人の近衛兵がクルエルに近づく。

近衛兵たちはクルエルを皇帝の間から出ていくように促す。


「リチャードっ‼」


自身を睨むクルエルをリチャードは涼しげな顔で受け流す。

クルエルは近衛兵に連れられて皇帝の御前から去っていく。


これ以降、彼女が皇帝に政治の助言をする機会が訪れることはなかった。

同時にクルエルの右腕であったフラムも政治の表舞台から失脚する。


かくしてガドルド帝国中央にキールを探す者はいなくなった。

やがて人々はウィリアヌスの時代の威光の陰でキールの存在を忘れていくのだった。

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