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2-8 約束とファーストキス


ラウンジを出てシアと別れたキールは客室に戻っていた。

キールは部屋から見える城下町の風景を眺める。


「襲われた以上はラグクラフト公領を離れなければ、、、」


キールにとってラグクラフト公領を離れることは助けられた日から覚悟している事だった。

それに加え、自身も魔法が使えることが分かったことで、かつての力への渇望も強くなっていた。


「越後の山のような、修行できる場所があれば、、、」


キールは遠くに見える海を眺め、目を細める。

かつて自分が鍛えた越後の山は、酒吞童子に力強い肉体と鍛冶の技術を与えてくれた。


「さて、どこに行くべきか、、、」


キールが1人窓の前で佇んでいると、客室にローランが入ってきた。

ローランに気付いたキールが会釈をすると、ローランも手を挙げてそれに応じる。


「なにか悩んでいるようだな。どうかしたか?」


「襲われた以上は長くお世話になることはできません。」


そう言って少し黙るキールを見て、ローランが声を掛ける。


「ならば、東の山脈へ行くのはどうだろうか。あそこなら帝国の追手も近づくことはないだろう。身を隠すならあそこは打ってつけの場所だ。王宮暮らしの長かった皇子様には合わないかもしれんがな。」


そう言ってローランはニヤリと笑う。

試すような視線にキールも笑顔で答える。


「ありがとうございます。東の山脈と言うと、竜が住むとゆわれるメリュジーヌ山脈ですね。」


「そうだ。あそこなら修行にもお誂え向きだろう。」


ローランは見透かすような視線でキールを見る。

この瞬間、キールは東の山脈へ行くことを決める。


「いい目だ。幸い山脈には私の知り合いもいる。紹介しよう。」


ローランはそう言うと、客室を出ていく。

キールは再び窓の景色を眺める。少しだけ、視界が開けたような感覚だった。


「シア嬢には申し訳ないな。」


そんな言葉が小さく口から洩れた。


▽ △ ▽


客室での会話の翌日、キールはローランに呼び出される。

キールがローランの執務室に入ると、既にローランが待っていた。


「よく来た。腹は決まったようだな。」


「はい。東の山脈へ向かいます。」


「うむ。ならば、これを持っていくといい。」


ローランはそう言って1枚の封筒を差し出す。

ラグクラフト公爵を示すヨットが描かれた蝋封が刻まれてる。


「これを持って、山脈にいるオストルという男を探すといい。」


「オストル、、、。あの父上と冒険を共にしたオストル様ですか?」


「そうだ。きっと山脈の奥に籠って過ごしているだろう。見つけ出せるかは分からんがな。」


ローランはそう言って笑う。

その瞳は、かつての仲間を思い出すように遠くを見つめている。


「そう言えば、ウィリアヌスとメリナが出会ったのも東の山脈だったな。」


初めて聞く両親の馴れ初めにキールは興味深そうに目を見開く。

そんなキールの様子を見て、ローランが嬉しそうに微笑む。


「俺とウィリアヌスの2人で東の山脈に棲むと言われるドラゴンを討伐しに行ったときに、メリナと出会ったんだ。彼女は山脈の中に住む一族の末裔だったそうで、そこで俺達の旅に合流したんだよ。」


「そうだったんですね。」


「たしかメリナの一族はドラゴンの末裔と言われていたようで、メリナが魔力に突出していたのもそれが原因のようだったな。そもそも、俺はその一族はメリナしか知らないんだがな。」


驚きの表情を見せるキールにローランはニヤリと笑う。


「君の名前にもドラゴンの要素が入ってるのはメリナの希望だぞ。竜骨(キール)。帝国の芯として文明を支える竜骨(キール)となって欲しいという両親の思いが、君の名前になっているんだ。」


キールは初めて聞かされる自身の名前の由来に誇らしい気持ちになる。

同時に、両親からの深い愛情に改めて気づかされる。


「だからこそ、、、山脈に行った後に、必ず帝国に戻ってきなさい。」


ローランは優しく語り掛ける。

それは2人の友人の忘れ形見へ掛ける、約束だった。


「、、、はい‼」


キールは力強く返事をする。

強くなりたい。その思いがキールの中で熱く滾っていた。


「それから、、、」


ローランは少し口籠る。


「シアと話せよ。」


ローランはそう言ってキールを真っ直ぐ見つめる。

キールはしっかりと視線に応えて頷くのだった。


▽ △ ▽


シアはキールに夜の花畑に呼び出される。

月明かりが花を照らし、幻想的な雰囲気を醸し出す。


「シアさん。明日、僕はここを去るんだ。」


突然のキールの発言にシアは何も言えず固まる。

その言葉は、覚悟はしていたが、できれば聞きたくなかった。


「そうなんですね。」


シアはそれだけ言って、唇を噛む、

彼を止める権利はないという事をシアは十分わかっていた。


だからこそ、無理やり笑って見せる。


「今度は、私のことを忘れないでいてくださいね。」


今度も、また会えるように。

どうか自分が、彼の心に残ることを願って。


「ああ、もちろん。」


少し驚いたあと、皇子は優しく微笑み、そう言う。


キールはシアの前に膝を付くと、手のひらにキスをする。

月明かりの花畑に優しく、暖かい風が吹き抜ける。


「ありがとう。」


立ち上がったキールはシアの目を見て感謝を述べる。

次の瞬間、シアはキールに抱き着いていた。


「そう言うんでしたら、この城に残っていてください。」


小さな声でシアはそう囁き、キールは困ったように笑う。


「、、、すまない。」


「、、分かっています。」


「、、、必ず強くなって戻ってくるよ。」


「、、、約束です。」


シアが顔をずいっと上げる。

今にも泣きそうな顔でシアはキールを見つめる。


「本当に約束ですからね。」


シアはそう言うと、キールの唇を奪う。

思わず硬直するキールを尻目にシアはサッとキールから離れ、走り去ってゆく。


「、、、これは、やられたな、、、。」


1人残されたキールはシアの背中を眺めてポツリと呟くのだった。

再び暖かい風が吹き、月明かりに照らされた菜の花が優しく揺れる。


▽ △ ▽


翌日、キールはラグクラフト城を出発する。


「短い間でしたが、お世話になりました。」


ローランとシアに頭を下げ、キールは馬に乗る。

2人と交わした約束を胸に、紹介状を携えたキールはメリュジーヌ山脈へと旅立つのだった。

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