『切り取り切り貼りその先は――』
夜から始まり、夜に終わる。
朝、昼は認識から外れ、闇が日常。
権利が必要な世界。乖離の世界。
私は高校生になりしばらくしてから気づいた事があった。
両足が武器だということに――
少し何かを蹴ってしまえば物は切断され、壁を蹴ってしまえばファンタジーの世界の様な裂け目が出来る。まるで大きな剣で斬った様に。
こんな力が必要な世界にいるわけではない。学業に専念するべきだ。それが普通だ。
でも――
自分の両足が――
両足が――
制服のスカートから伸びる両足が――
恋しい。
人を斬れと囁く。筋肉が動く時、汗が浮く時に――
一番強く囁かれるのは視線を受けた時だった――
絡みつく視線と突き刺さる視線。
斬り裂きたい。
物を―― 人を――
大切な物を―― 他人を―― 友人を―― 家族を――
私は狂っている。
この歪みをどうにかしかして『切り取』れないだろうか――
奇妙な事を思いつく。
この両足は武器。ただ切断するだけの能力ではないのでは――?
思いついた方法は、高速移動し、残像の自分の頭を斬る。
馬鹿げた思いつきだった。
こんな事が成功する訳がない。試す価値は無いと思いながらも、簡単に成功してしまった。
残像の私は頭部が無いままで立ち、現実から『切り取』られた。
その後は気持ちが落ち着いた。
しばらくすると、私の行動範囲内に私の死体が溢れた。
腐臭を放つこともなく、私以外に認識されない死体が『切り貼り』絵の様に重なって現れた。
恐怖は感じない。ただ、もうこの方法を使えないという事実。
落ち込む私を――
数多の目で見る私――
歪な形をした右腕がゆっくりと上がり、極端に長い人差し指が向いている空間が歪む。
夜の闇から漏れだす青い光。
――この光は知っている。
世界が明るいと感じていた頃、短い時間だけ奇妙な世界に行った事がある。
夢だと思っていた。
その時、ある女性から言われた内容を思い出す。
「君の両足は武器。望めば、望んだなりの結果を与える武器。ただ、君はとても大人しい性格で常識がある。幼いのに立派だ」
「青い光が支配する世界はいつでも歓迎しているよ」
「私の言葉を思い出したら、その時の気持ちに従えばいい。救いが無い世界に留まるよりも、可能性がある世界を選択した方が全て上手くいく」
いつの間にか目を閉じていた私。
青い光が消えそうになっていた。
右足を振るう。
空間が切断され、再び光が現れる。
そのまま光の中に飛び込んだ。
光に包まれている間、考える。
私の様な『歪んだ願望』を抱いている人はいるのだろうか――と。