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怪奇集め その手をつないでいられるうちにできること  作者: 響ぴあの


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10/16

怪奇売ります 斬首と死んだ少年

 怪奇を売るという謎の出品を大手出品サイトで見つける。世の中で、この病に苦しんでいる人がたくさんいるのかもしれない。怪奇集めをせざるおえないのかもしれない。それ以外にも、怪談芸人など怪談を話すことで生活をしている人間もいる。そして、ホラー作家もネタ探しに使うのかもしれない。


 怪奇を売るというのは、怪奇現象を体験できるわけではなく、怪奇現象を経験したという経験談を売っているらしい。主にテレビ局の番組特番関係者や芸能人、出版社などの方に好評です。と書かれている。みんながみんな、そんなに何度も怪奇体験はできるはずもない。つまり、怪奇体験者からネタを買うことで、一般層にエンタメとして届けている側面を改めて知る。


「怪奇でお金儲け出来る時代なんだね。自宅で全国に売れる時代って欲しい人とのマッチングも昔より迅速にできるようになったんだろうね」


「何でも金にする時代ってことかな。テレビ局で夏にいつも色々な怖い話を企画してるのも誰かが考えた話だったり、投稿者がいるわけだからな。怪奇を買う人間は昔からいたんだろうな。今は可視化してネット上でこんな風に見えるなんてな」


「ネット上のフリマアプリって進化してるよね。そう言えば、小学生の時のバザーで親が勝手に売ってしまったものがあって、私超怒って泣いた記憶がある。凛空が慰めてくれて、買った小学生の子を探してくれて、買い戻したよね」


「そんなことあったかなー」


 凛空にとっては何気ない記憶だから忘れてしまったのかもしれない。

 まさか、呪いの病のせいなんて思わないように前向きに考える。


「この人に色々聞いてみれば、怪奇集めはかなり早くできそうだよね」


「でも、結構高そうじゃないか? マスコミの需要が高いってことはそれ相応の対価だろうな。ここを見ろ。1万円からって万単位での取引は、結構きついよな」


「でも、どんな怪奇の種類があるのか見てみよう」


 一覧を見る。


 学校での怪奇現象、交通事故死が多発する場所での怪奇現象、病院での怪奇現象、お盆での家族にまつわる怪奇現象、肝試しでの怪奇現象、廃墟探索での怪奇現象、不思議な体験、奇妙な体験など。


「おおざっぱだよね。小学生が読む怖い話の一覧でもよくある話だし、これが作り話なら、私たちはお金だけ取られて何も得られないでしょ。テレビの怪奇特番でも取り上げられていそうな内容だよね」


「そういえば、今年は夏なのに、テレビの怪奇特番自体みかけないな」


「多分、若い世代がスマホばっかりでテレビ見なくなったからじゃない? 大人ってそんなに怖い話好きじゃないじゃない。好きなら、動画で見てるんだろうし。子供の頃ほうが怖い話が好きな人が多かったような気がする」


「たしかに、高校生になるとファッションや音楽のほうが面白く感じたりするよな」


「昭和のアニメを見たことがあるけれど、昭和初期のアニメは音響とかがなんだか怖いんだよね。今のほうが断然怖くないよ」


「白黒テレビとかカラーテレビでも、画像が悪い時代のアニメだろ。楽器みたいな音が妙に怖い感じを出してるんだよな」


「字幕もなんだか不気味でさ。これ見て思ったんだけれど、どうせなら、現場で働いている人に職業調べってことで怖い話聞き出したほうが良さそうじゃない? 例えば、病院関係者とか小学校の先生とかお寺の住職さんなんかは色々知っているかも。高校や中学校より小学校のほうが都市伝説とか怖い話って聞くよね」


「そうだな。地元の知り合いとかのほうが安心だし、相手も警戒せずに話をしてくれそうだな。例えば、俺たちが通っていた小学校の先生とか、町内会の会長さんなんかいわくつきの場所をこっそり教えてくれそうだしな」


「やっぱり、実際に足を運ぶのもいいかもしれない」


「なんだか、探偵とか刑事みたいな話だけどな。怪奇売っている人がもし、実際にこの近くにいればまた話は違うけど、俺たちは金がないからな」


「とりあえず、出身小学校に行ってみようか。先生も人事異動でいなくなっているかもしれないなぁ」


「でも、今でもいる先生がいるよ。ネットの学校だよりの職員紹介に載ってるよ」


 小学校のホームページには4月の学校だよりに職員紹介があり、今でもいるのが白髪の優しいベテラン男性の小森教頭先生、担任だった女性の村山先生だ。村山先生は当時20代だったが、いまは30代だろうか。そして、多分、名字が変わっていないということは独身かと想像する。気の強いしっかりものだった。怒る時は怒るけれど普段はとても優しい生徒に人気のある先生だった。現在は、プライバシーの問題もあり、ホームページに職員名を伏せて学校だよりを掲載しているところもあるみたいだ。幸い出身小学校のホームーページには名前が掲載されており、確認することができた。これは、運が私たちに味方しているということだ。きっとそうだ。


 電話でアポを取ると、相変わらずサバサバした村山先生は「いいよ。今、職員室で仕事してるから、課題の手伝いしてやるよ」と言ってくれた。


 学区内に今も住んでいるので、歩いて10分もかからない場所に小学校はある。小学校という場所はある意味たくさんの集合体だ。保健室という病院に近い要素がある救護室もあれば、調理室のように食事を作る場所もある。震災などで避難場所になる広い体育館は何があっても倒れないような風格さえ見せる。夏になればプールという水難事故が起きるかもしれない怪奇スポットもある。考え方次第では、水遊びができるビーチスポットが学校に短期間設置される感覚だ。よく、ドラマで立てこもったりする話があるが、色々な部屋があるため、何人もの人が共同生活をしたりすることも可能かもしれない。


 そして、この小学校には以前から不思議な地蔵がある。噂では、ここで首切りの処刑場だったとかそういう魂を鎮めるためだとか言われているが、真相はわからない。でも、昔はそういった制度があったということは否定はできないし、怪奇として怨念が渦巻いている可能性はある。


 私たちは早速村山先生に会いに行った。相変わらず、ショートカットでボーイッシュな印象は変わらない。以前より、少しばかり歳のせいか落ち着いたような印象を受けた。


「変わらないなぁ。相変わらずね。それに、いい感じに美女になったんじゃない?」


 照れるセリフを言われるとどうにもむずがゆい。先生は昔からそういう性格で、何でもはっきり言う人だった。


「実は、小学校の怪奇現象について調べてるんです」


「職業調べじゃなく、怪奇現象? この学校なら、有名な首切りカンタローのことかな」


「小学生の時にカンタローという名前は聞いたことがあります」


「ざっくり言って、昔ここの地域でヒーローだった少年がカンタローっていうらしいんだけど、その少年が斬首制度を辞めさせようとしたリーダーだったらしいの。でも、結果的に彼は戦いの末、相手のリーダーの首を切って制度を改革したっていう話もあるし、首を斬られて死んだという結末もあるよね。伝説だから、本当の所はわからないけどね。あの地蔵もカンタローのために創ったとか、そうじゃないとか」


 なんだか赤いスカーフのようなものをした地蔵が昔から建っている。普通より少年らしさを感じる地蔵で、多分カンタローをイメージして建設されたのか、彼の鎮魂のために建てられたのかは不明だ。


「カンタローについては、町内会長さんも詳しいはずだよ。歴史民俗や地域のことには抜群の知識量だから」

 教頭先生が優しくアシストする。


「久しぶりだから、校内見学する? メジャーなところだと、トイレの花子さんや音楽室の肖像画や真夜中のピアノの音、理科室の人体模型、美術室のオブジェなんかも一般的な七不思議よね。でも、うちの学校だとあんまりその手の噂は聞かないんだよね。それよりも、30年前に自殺したという少年の霊のほうが噂は聞くよ。こんなこと、教師が言ったらだめだと思うけど、子供たちは本気で信じてるし、少年が現れたって話も聞いたことはある。まぁ、小学生の言うことだけどね」


 先生は苦笑いする。たしかに、教師が悪い噂を広げるわけにはいかないし、卒業生の霊を怖がるのもよくないような気がする。


 音楽室や理科室や美術室は児童が帰宅したため、閑散としており、どこかひんやりした空気が頬を伝う。体育館にも行ってみる。


「体育館の脇だったかな。たしか、少年が飛び降り自殺して落下した場所。だから、あまり近づく人は少ないんだよ。しかも、校庭の奥に森があるでしょ。だから、余計不気味感があるんだよね」


 先生は手を自身の体に抱え怖がる素振りをする。


「自殺の原因はいじめとかですかね?」


「はっきりしたことはわからないけれど、自死または突き落とされたんじゃないかっていう話もあるよ。同級生は40歳くらいだし、この地域にまだ住んでいる人もいるかもしれないね」


「七不思議より怖い人間の仕業」

 ぽつりとなぜか言葉が出る。


「相変わらず、昔から悟った子供だったよね」

 先生が笑う。


「先生、当時の同級生の連絡先ってわかりますか?」


「町内会長さんなら横のつながりがあるかもしれない、かな」


 ここで、命を絶った少年はどうして、そうなってしまったのだろう。


「教頭先生経由で連絡してみてもいいよ。会長さんは、仕事も定年退職してるし、時間ある人だから比較的話は聞きやすいと思うよ。君たちが変わらず生きていてよかった。当たり前のことだけれど、そんなことを思うんだよね」


「先生も変わらず美人で何よりです。名字も変わっていなかったので、独身なのも俺としてはうれしいですよ」


 凛空のリップサービスは相変わらずだ。


「先生、もったいないなぁ。絶対モテると思うけど、独身なんですか?」


「独身なの、ばれちゃった? 先生も一応結婚しようと思える相手だっていたんだけどね。結果的に今は一人なんだよ。でも、死のうとは思わない」


 きっと、私たちは時間の流れの中でたくさんの経験をしている。でも、死のうと思う人はあまりいないと思う。でも、結果的に死んでしまう人はいる。それは、生物の定めとして仕方がないことだ。原因が病気だとか殺人だとか自死とか、それは何とも言えない。


「迷ったんだけれど、話しておこうかな。亡くなった少年の名前は北田寒太。都市伝説の男の弟と、実は私は知り合いなのよ」


「そうなんですか?」

 知り合いだと知られたくなかったから? 先程から町内会長経由でとか、たどたどしい言い方をしていたのだろうか。もう会いたくない元彼だとか? その人の心の傷にこれ以上塩をぬれないとか? やっぱりもう会いたいとか連絡をしたいとは思わないのかもしれない。これは、実際に大人にならないと、いや、当の本人にしかわからない感情かもしれない。


「北田翔太っていうのが弟なの。その人が私の元彼」


 一瞬驚いて口が開いたままになる。人は繋がっている。縁にいざなわれる。


「寒太君が亡くなった頃はまだ幼かったと思う。寒太兄ちゃんが12歳の時に、弟の翔太は7歳だった。5歳違いだったの。6年生の時に2年生だったかな。生きていたら、40歳で生きている弟は35歳。そして、翔太は私の同級生」


「都市伝説の弟の元彼女ってなんだかすごい。かっこいい」


「それを知っていたから、ずっと彼を支えながら仲良くしていたんだ。そして、大学を卒業したら結婚しようと思っていたの。でもね、変な噂がたっていたから、うちの親戚が反対してね。狭い町だから、自死の親戚は困るとか、幽霊が出るなんて気味が悪いとか、呪われるとか、マイナスな意見ばかりでね。結局、人が信じられなくなって、独り身で仕事に捧げる覚悟をしたってわけ」


「変な噂って?」


「少年の寒太の幽霊が出るとか、普通に町を歩いているのを目撃したとか。死んだ後に、何度もそんな話は出たなぁ」


「バケルじゃない?」


「それ、あるかもよ」

 凛空が答える。


「なあに? バケルって?」


「様々な者に化けると言われている妖怪なのかな。正体は不明だけれど」


「でも、化けて何か得することがあるの?」


「誰かを不幸にするとか、都市伝説を作るっていう説もあるよね。今、私たち、諸事情があって様々な怪奇を集めているんです。趣味とかではなくて、そうするしかないっていうか」


「事情は何となくわかった。たしかに、化けることで私の結婚話は破談になった。そして、町の子供たちをはじめとして大人たちまで怯えるようになったから、これはあながち間違っていないかもしれないね」


「弟さんに原因を聞いたことはないんですか?」


「知らないって言ってた。それに、いじめというはっきりした事実確認もできなかったの。大人になってからも調べたけれど、いじめた人は確認できなかった。もう昔すぎて、嘘をついてもバレないし、ただの事故だったのかもしれないし」


「でも、大人になってからも調査したなんて、ある意味凄いなぁって思います。もしかして、お兄さんのこと、好きだったんですか?」


「やだなぁ。そんなことないと思うけど……」


「思うけどって?」


「幼すぎて自覚がないんだよね。ただいいお兄ちゃんだった記憶だけ。ただ、一人仲のいいクラスメイトが急に転校したっていう噂は当時話題だったの」


「その人の名前とか居場所はわからないですよね」


「私は覚えているけど、すごく美人で寒太君は仲良くしていたから親友だと思っていたの。二人で屋上で遊んでいたこともあったし。どこに引っ越したのかも職員の特権で調べたけれど、古いからわからなかった。今はどこに住んでいるのかはもちろんわからない。もう外見も変わっているだろうし、結婚して名字も変わっている可能性も高いよね」


「屋上って立ち入り禁止じゃないんですか?」


「あの事故があってから、立ち入り禁止になったのよ。それまでは、生徒が入っても怒られない場所だったの。いじめで気になったことは……首斬りカンタローに名前が似ているから、からかわれていたっていう話くらいかな。いじめってほどじゃないけれど小学生ならばよくあるからかいだよね。もしかしたら、それが嫌で、彼は飛び降りたのかな……。そういえば、あの頃、動物が首を斬られる事件が多発していたから、不審者に対しても警戒していた時期だったなぁ」


「最近は動物の首が斬られる事件なんて、ここらではあまり聞きませんね」


「彼の死後ばったり動物の首斬りの死骸はなくなったの。そんなタイミングもあって、死後もあいつが首斬りカンタローじゃないかって小学生の間では噂みたいな半ば都市伝説になってしまったのよ。動物を殺め、ましてや首を斬るなんて到底彼にできるとは思えない」


「どんな人だったんですか? 写真とかあれば、見てみたいなぁ」


「寒太君の卒業アルバム見せようか。イケメンなんだよ。学級委員もしていたし、勉強もスポーツもできたんだ。完璧な少年だったよ」


 先生はどこか乙女のまなざしに戻っている。きっと無意識に好きだったのかもしれない。無意識な初恋に違いない。


「まるで俺みたいだなぁ、なーんてね。その美人さんの姿も見てみたいな」

 凛空は相変わらずどんな時も軽いマイペースな人間だ。


「転校した子は、卒業アルバムには写っていないけれど、遠足の写真とか引っ越す前の行事の写真には写っていると思うよ」


 古い卒業アルバムの保管部屋に通された。先生がおせっかいでおしゃべり好きなのが功を奏した。結果的に怪奇に近づくことができそうだ。


「卒業アルバムには寒太君は写っているんですか?」


「親御さんに配慮して、彼の居場所がここにあったという事実を残すためにあえて掲載したみたい。実際は卒業前に死んでいるんだけどね」


 色あせた卒業アルバムに写っているのは、たしかにかっこいい顔立ちのさわやかな少年だった。クラスの人気者だったのだろう。


「この美人な少女が付き合っていたという噂の彼女。遠足の時にはまだいたんだね。子供の時って親の都合で引っ越すこともよくあるから、仕方ない。たまに気になることを言うことがあったなぁ。俺にはたまにカンタローが見えるんだって」


「首斬りカンタローのこと?」


「すごくカッコいいって言ってた。実際の写真は残っているわけでもない伝説の人物でしょ。たしか、古い絵が伝承館にあったけれど、今時のアニメみたいな絵柄じゃないから、本当にかっこいいのかは微妙だよね」


「霊感が強いとか、子供ならではのイマジナリーフレンドみたいな、他人には見えない友達だったのかな? 大人になると見えなくなるっていうし」


「どんな感じだって言ってましたか?」


「髪が長くて、結んでいるんだって。目つきは鋭いけれど、端正な顔立ちで、赤いスカーフを巻いていて、着物姿が様になっているって。カンタローは人をどんどん斬ることに躊躇がない男の中の男だって言ってた」


「斬首制度をなくしたいっていうリーダーなのに? 首を斬るの?」


「革命のためには犠牲は仕方ないって。いつか自分も誰かのために革命を起こしたいと思うって言ってた。具体的にはわからないけれど、小学生の言うことだからね」


 風が吹き、落ち葉が頬に触れる。思わず目をつむった。


「怪奇魂を集めているのは君たち?」

 振り返ると卒業アルバムにいた少年が目の前に現れた。

 赤いスカーフが風になびく。

 もう死んだはずの、生きていたとしたら40歳。

 でも、目の前にいるのは6年生の少年だ。


「え? 翔太のお兄ちゃん?」

 先生は戸惑い固まった。反応が本気だった。


「そうだよ。たしかに俺は死んだ北田寒太だ。なんで俺が死んだのか、調べてるんだろ。そこにいる女が思い出す出すと困るから、記憶魂をもらいに来たよ」


「どういう意味だ?」

 凛空が問いただす。


 もしもの時、ネックレスには特別な力が宿ると聞いている。その力を信じて対抗するしか私たちに為す術はない。私たちは霊能力者でも霊退治をする除霊者でもない。ただの人間だ。霊感が強いわけでもない。ネックレスを思わず握る。つまり、お守りを握る感覚に近いと思う。


「俺は、首切りカンタローの生まれ変わりだった。何の因果か名前も寒太なんて名前だった。カンタローは正義のヒーローだったのかもしれないが、本当は凶悪性を秘めた男だった。実際生まれ変わりの俺がそうだった。動物を虐殺することに好感触を感じていた。最初は蟻を踏みつぶした時の高揚感だった。その程度なら、まだ誰にでもあるかもしれない。低学年の頃から、ダンゴムシをちぎり、ミミズを引きちぎる。蝶、クワガタ、カブトムシも殺った。しかし、次第に脳みそのない生物を虐殺しても、相手の反応がないことに不満を感じるようになった。中学年の頃は、カエルや魚、亀など、池の生き物を殺してみた。でも、何かが足りない。奴らには首がない。つまり、首を斬りたいと思ったんだ。高学年になった頃から、首のある生き物で手に入りやすい猫を手にかけてみた。野良猫ならば悲しむ飼い主もいないだろうと害虫駆除感覚でだいぶ殺めたよ。やはり、怯え苦しむ姿がないとだめだ。ある程度高等な脳みそがなければ、恐れを抱かない。そして重要なのは首だった。これは、カンタローが首を欲しているんだと悟ったよ。カンタローは悪のヒーローだったんだろう。悪い奴の首を斬ることで、世の中を恐怖で支配をするタイプのリーダーだ」


「それは、おまえの欲望だ。カンタローは関係ない」


「いや、俺はカンタローそのものだったんだ」

 風が吹くと北田寒太はカンタローらしき着物の長髪の美形に変化した。よく見ると、顔は、寒太のままだ。生き写しか生まれ変わりなのだろうか。


 一見残虐性が全く見えない笑顔と優し気な顔をしている。

 しかし、その手には剣と血まみれの人間であろう斬首を抱えており、その狂気じみた笑顔が怖い。残虐な行為を快楽と捉えるカンタローは悪意が全くない。血はしたたり、着物が汚れても全く気にする様子はない。血の生臭い匂いが鼻につんと来る。生まれて初めての感覚と悪臭だ。剣を愛おしそうに見つめていた。

 先生はそのまま腰を抜かしている。


「そこの女は北田寒太の犯した罪の記憶を持っている。今回お前たちが怪奇魂を回収し、記憶を奪ってくれないか」


「でも、先生は知らないって言っていた」


「きっと怖くて心の奥底にしまってしまったのだろうな」


「思い出したわ……。北田寒太は動物への虐待行為をクラスメイトのエリちゃんに知られてしまった。エリちゃんは虐殺行為をを見かけたとあなたに屋上で詰め寄ったの。どうしてそんなことをするのか。親友としてだまっていられないと。二人は、屋上で揉み合いになった。更に、あなたはエリちゃんの首を絞めようとした。それを目撃した私が、あなたを突き落とした。あの時代はフェンスがなくて、簡単に飛び降りることができるくらい安全に配慮されていなかった……」


「本当は人間の首を斬ってから死にたかったんだがな。この女はのうのうと生きている。本当はお前を殺したかったんだが、これは同級生のエリの生首だ」


 よく見ると、まだ殺したての女性らしき首だった。血の色は思ったよりも黒い。滴っている感じからいくと、時間はそんなに経っていないようだった。


「正確に言うと、こいつが今日、死ぬことを知っていた。だから、時空を移動して、首を刈ってやったんだよ。残念な最期だったな。かつてのクラスで一番の美少女も一人暮らしの独身だった。孤独死だ。28年前の屈辱を果たすべく、首だけもらってきたんだよ」


 声が徐々に甲高く大きくなっている。確実にこの人は楽しんでいる。

 目は見開き煌々と光っている。絶好調で人生の最高潮の場所にいるかのような表情だ。斜め上から見下ろす首を見つめる少年は今まで見たことがないくらいの狂気に満ちていた。


「君たちの今日見たことは幻覚だ。もう死んだ人間が何しようと罪にならない。生きていた時のことを知っている人間のほうが厄介だ。記憶だけ奪ってその女は斬首せずこの世界に放置してやる。お前らは怪奇魂だけ集められればいいんだろ。この後、まだ独身の弟が来るように手配をしている。もうだいぶ時間が経っている。あいつもまだ独身だ。その女と夫婦めおとになればいい」


 そう言うと、ケラケラケラと笑いながら、記憶を奪い、怪奇魂がネックレスに吸収される。そして、カンタローこと寒太は風と共に消え去った。


「冷たい風だったな。夏だからまだいいけど、冬だったら結構きついぞ」

 凛空が平然と言う。


「今、言うセリフってそこ? あの人、斬首人間を持っていたんだよ。しかも、かなりの悪趣味だし」


 先生が気を失っていた。

「大丈夫ですか?」

 すると、

「あれ、私、なんでここに来たんだっけ?」

 記憶はない。


「校舎見学ですよ」

「そうだっけ」


 振り向くと、35歳になった寒太似の男性が立っていた。

「翔太?」

「メッセージが入っていて屋上で待ってるって。ここは俺たちの思い出の場所だから。もし、今独身ならば俺ともう一度付き合ってほしい。君以上に好きになれる人に巡り合えなかった」


「ちょっと、元生徒がいるのに」


「あ、そうか。なんか必死で。今日、ちゃんと言わないともう会えないような気がして。俺、自分で会社立ち上げて、順調に経営してるんだ。もう親戚にも文句は言わせない。親ももう死んじまったから、家族はいないんだ」


 二人の独特の間合いが波長が合うっていう典型的な事例を示してくれているようで、悪人のカンタローは実は恋のキューピットで、ほんとうに悪人なのかどうかもわからない気がした。だから、ヒーローという伝説が残っているのだろうか。そして、兄としての寒太の弟への愛情はちゃんとあることも確認した。ダークヒーローとでもいおうか。


 これでまたひとつ怪奇魂が集まった。


「今回の奴は結構グロテスクだったけど、これを乗り切れば、後は何でも行けそうな気がする」

 怖がりの凛空が急に強気になる。


「たしかに、怪奇って意外とイケメンだったりするのも意外な収穫だ」


「お前はイケメンに目がないよな」


「でも、首を斬られるのは勘弁だからね」


 近い将来この二人の新婚生活が始まる予感がした。

 なぜだろう。あんなに残酷なものを見た後の爽快感が不思議だった。

 カンタローという怪奇は本当に得体が知れない。

 ただのサイコパスと言えば、否定はできないが。

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