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精霊に愛された子

作者: 睡眠羊子


ある若い夫婦には先月生まれたばかりの息子がいた。

長いこと夫婦には子宝が恵まれず悩んでいたが

気分転換に旅行に行くことにした。

アメリカの古い田舎町。

遠い親戚がいる家まで車をレンタルして走らせていたところに

ジプシーの老婆が道端でうずくまっていた。

足をひねってしまい、仲間たちのところに帰れないと困っていた。

まずは病院に連れて行きましょうと提案するが家に早く帰りたいとさめざめと泣くのでジプシーたちのもとに送り届けた。

ずいぶん遠くまで来てしまって夕陽も沈みかけていた。

ジプシーの家族たちには感謝されたが、

以前、親戚からはジプシーに関わるなと注意をされていたので

少し後悔していた。

助けた老婆は御礼に子宝に恵まれるお守りをあげようと

木と布で出来た手のひらぐらいある犬の形をしたぬいぐるみを渡された。

夫婦は一度も子宝に恵まれていない話などしていなかった。

気持ち悪く感じた夫は逃げるように車に乗りエンジンをかけ、

妻に早く乗りなさい!と声を荒げた。

妻はぬいぐるみを大事そうに持って、

老婆の話すことに真剣な目をして聞いている。

そして老婆が優しく腹を撫でた。

涙を浮かべながら妻はゆっくりと車に乗り込んだ。

夫はすぐ車を走らせジプシーたちともう二度と会わないように願った。

「いったい何してるんだ!そんな不衛生なものは捨てろ!」


「私、もうすぐ息子が授かるって。

健康で可愛くてみんなに愛される子供だって。」


妻は夢うつつな表情をしてぬいぐるみを大事そうに抱えている。


「でもね、あんまり可愛い子供だから5歳の誕生日に悪魔に連れ去られてしまうんだって。

でもね、息子が産まれた時に姿の見えない精霊が守ってくれるから

大丈夫。

毎日、必ず見えない精霊に感謝をしてお守りを大事にしていれば

悪魔から守ってもらえる。」

長いこと子供が出来なくて笑うことを忘れていたが

今は幸せように笑っている。

夫は妻が幸せならそれでいいと思い、

話を合わせることに決めた。

旅行から帰ると妻は妊娠していた。

つわりも無く、順調に育ち、一年後無事に出産した。

男の子だ。親の良く目では無く誰よりも可愛い赤ん坊で

すれ違う人みんなが微笑んでいる。

夫の仕事もうまく行き、家を建てること出来た。

近所にも恵まれ、全ては息子の天使のような愛らしさのおかげだと感じた。

妻は毎日、欠かさず朝晩祈っていた。

「精霊様、ありがとうございます。

おかげで毎日とても幸せです。

感謝しています。」

そしてぬいぐるみを綺麗な布で包み、

子供部屋に飾っていた。



息子はおもちゃには興味を示さず何もない空間によく笑いかけたり手を伸ばして撫でているような仕草をしていた。

医者に連れて行ったが何も問題はないと言われた。

このくらいの子供にはよくあることで空想の友達を作るが

成長と共に自然に止めるだろうと。


ある日、息子が笑いかけている何もない空間に名前をつけていた。「○○ちゃん、あそぼ。」

パパ、ママより先に初めてはっきりと言葉を発した。

夫は不気味に思えたが医者が言う通り一時的なものだろう。とため息を吐きながらも諦めた。

妻は違った反応だった。

「そこにおられるんですね!精霊様!」

そう言うと何もない空間に拝んでいた。

夫はゾッとして妻に言った

「おい、やめろ。

そんなことしていたら子供に友達が出来なくなるぞ。

母親のお前がいつまで夢をみていたら

この子の成長を妨げることになる。」

妻は夫の顔を見てみるみる般若のような形相になった。

「あなたはまだ信じていないのね。

精霊さまのおかげで子供が産まれて今までうまくいっていたのよ。

それなのにあなたときたら!

まだ分からないの!

いいですよ、信じなくて。

私が信じていますし、毎日感謝をしています。

邪魔だけは、しないでくださいね。」


その日から妻と夫の間には距離ができた。

月日が経ち5歳の誕生日を迎えた息子。

近所からたくさんの友人が集まり祝ってくれた。

息子のリクエストで庭でお誕生日会は開かれた。

相変わらず息子は見えない空間に話しかけているが見慣れてしまい何も感じなかった。

庭にメインのケーキを運んで来たのに息子がいない。

誰に聞いても見かけていないという。

妻は真っ青になり

「何故?だって守ってくれるんでしょう?」

手に持っていた食器を落とし、

庭に倒れ込み気絶してしまった。

夫は警察に電話をして、パーティーに来た友人みんなで息子を探した。

息子の友人のひとりが声をしゃくりあげ泣きながら言った。

「ついさっき一緒にいたんだよ。

手を繋いでいたんだよ。

突然、ぼくたちの影から真っ黒なものが出てきて

あの子を食べちゃったんだよ。」


ジプシーの老婆が言った言葉を思い出した。

あんまり可愛いから悪魔が連れ去ると言っていた。

近所に変質者がいたのだろうか。

ずっと狙っていたのだろうか。

頭の中が真っ白になり

もう何も考えられないと叫ぶ。

警察になだめられ、

捜索は真夜中になっても続けられた。



突然だった。

服を血で赤く染めた息子が家の前に立っていた。

慌ててかけつけたが傷1つ無く、血は返り血のようだ。

穏やかに微笑む息子の傍に

何もないはずの空間からは小さな吐息

香ばしい香り

尻尾を振る音


触ろうとすると手に柔らかな毛の感触

見えないがそこには確かに犬がいた。


悪魔が子供を連れ去り

見えない犬がそれを噛み殺し

助け出したのだ。




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