11.脱兎追う
ダン!!
読んでいた本もそのままに、扉に体当たりをするようにして図書館から飛び出す。日が昇りきる前の、朝のひんやりとした空気。まだ少し暗い。しかし、眠気なんて吹き飛んでしまった。
『申し訳ありません犬猫……』
「いや、その、ごめん……ッ! 今、和様区の方に向かうから!」
未だ通話を続けているスマホの向こうから弱ったようなネネの声がする。
『和様区の、我々の寝ていた宿周辺の方は隈なく探しましたが、見つかりませんでした……それに、我々が目を覚ました時にはすでに居ませんでしたから、もっと遠くに行った可能性が……』
「うッ、そでしょ! そんな……」
ぐらりと視界が揺れたような気がした。アモとネネの目をどう盗んで逃げ出したのか疑問だったけど、逃げ出したのがアモとネネが寝ていた時ってなら、何となく理解できる。同時に、もう近くにはいないかもしれないという絶望感に襲われた。
『犬猫は情報区を探して下さい!』
「え?」
真っ白になってしまった頭に、ネネの声が響く。
『もしかしたら、犬猫に助けを求めに出て行ったのかもしれません。我々は引き続き和様区を探します!』
「……わ、かった。お願い」
止まりかけていた足を動かし、ビルの隙間へと駆け出す。
「一度、縋さんにも連絡するからっ、一旦切るね」
『……分かりました、何かありましたらすぐ連絡致します』
「お願い、じゃあまた後で」
和様区方面へ向かって走り、通話を切ってビルの角を曲がる。和様区の宿周辺では見つからなかったとは言っていたけど、和様区だって広いし、こっちに向かってくるのだとしたら和様区の方向からだ。目星も何もないけど、闇雲に動くよりはいいだろう。前方を確認しつつ、スマホの画面を叩く。
「っは」
もう一つ角を曲がる。
『お掛けになった電話番号は、電源が───』
「……ッ、何でっ」
縋さんに電話が繋がらない。いつもは熟睡してても着信音が鳴ればすぐに起きるのに。もう一回。もう一回。もう一回……四回目の不在着信を聞いて、画面を閉じた。乱雑にスマホをポケットに突っ込み、漸く走ることに専念する。
建物の壁を押して強引に次の角を曲がる。さほど走ってもいないのに、心臓はドクドク鳴ってるし、息も上手く吸えない。
「っどこ、どこにいるの蛍朱!」
喉元に溜まった不安を吐き出すように叫んだ。声は朝の静けさに吸い込まれて消えていく。
「蛍朱!!」
黙ってたら不安で押し潰されそうで、自分の声が虚しく響くのもよそに、ひんやりとした空気の中叫び続けた。
「けいッ───!!」
次の角を曲がろうとした。その時、不意に足がもつれて、
「ぶッ」
そのまま正面の壁に激突した。軽く頭をぶつけた。咄嗟に手を回して防いだものの、勢いよくぶつかったせいで頭はじんわりと痛い。それでもさほど痛みを感じないのは、多分、眠いから。寝てないからなんだろうなと、適当に結論付けてそのままずるずると壁を伝って座り込む。
「はー……はっ……はぁ……っ」
……私のせい。誰が何と言おうと私が悪い。何かあって逃げ出したにしても、私に助けを求めようとして飛び出したにしても、私が最初から蛍朱の側に居ればこんなことにならなかっただろう。
「守るって、言ったじゃんかよッ……!」
自分を責める独り言。じゃらり、首元から垂れた黄色の石のネックレスを握りしめて歯を食いしばる。冷や汗が額を伝って落ちてくる。息が上がってしまって肺が痛い。でもそれ以上に、蛍朱を放ってきてしまった後悔と焦燥で今にも狂いそうになる。あぁ、またやってしまった。蛍朱、きっと失望しただろうな。
「はぁ……は、ぁ……」
……こんなことしてる場合じゃない。壁に手を当てて立ち上がる。頭をぶつけたせいなのか、軽い目眩がした。額に手を当てて緩く首を振る。ふらり、背を壁に預ける。とりあえず、自分を落ち着かせようと、ゆっくりと深呼吸をして額から手を下ろし、ゆっくりと目を開ける。まだ早朝の暗い空が目に入った。
「……探さ、なきゃ」
少し落ち着いた。そうだ、早く蛍朱を探さなきゃ。そう、黄色の宝石のネックレスを手の中で転がした。……案外、もう一人の蛍朱も、私と同じ思いで蛍朱のことを探しているのかもしれないと、同じく必死なんだろうかと、ふと考えて苦笑した。
絶対に見つける。ネックレスを握り、また周囲を見渡し……
「…………あ、れ?」
何か違和感を感じた。首元に下がるネックレスの、黄色の宝石。
「……光、ってる……?」
指先で摘んでその石を見る。どう傾けてみても、その石は淡く黄色く発光していた。
この石は、もう片方の石と一定の距離にいると黄色く淡く発光する。逆に、一定の距離を離れると、これは灰色になるはずなのだ。つまり……
「……近くに、いるの。蛍朱」
しん、と静かなビル群。返事は返ってこない。けれど。私はパーカーの帽子を脱ぎ、目を瞑って耳を澄ます。人気のない路地裏、まだ暗い早朝。静かな空気だけが流れている。そこに僅かに聞こえる生活音。大通りを行く誰かの足音。風が建物の隙間を縫う音。自分の鼓動。
───刃と刃がぶつかるような音。日常ではない確かな異音。
「見つけた」
方向を変え、そっ、と膝を曲げて背を屈め……瞬間、地面を蹴って前へと大きく走り出す。のも一瞬、もう一度膝を曲げ今度は上へと飛び上がる。
「はっ!」
ビルのほんの少しの窪みに片足を乗せ、もう片足で壁を蹴って近くの低い建物の上へと飛び乗る。右、建物の屋上の上を駆ける。息苦しい、マスクを外した。目前のビルの壁3m手前で体を屈め、バネのように上へ飛んで更に上に。目前の建物から縦に伸びるパイプに左手を掛け、垂直に壁を蹴って斜め右の屋上を狙って飛ぶ。空振った右手がコンクリートの壁と爪を削った。左手も届かない。なら屋上は諦める。目線を下に、ビルの窓。壁に足を置き体を丸め、その足で壁を押し出して、まるで壁でバク転するように空中で後ろに回って手を伸ばす。と、その下にあった窓の縁に指が引っ掛かった。がくんと重力によって落ちてきた自分の体を下へ落とさないように力を入れる。とん、と壁に爪先を当て体を支える。もう片方の足を振り子のように振って、
「ッ届け!!」
勢いをつけて隣の窓に飛び移り、指先だけで縁に掴まる。痺れ始めた指先の感覚を無視して、もう一つ、飛び移る。と、壁を蹴って反対側の窓の縁に飛び移る。休む暇なんてない。先程捉えた音が確かなら、もう一人の蛍朱と鉢合わせて戦闘になってるかもしれない。いや、なってる。僅かに耳に届く、刃と刃がぶつかる音は激しさを増している。
「間に合え……ッ」
もう一つ横の窓に飛び移る。ビルの角、伸びるパイプに手を引っ掛け、今度こそ斜め右へと飛び移った。
屋上、さぁっと広がった景色。黄色と青色の混じる朝焼けが遥か遠くに見えた。風に流された透明な雲が、綿のように空に浮かんでいた。目が覚めるような澄んだ空気も、息を呑むような綺麗な空も、今はどうでもいい。そんなことはいい。右方向、屋上の上。駆ける。ビルの上を飛んで移動していく。左、少し上の屋上に登って、更に前に飛び移る。
「間に合え……ッ!」
前、前、前へ。
「間に合え……ッ!!」
キ、と、ブレーキを掛け右へ向く。そのまま駆け抜ける。刃のぶつかる音と何かを叫ぶ声が聞こえるのは目前だ。縁に足を掛け、飛ぶ。
「間に合えッ!!」
ふわりと宙に体が浮いた。それも一瞬のこと。ぐ、と丸めた体は目前の窓のガラスを派手にぶち破って、建物の中へと転がり込んだ。降り注ぐガラス片も無視し、転がり込んだ勢いをそのままに、音のする方を見上げた。鎌を持った蛍朱、と、緑色の鉤爪を握るもう一人の蛍朱。
「蛍朱!!」
思わず叫んだ。蛍朱の体が、ビクリと跳ねた。振り返った蛍朱と、目が合った。瞬間。
ザシュッ
もう一人の蛍朱の刃が、蛍朱の腹を引き裂いた。後ろに蛍朱が倒れた、その向こうの、もう一人の蛍朱とも、同じく目が合った。
───どうして───
そう、声が聞こえた。
「───蛍朱ッ!!」
呆けている暇がないことを思い出した。走ってきた疲労と削れた爪の痛みなども忘れ、その足を動かして蛍朱の元へと駆け寄り、上体を起こして抱き上げる。
「蛍朱! 蛍朱、ねぇあ、治療……!」
「…………」
それでも避けたんだろう。致命傷というわけでも無さそうだ。でも、でも。大きく引き裂かれた腹部から温かい血が溢れ、それが私の手、腕、胸、腹、膝……私の体を伝って染み込んでいく。血の染み込む温かさとは反対に、私の背筋は、指先は、凍っていくようだった。
「……ッ、とま、って」
「…………」
ビビってる暇もない。片手で蛍朱の背中を支え、もう片手を傷口の上へ翳す。キュア、そう唱えれば、手のひらから淡い光が漏れ出て傷口を、流血を少しずつ止めていく。しかし、蛍朱の顔色は悪いまま。
「ぉねがぃ、治って……」
「…………ぁ」
焦る。手が震える。間に合わなかった。間に合わなか
「けん、びょぅさ、ん。きて、くれたんですね」
その声に、息が詰まった。心底安心したようなその顔が、その目が、私の目を覗いている。何で、
「ぁたし、しん、じゃうかとっ、おもぃました」
まだ私を信じてたの。何言ってるの。私に失望しないの。蛍朱を、置いていったのは、私、なんだよ……?
「ばかじゃないの……蛍朱」
不意に私の口から漏れたその言葉に、蛍朱はただ力なく笑った。馬鹿じゃないよ、最初っから助けに来てくれるって信じてたのは犬猫だけだもの、って。
「……そっか」
……分かったよ。
す、と私の手のひらから漏れていた光が止む。傷口がちゃんと塞がったからだ。疲労からか、すっと目を瞑る蛍朱を、ゆっくりとその場に寝かせて立ち上がる。目前にいたもう一人の蛍朱が、はっとしたようにこちらを見る。と、不気味な笑みを浮かべた。
「はっ、マヌケが助けに来たってか? 可哀想だなァ、もうちょいまともな奴が助けに来たら、トドメなんて刺されずに済」
もう一人の蛍朱が、何か言い切る前に後ろの方へと吹き飛んでいく。呆然としたもう一人の蛍朱の視界に映ったのは、自分を突き飛ばした私の両腕だろう。背を屈め……床を蹴ってもう一人の蛍朱へと飛び出す。起き上がろうとしたもう一人の蛍朱の胸倉を掴む。
「なっ!?」
バランスを崩し、狼狽えるもう一人の蛍朱を引っ張って無理矢理立ち上がらせ、
「おぶっ!!?」
その腹へ拳を叩き込む。再び後ろに倒れ込んだもう一人の蛍朱。もう一度殴ろうと拳を振るったが、空振り、強く床を殴った。緩やかに手に流れる鈍痛を無視してもう一人の蛍朱を睨む。拳が当たる前に、もう一人の蛍朱が転がって避けたのだ。流石に二度目は無理か。起き上がり、漸く状況を理解したもう一人の蛍朱の頬を汗が伝う。
「マヌケって言ったか」
あの夜と同じ、淡く光を帯びた剣が私の手に握られる。
「今度は」
睨む私の眼に、もう一人の蛍朱が眉を寄せる。
「私の番だッ!!」
ダンッ!!
床を思い切り蹴ると、そのまま剣を振り下ろす。
ガキッ!
もう一人の蛍朱が片方の鉤爪を前にして剣を防いだ。ぐいっと鉤爪を傾かせ、剣の動きを制限されると共に、もう片方の鉤爪を開いて引き裂くように真っ直ぐ突かれる。直ぐ様剣を消滅させ、身を捩って避ける。鉤爪が私の腹の横の空間を切り裂いた。剣を持っていた方の手のひらを開き、その中心に熱を集めると、それは火炎の玉となった。それをもう一人の蛍朱目掛けて放つ。
「ちッ」
ボシュ、と音を立ててもう一人の蛍朱の肩へと火炎は飛んでいき、その肩を焼き、その勢いのまま後ろの方へと飛んでいく。かろうじて避けたみたいだけど、焼けた服の下の肌は焼け爛れていた。服に燃え移った炎を、強引に手で払って消していた。
「くそっ!」
焼けた肩を庇いながら、こちらを牽制するように鉤爪が振るわれる。その額から、頬を伝って冷や汗が流れていく。強い焦燥感。それがはっきりと見える。冷静になろうとしているみたいだけど、そんな暇なんて与えない。後ろに素早く飛んで回避すると共に、今度は両手に風を集め……
「ふッ!」
勢いよく両手を振るう。突風のように放たれたそれは拡散し、風の刃となりもう一人の蛍朱の方へと飛んでいく。咄嗟に両手の鉤爪を交差させて防ごうとするも、その隙間さえ縫ってもう一人の蛍朱の体を風が引き裂いていく。吹き荒れる風と共に、もう一人の蛍朱の血が舞っていく。
「ッ、てめぇなんかに!!」
焦った様子のもう一人の蛍朱が、吹き荒れる風の刃を、未だ斬りつける風を無視してこちらへ突進してくる。その両手の鉤爪は開かれており、両側から私を引き裂かんと迫ってくる。再び現れ、私の手に握られた剣を後ろへ引き、もう一人の蛍朱の間合いに入る寸前。そのまま前に踏み出し刺突した。鉤爪が私の背中へ伸ばされた瞬間、深々と、剣はもう一人の蛍朱の腹を突いた。大きく見開かれたもう一人の蛍朱の目を見た。目が合うと、困惑の色を帯びた目で睨んでくる。まさかここまで一方的にやられるなんて思ってなかったんだろう。悪いけど、何考えてるか、私には分かる。読める。
「ッ、やられて堪るかよ!!」
そう叫び、鉤爪を私の背後まで伸ばして交差させ、
「んぐッ」
私の腹を蹴り飛ばして後ろへ吹き飛ばしたのと同時に、私の背後で待っていた鉤爪に背中から脇腹までを引き裂かれた。肉が裂かれ、鉤爪がまた血塗られていく。痛みに顔を顰める。が、それ以上に痛い思いをした蛍朱に比べればなんてことないし、怒りで痛みなどほとんど感じなかった。その背中を丸め、受け身を取って素早く立ち上がる。まだまだ動ける。それに、負けるわけにはいかない。
その執念が、更に痛覚を麻痺させていく。痛みを感じないというのは、戦闘においてあまりよろしくない。よろしくないが、そんなものどうだっていい。例え死んだとしても、蛍朱を守り抜く。この感情は、あの時置いていってしまった蛍朱への、後悔と償いのつもりなのかもしれない。動ける限り、動くんだ。
前へ飛び出す。もう一人の蛍朱が、両手の鉤爪を開いてこちらへ飛び込んでくる。私も剣を構える。
ガンッ!
力任せに振り下ろした剣が、片手の鉤爪を叩き落とす。ガツンという、刃が床にぶつかる音。呆気に取られたもう一人の蛍朱へ、ぐいっと接近する。振り下ろした剣を、今度は下から上に振り上げる。微かに上に弾いたが、もう片方の鉤爪に防がれる。薄く笑ったもう一人の蛍朱と目が合う。けど、それでいい。これなら顔に手が届く。瞬時に、剣から手を離してもう一人の蛍朱の顔近くへと手のひらを向ける。手から離れた剣が落下と共に消滅する。
「フラッシュ!」
「ッ!!?」
その剣が地面に落ちる寸前。眩いばかりの閃光が、目を突き刺すような光が、この建物全体を覆った。その光が収まった時、目を覆うもう一人の蛍朱の姿が目に入る。手を伸ばし、無防備に空いた胸倉を掴むと思い切り体当たりをする。
「ぐぇッ!」
そのまま、強く押し倒して地面に叩きつける。捕まえた。
「んなッ!!?」
胸倉を掴んだ手のひらを中心に、金の糸のようなものが放たれ広がり、もう一人の蛍朱を乱雑に拘束していく。両手で私の腕に掴みかかり、何とか引き剥がそうとするような、そんな暇さえ与えずに。それはもう一人の蛍朱の動きを制限していく。
「……ッ! くそッ!! くそがァッ!!」
ふらり、吠えるもう一人の蛍朱から手を離す。暫くは動けないはずだ。どんなに藻掻いたとしても、その糸は簡単には放してくれない。そこまで頑丈ではないが、人ひとり拘束するには十分な魔法だ。
全て、不意を突いたつもりだ。もう一人の蛍朱の私のイメージは、以前戦闘になった時そのままだったのだろう。完全に私のことを舐めていたはずだ。そのお陰で、私はここまで優位に立って動けたのだと思う。
「……っ蛍朱」
そうだ。蛍朱は……!
「蛍朱ッ!! 無事……っ!?」
傷口は塞いだとしても、完全に回復は出来てないはずだ。もし、何かの理由で傷口が開いてしまったら大変だし、大怪我で体調を崩してしまっているかもしれない。そう思い、急いで振り返ろうとした。
ザシュ
その瞬間。何かが、肉を引き裂いたような音がした。今、私は剣を持っていない。私じゃない。もう一人の蛍朱の方を見た。未だ倒れ糸に絡まったままだった。
「…………え」
飛び散った血。それは、自分の血だった。あぁ、もう、蛍朱の血を浴びていたから、気付くのが遅くなってしまったけど、今吹き出ているのは、私の、血。
振り返った先、虚ろな目をした蛍朱と目が合った。その手に握られた鎌には、私の、今ばかり付着した血が、べったりとくっついていた。
「けい、す?」
独り言のように呟いて、ぐらりと膝から崩れ落ちた。辛うじて上体を起こし、斬られた自分の体を見た。ざっくりと、背中から脇腹まで。出血なんてもんじゃない。ドクドクと、私の脇腹から血が吹き出る。死ぬかもしれない、そんな思いよりも、あぁ、やっぱり、怒ってるんだね。蛍朱。ごめん、ね?
「っはっはぁ! よくやった!! よくやりがったお前よォ!!」
意識が飛びそうな中、もう一人の蛍朱が興奮気味に笑う声が聞こえた。やけに嬉しそうだな。あぁ。もしかしたらさっきの糸の魔法、切れちゃったかもしれない。そっちに、意識を割く余裕が、無かったな。
「そのまま殺れ!! 殺せ蛍朱ゥ! 今度こそ自分の手で殺せェ!!」
虚ろだった蛍朱の目に、感情が戻っていく。カラン、と私の血に濡れてしまった鎌を落とし、髪を掻き毟って首を振る。みるみるうちに、その顔が青褪め、大きな瞳から涙がぼろぼろと落ちていく。ぼやけていく意識の中に伝ってくる蛍朱の感情。痛い、痛いね。ごめんね。ちゃんと治療しなきゃね。
けい、す。
その腕を、手を蛍朱へ伸ばす。大丈夫だよって、私は平気だから。しかし、それは蛍朱に届く前にだらりと垂れ、ぐらりと視界が回って自分の体は床に叩きつけられた。びちゃり、と自分の流した血溜まりの血が跳ねる音と、薄れていく意識の向こう側で、蛍朱の苦しげに泣く顔が見えた。
ごめん、ねぇ。
「全く」
意識が沈む中、ふと、声が聞こえた。
「犬猫は不器用ですねえ。ねぇネネ」
「はい、アモ」
一ヶ月に一度投稿できればいいなぁと呑気に構えてたら2ヶ月経ってました。時間の流れって早いんですね……
つい最近まで最大文字数が7千だと思ってました。7万だったんですね……ちゃんと確認しろよと思いました。ついでにtwitterで次話投稿の報告の時に貼られるURLは一話ごとじゃないことに気付きました。ちゃんと確認しろよと思いました。
当分予定が無いということで! 執筆に専念出来そうですね! 次投稿は一ヶ月以内がいいなぁ……(願望)




