摂津国分寺
長柄橋を渡ったところは大きな柴島浄水場のようだった。その向こうに街が広がっている。
浄水場の一角に神社が見えていて、行ってみた。
今では世話する人もいないのか、さびれて、ぼろくなって、それでも辛うじて神社として存在していた。
これだけ多くの車、多くの自転車が通っても知らんぷりされている、都会の中の孤独死を迎えようとしている神社のように思えた。
堤防を東に歩いて行った。新大阪駅は北西にあるけれど崇禅寺は北東にあった。このあたりは初めてで、土地勘もなくて適当に歩いた。
堤防の下には淀川ゴルフクラブが見えて、こんな街中にゴルフカートがいるのもなんだか珍しい光景だった。
途中、柴島中学校の東側の道に入っていって北上。古そうな感じのする地域なのだけれど、萬福寺なるお寺には「当たり屋出没 注意」なんてポスターが貼られていた。
歴史の散歩道の舗装があって、法華寺が現れた。浄水場あたりから移転してきたお寺らしい。摂津国国分尼寺伝承地なのだって。
柴島駅の横で踏切を越えた。阪急電車千里線だった。京街道散歩で通った阪急と同じく、ここも立体にする工事中だった。
淀川キリスト教病院と柴島浄水場の間を進んでいき、また踏切を渡った。これは阪急電車京都線。ここも同じく工事中。
前方に道が二股に分かれて、右側へ。
かなり廃れた通りだった。集合住宅の下にお店が連なっているのだけれど、ほぼ全て閉店していた。
「お！ 市営飛鳥住宅じゃないか」とおかあさんがつぶやいた。少し前にニュースを騒がせていたらしい。
墓地があり、啓発小学校なんて珍しい名前の小学校があった。論語からとったんだって。
そして少し奥まったところに寺が現れて、崇禅寺だった。
相当大きそうな寺だった。光善寺と同じように、寺が１つの国みたいなものだった、というのがちょっとわかるような大きさ。けれど光善寺と同じように、檀家さん以外はお断りという感じが漂っていて、中は見られなかった。
歴史も古く、行基開基と伝わるんだって。
下克上を象徴する出来事の、赤松さんが将軍足利義教を殺してしまった（この将軍は高圧的で残忍で、恐怖政治を行っていたみたい）事件の時には、将軍義教の首をこの寺に放置していったそうだ。
京都二条の赤松邸で殺害し、地元の播磨の城に戻る途中のことだったらしい。でも「首級は返した」らしいから、ただの言い伝えなのかな。
細川家の菩提寺でもあったらしく、ガラシャの墓もここにあるのだって。
細川ガラシャって明智光秀の娘のたま子さんだそうだ。有名みたいだけれど、わたしは知らなかった。
戦国時代、大名の細川さんと結婚していた。細川さんはたま子さんを愛していて、明智光秀がだいそれた反逆行為に出て殺された後も、蟄居というかたちをとって守ったそうだ。
たま子さんはバテレンが迫害される時代にあって、密かに信者となった。そしてその後、関が原の戦いに向け、人質をとって味方を増やす作戦に出た石田三成（細川さんとは敵対）の人質にされそうになり、死を選んだ。
辞世の句が「散りぬべき 時知りてこそ世の中の 花も花なれ 人も人なれ」
細川家の大阪屋敷において亡くなったらしい。
屋敷は玉造にあったそうだ。大阪城三の丸だった玉造には、当時、大名屋敷が建ち並んでいたのだって。
大名の家族たちを住まわせ、人質としていたんだとか。浅野さん、前田さん、島津さん、宇喜多さんなどの屋敷があったそうだ。
それから中島惣社が現れた。
地元と密着した感じの神社で、赤い鳥居が遠くにも見えていた。「日支事変」の碑なんかもあった。
惣社は総社と同じで、地域内の神社をまとめた神社のこと。
平安時代、国司が任地国に赴任してきたとき、国の神社を順に参るのが習わしで、それを簡略化するために国府の近くにまとめられたのが総社ということだったけれど、この中島惣社はそんな古い時代の総社ではなく、明治時代の合祀令で中島地域の神社をまとめたものとされている・・・のかな。
けれど江戸時代より前の時代にも惣社という名前だったみたいで、６５２年には名前は違ったのだろうけれど既にあったらしい。
国府の近くに総社、あと、国分寺や国分尼寺も比較的近くにあることが多かったみたい。
摂津国の総社はどこにあったか不明らしい。難波神社かも？と言われてはいるみたい。難波神社は反正天皇のときの創建で、元は松原市にあったのだって。反正天皇は宮も松原市にあったからな。そして平安時代には上本町あたりに移転。今の難波近くに移転したのは豊臣秀吉のとき。
国府は時代によって場所が変わったりもしているみたい。それならば総社もかな。もしかしたらここも一時摂津国総社だったことがあったのかもしれない。国分尼寺伝承地の法華寺もあるし。
国分寺推定値は寺田町あたりにもあった。その頃の総社が上本町にあった難波神社だったのかも。
今回の散歩で、淀川天神社に行ってみようと都島通りからちょっと寄り道して行ったのだけれど、そこにも国分寺推定地があった。
淀川天神社は天六（天神橋筋6丁目）あたりの国分寺というところにあって、近くには正徳禅寺（近代的だった）と鶴満寺（古くて立派だった）、そして国分寺があった。あたりはすっかり都会で、神社も寺もその中に組み込まれている感じだった。あまり古さを感じさせなかったけれど、割と最近に変わっちゃったのじゃないかな。
淀川天神社は行基開基と伝わるそうで、祭神はアメノホヒ。
アメノホヒの子孫に野見宿禰がいて、相撲が強くて出雲から呼び寄せられ、古墳に埴輪を並べることを１１代垂仁天皇に提言して採用された。子孫は出雲国造や土師氏や菅原氏になった。菅原道真も子孫の一人ね。
近くの国分寺には「大本山国分寺」とあった。元々、道昭（遣唐使として唐に行き、三蔵法師に師事した人で、行基の師）が建てた長柄寺にはじまるらしく、聖武天皇が国分寺をたてるよう勅令をだしたことにより摂津国国分寺になったと伝わるそうだ。
寺田町あたりの国分寺とここ、両方が摂津国分寺の推定地になっているらしい。
こちらの国分寺は戦後に独立し、「真言宗国分寺派 本山国分寺」を名乗るようになったんだって。
門前には「大界外相」と彫られた石碑。聖なる境内と俗界を隔てているんだって。
快圓律師の名があって、この人が夏の陣で燃えてから忘れられていた長柄国分寺を再興したんだそうだ。
中島惣社から新大阪駅に歩いて行った。
けっこうすぐにJRの駅は見えた。でも、地下鉄の駅がどこか分からなかった。JRにしても、だだっ広い施設の中、どこから入れるのか、なかなか分からなかった。
地下道はモグラの穴みたいにあったのだけれど、入って行っても違う穴から出るだけだった。案内も一切なかった。
見えているんだから分かるでしょ、というのかな。でも施設は広すぎて、どこがどこだか分からず、ぐるぐる歩き回って疲れた。
新大阪に詳しい人しかやってこないと思っているかのような、最近の都会には珍しい不親切さだった。
やっと小さな地下鉄新大阪駅への入口にたどり着き、地上にあるプラットホームへ。
地下鉄だけれど、淀川あたりから北には地上に出て走るから。窓の外はビルだらけで、温度表示の電光掲示板が見えた。２５度。素敵な気温だったけれど、無駄に歩きすぎたから暑かった。
