第9話 疑問
「はぁ~っ」
正門付近の段差に座り込み白い石壁に凭れたアリエスは、深く長い溜息を吐く。
見上げた先に青く澄んだ空が見える。
白砂漠に囲まれた街だが、〈ニュークリアス〉の制御下に在る限り砂漠に呑み込まれてしまうこともない。
すっぽりと不自然に切り取られたように、このコアデザートの空だけは砂塵が避けて通り過ぎるのだ。
紺碧の空を見上げて、アリエスは過ぎ去った記憶に心を飛ばしていた。
――明日、かぁ。
まだ十五歳。
たったそれだけしか生きていない。
いや、心臓病で入院生活が長かった分、本当にのびのびと過ごしたのはここ数年だけ。
〈ニュークリアス〉の制御装置を組み込むのを条件として、人工心臓の手術を受けてからのほんの短い間。
(どうしてだろう……)
疑問は尽きない。
今まで幾度となく抱いた疑念。
こんなことになるならば、心臓の手術など受けなければ良かったとさえ思えてきてしまう。
何故大切な制御装置を人体に植込む必要があったのか。
それ以前に、絶対的信頼性を誇るはずの〈ニュークリアス〉を制御する機器などがどうして存在するのか。
そう疑問を抱いた。
しかしその問いに、手術を執刀したインジバ博士はこう答えた。
『完璧な存在というものは、より完璧を目指すもの。だからこそ、時には不完全な状態に戻さなくてはならないこともあるのだよ』
どんなに優秀であったとしても、機械は従順でなければ意味がない。
高度な機器ほど、完璧を求めるあまり人間にとって都合の悪い論理を打ち出してしまう可能性があるのだ。
故に、万一その時がやってきたならば、敢えて制御装置を用いて再構築する必要が出てくる。