第7話 核磁気共鳴
分かっている。
スウィンザが諭す通り、下調べをせずに街へ踏み込むのはとても危険な行動なのだ。
この半年の間、いろいろな経験を積んできたアリエスは、当然その重要性を理解している。
彼に改めて問われる必要もない。
何よりも、自分の命にかかわる問題なのだから。
実際のところ。
今まで訪れた街の中には、核磁気共鳴による全面干渉を受けている場所がいくつかあったのだ。
人口心臓を植込まれているアリエスにとっては、そんな場所へ生身で近づくのは危険極まりない行為。
最悪の場合、共鳴に取り込まれた瞬間に人工心臓が誤動作を起こしてしまう可能性もある。
その場合、当然のことながらアリエスの生命は保証されない。
結局そういった場所では、スウィンザに電磁キャンセラ波を発動してもらい、彼からほどんど離れることはできなかった。
アリエスのように人造器官によって生かされている者にとっては、電磁波による干渉は絶対的に避けなければならない。
故に、スウィンザの疑問は至極当然と言えた。
死に恐怖を示さない生物など存在しないのだと、彼の人工知能にはインプットされている。
もちろんアリエスにも異論などあろうはずはない。
――けれど、それももう……。
「恐くてもいいよ……。どうせ明日、わたしは死ぬんだもの」
命の刻限を決められているとしたら、そんな本能は無意味だろう。
恐怖に様々な種類があるとも思えない。
今安全を確認してもらったところで、迫り来る〈運命〉は決して遠のいてはくれないのだ。
項垂れるように、力なくアリエスは視線を落とした。
が、AIであるスウィンザが、彼女の気持ちを汲んでくれるはずもなく。
「そうです。あなたにはもうすぐ死んでいただきます。しかし、明日までは生きていていただかないと私が困ります」