第45話 自己犠牲
「聞いてください、アリエス」
彼の声が祈りに聞こえる。
「昨夜、もしもあなたが〈黒〉を選んでいたならば、私は違う歌を歌いました。……最愛の少女を失ってしまった天使は、悲しみのあまり最後には人間を根絶やしにしてしまう。そんな歌を――」
あの歌に自分自身を重ねていたのだろうか。
永遠の命を持つという天使の姿に。
「黒は〈破壊〉。しかし、あなたは白を選んだ。インジバ博士によると、白は〈破滅〉を意味するそうです」
破滅。
破壊ではなく、自己犠牲。
だからスウィンザはあの歌を歌ったのだ。
天使が己の命を犠牲にして、愛する者を生き返らせたという歌を。
「私もあなたと同じです。あなたと旅に出る直前に、私も博士に選択を迫られた。そして選んだのです、あなたと同じ色を」
自嘲……なのだろうか。
スウィンザの微かな笑みは、己を嘲笑っているようだった。
「私には心臓がない。けれど白を選んだ私に、インジバ博士はそれに代わるものを植込みました。その時から、既にこの結末は決まっていたのでしょう」
シナリオは最初から決められていた。
あの狂博士によって二人は踊らされていただけ。
スウィンザが自我を持つことですら、きっと彼の予想通り。
そう浅く笑いながらスウィンザは己の胸へと手を当てた。
「まさか――スウィンザ……」
アリエスの人工心臓と同じ制御装置。
それがスウィンザの中にも。
「あなたの代わりに、私の中にある制御装置を取り付けます。成功すれば〈ニュークリアス〉は一時的に全機能を停止するでしょう。そして初期化のあと完全に再構築が終了するまでは、世界は原始に戻ってしまいます。この施設も暫くは機能しなくなるはず……。ですから、アリエス――」
再びアリエスの腕をスウィンザが掴んだ。
「あなたはすぐにここから脱出してください」




