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第44話 尊重

 もどかしい。


 どう伝えたらいいのだろう、この気持ちを。



 今にも新しい涙が零れ落ちてしまいそうなのを必死に堪え、アリエスは血が滲むほど唇を噛み締める。



 アリエス自身、ずっとずっと疑問に思っていた。



 中枢演算処理装置ちゅうおうえんざんしょりそうち〈ニュークリアス〉。


 偉大な誰かが作った恒久的信頼性を誇る素晴らしい女神。



 彼女の暴走をどうして何の力も持ち合わせていない自分が止めなくてはならないのか。


 責任を取るべき人間は他にもいるはずなのに。


 そんな理不尽な運命を幾度も幾度も恨んだ。



 だから正直、スウィンザの気持ちは嬉しい。


 本当にアリエスのことを誰よりも大切に思ってくれている。



 AIなのに、自分を守るために自我を持ってくれた。


 そんな奇跡を喜ばないわけではない。



「だけど、スウィンザ……わたしは……」



 何を言おうとうまく説明できる自信はない。


 理屈じゃないと叫んだところで、スウィンザに通じるわけはないのだ。



 アリエスの脳裏を絶望が掠めていく。



 その時。


 ふっとスウィンザの腕の力が緩んだ。



「……分かっていますよ、アリエス。あなたは私を嫌ってはいない。あなたは、いろいろなことを考えて、ずっとずっと苦しんで、その果てに決断したのですね」



 全てを悟ったかのように。


 彼が儚げに微笑んだ。



「ごめ……ん。スウィ……ンザ」



 所詮アリエスは平凡なひとりの少女にすぎない。


 だから今までの短い人生の中で、自分の代わりに世界が滅亡するなど考えたこともなかった。



 スウィンザと共に自分ひとりが生き残る、そんなシナリオを考えつくはずもない。


 けれど今、その瞬間に直面して。



 自分の胸に込み上げるのは、やはり世界を愛おしいと思う心だった。


 守らなければならないと思う純粋な気持ちだった。


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