第43話 痙攣
自分の息が止まったのか。
それとも時が止まったのか。
それすら今のアリエスには判別できなかった。
これが彼が望んだ世界。
誰もいない空白の世界。
そんなの――。
「い……いや、いやぁぁぁああああ!」
瞳をきつく閉じ、両耳を塞いで叫んでいた。
言葉にならない叫びをあげるアリエスを見て、淡い青色の瞳が戸惑ったように揺れる。
「アリエス、何故ですか?」
動揺するスウィンザの手が小さく震えていた。
握られたアリエスの腕へと不安げに伝わってくる。
彼の心は混乱し収拾がつかなくなっていた。
まるで母親に置き去りにされるのを恐れる子供のように。
「答えてください、アリエス。私はあなたを傷つけない。私はあなたを裏切らない。私はあなたを殺さない。世界があなたを殺そうとするならば、私が世界を殺します。あなたを守るのはこの私だけ。それでは、あなたは幸せになれないのでしょうか?」
――そうじゃない。
そうじゃない!
「分かりません。理解できません。私には世界よりあなたが大切なのに、あなたは世界の方が大切だというのですか?」
何かを言わなくてはと思うのに、喉が引き攣れてしまって声が出ない。
苦しくて、悲しくて――。
ただただ頭を振ることしかできない。
「私の想いなどどうでもいい? アリエス、あなたは……私が嫌いなのですか?」
「……がう!」
やっと出た声はひどく掠れてしまって、彼に届いたのか分からなかった。
けれど今は曖昧にしてはいけない。
ちゃんと否定しなくては。
だから痙攣する喉に力を入れて、アリエスは渾身の思いで叫ぶ。
「違う……違うよ!」
ずっとずっと彼の傍にいたいと願ったのは自分の方だ。
今だってそう思っている。
「あなたが好きだよ、スウィンザ! だけど、だけど……」




