第38話 使命
そんな無機質な円形の部屋に視線を這わせていたアリエスだが、突如、中央にある大きな装置に目線を縫い付けた。
「これが……制御装置の……」
直感だった。
けれど間違いないと思った。
すっきりと余分なものなど見あたらない部屋の中で。
この装置の一部分だけが異色を放っている。
真っ赤なスイッチ。
白い空間にたったひとつだけ。
緊急時にのみ使用される存在であることを物語っていた。
「確かめなきゃ――」
伸ばすアリエスの腕がふるふると震えた。
「もう覚悟を決めたんだから」
恐怖を勢いで拭い捨て、思い切りスイッチを押してみる。
途端に小さな扉がスライドし、中から精密機器が現れた。
この白一色の空間にはひどく似合わない、生々しい機械が内蔵のようにアリエスの視線に触れる。
そして――見つけてしまった。
配線と小さな部品がひしめき合った状態。
そんな中にぽっかりと口を開けている空間。
何かを組み込むためのスロットのような場所。
それがだいたい人間の心臓と同じくらいの空間に見えるのだ。
――ここに、わたしの心臓を。
「あ、あああああああああぁっ!」
思った瞬間、アリエスの足が震え出す。
左胸に手を当て、ガクッと床へと崩れ落ちる。
「いや、いやぁぁぁ!」
恐くて恐くて仕方がなかった。
頭では分かっていても、身体は現実を受け止められない。
この恐怖の前では、制御など不可能だ。
「助けて、スウィンザ……」
彼が来たらその時こそ悪夢が現実となる。
彼は死神、決して天使などではない。
それなのに、
「スウィンザ……お願い……」
アリエスは彼の名前を呼ぶ。
「ス……ウィンザ……」
矛盾している。
心が衝突している。
でもそれが真実。
自分には彼しかいないのだ。
そう思い至った時。
アリエスは咄嗟に悟った。
「わたしは……スウィンザを……」
彼だからいいのだ。
単なる使命だって何だっていい。
AIだって関係ない。
彼がアリエスを必要としてくれる。
だからこそ、自分はここへ来た。
死を受け入れたのだ。
「お願い、傍に……いて……」
――スウィンザ、永遠に。
強く自分の肩を掻き抱き、アリエスは何度も何度もその名を呼んだ。




