第37話 白い部屋
鈍い音を響かせ徐々に閉まっていく扉をアリエスは必死でくぐって進んで行く。
もたもたしてはいられない。
早く目的の部屋に入らなければ――。
「あっ……」
これ以上ないほどに息を切らせて。
アリエスは最後の力とばかりに床を蹴る。
目前に制御室が見える。
しかし、今にも扉が閉じてしまいそうで、もう隙間がほんの僅かしか残されていない。
「ダメ……諦めない」
断念してしまいそうな心を振り払い、思い切り床を蹴る。
分厚い防護扉が閉じる寸前に、アリエスは制御室へと滑り込んだ。
まさに紙一重。
自分でもどう体を捻ってあの隙間を通ったのかよく分からない。
背後で鍵がかかる機械音が聞こえたところで、やっと胸を撫で下ろした。
「た、助かった……」
満身創痍。
体中の力が一気に抜けてしまったアリエスは、ドサリと床に手をついた。
額から流れ出る汗も構わず、ぜいぜいと全身で呼吸をする。
この部屋は世界を統べる中枢演算処理装置〈ニュークリアス〉の制御室。
他の扉よりずっと頑丈で重い扉だったのだろう。
閉まる速度が僅かに鈍かったお陰で、どうやらアリエスは助かったようだ。
「ほんと、もう、危なかった」
ここまで来る旅の道程で何度も偵察ビットを目撃したことはあったけれど、実際に警報を発令されたことはない。
進行妨害ビットとの戦闘など言うまでもなく初体験だ。
AIであるスウィンザは戦闘機能も万全で、だからこそアリエスの護衛兼監視役なのだとは分かっていた。
しかし、彼が戦う姿を初めて目撃したアリエスは、気が動転してしまい少し出遅れてしまったのだ。
だから無事に目的の部屋に入ることができて、心から安堵していた。
ここまできて自分が殺されてしまったら、スウィンザに申し訳ない。
「……この部屋」
呼吸がおさまったアリエスは、ゆっくりと立ち上がり周りを見回してみた。
白い部屋。
幾重もの防護扉に遮られているせいか、外の音はまったく聞こえてはこない。
ブォンブォンと、静寂な空間に規則正しい機械音が響いているだけ。
あまりの空虚さに何かを制御する場所であることなど忘れてしまいそうだった。




